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七話
しおりを挟む「あー…どうするかなこれ。」
目の前のどろ池を見やってため息が出る。
狼、草原ウルフか。を倒すために必死だったとはいえ…やりすぎただろうか??
自分の足元の地面も濁流で少なからず削られて当初より狭くなってる。移動が必要だ…
うーん、一番簡単なのは揚力を使って池を飛び越えることだけど、あんまりうまくいく気がしないなぁ。バランス崩してボチャンする未来が視える…
浮き方が難しいんだよな…いや、待てよ?
浮き方。浮き方か。浮力ならどうだ??
ティン『浮力を得ました。魔力に統合します。』
よっしゃ!勝つる!!
早速、浮力に集中して魔力を込める。少しずつだ。
魔力をじわりと放出したと同時にフワリと身体が浮いた。揚力と違い自力でバランスをとる必要もない。
よし、成功だ。地面から五十センチ程浮きながら池の外に移動する。
どろ池の外の地面に着地して後ろを振り返る。足元が崩れる心配のない地面ってのはこんなにも安心感があるんだな。
後片付けしなくちゃ…。へたり込みたくなる体を叱咤して起こし池に近づく。
まず、浮力で草原ウルフの死体を池から引き上げる。
ぐったりとした体や、マズルから伸びる長く青い舌から微妙に視線をそらしつつ、池の外に並べる。
アンテッドになる可能性もあるかもしれないのでこれはそのままアイテムボックスへ。
どこかで焼き払おう。もしくは売ろう。売れたら、だが。
アイテムボックスへの移動もイメージで簡単に行えた。
目の前から死体が消えて少しほっとする。
さて。
池から水を抜こう。落とし穴を作った時と同じように、イメージを思い浮かべる。周囲の地面に吸い込まれるようにしてなくなる水分。そしてそこに、土を設置。
…一応地面は平らになったな。
実際は草原の中にいきなりドーナッツ状にむき出しの地面がある状態になっているのだが。
…大丈夫だろ。しばらくすればまた草原の景色に戻る。うん、多分。
しかし、今回出したり消したりした水や土は、どこから出てきてそしてどこに消えて行ってるのだろうか…?
謎だ…
体内に残る魔力?もまだ薄まる気配は無い。絶体絶命のピンチだったので魔力の大盤振る舞いをしてしまったが、よく聞く魔力枯渇などの気配は無さそうだった。魔力チートで良かった。ほんとに良かった。ありがとう女神様。
さて。先の流れでの一番の謎は、草原ウルフになぜ気づかれたか、だが…
片づけ終わり、脱力してふらつく足を村に向って動かしながら考える。
距離はかなり空いていた。草原ウルフが並外れた嗅覚・聴覚を持っていたとしても、匂いや音で気が付いたとは思えない距離だ。
よくよく思いだせば、草原ウルフは、私が詳細をオーダーした瞬間に足を止めた。
その時、私からの関与に気付いたと考えればおかしくない行動だ。自分に関与してきた魔力に反応しての行動ならば納得がいく。つまり、鍵は魔力…?
草原ウルフが魔力に敏感なのか。草原ウルフに限った話ではないのか。生き物全般がそうなのか。
ふむ、これも要確認。
グルグルと考えながら草原を横切ってゆく。今のところ周囲に危険な生物はいない。しばらく歩けば土が踏みしめられただけの街道らしきところに出た。
馬車のような乗り物があるのか、幅はそこそこ。草原と比べると歩きやすい。
このままこの街道に沿って歩いてゆこう。村まで、あと二時間くらいだろうか。
夕方というにはにはまだ早い時間なので今晩の宿は村で見つけられるだろう。
一人で黙々と歩く。体力はあまりない方だと思っていたが、能力として体力を手に入れたからだろうかそこまで疲労は感じなかった。
黙々とこれからやるべきことを考える。最優先は今夜のお宿確保。行先のタリス村が良い村で在れば、今夜だけでなくしばらく滞在したい。腰を据えて情報収集したいし、できることなら自分のレベル上げを行いたい。
ステータスにレベルの表記がないので明確な目標は立てられないがとりあえず、先ほどのような急な戦闘にもっとスムーズに対応できるようにはなっておきたい。さっきの戦闘で無事だったのは、たまたまうまくいっただけのまぐれだ。
情報収集は、タリス村が良い村かどうか、がまず気になる。滞在するかどうかはここの判断にかかっている。あとは、この世界の情勢。どういう国があって、どういう関係性で、タリス村はどこに所属しているのか。
文化レベルはどんな感じか。よく読んでいた転生ものでは中世ヨーロッパあたり世界観が多かった。この世界もそうなのだろうか?
知りたいことは山ほどある。
まず、この世界の文化になじまなねば。決意を新たにしたその時。
周囲10キロ程度範囲を見れるように拡大していた地図の隅っこの方、私から見て後ろの街道に青い点が現れた。それは見る間に数を増やしこちらに向かってくる。固まって同じような動きをしながらそこそこの速さで移動しているところを見ると馬車か何かの乗り物に乗っているようだ。
周りを見渡すが、見い渡す限りつい先ほど出てきたちらほらと木が生えただけの草原があるだけだ。もう少し歩けば草原の端に見えた森にぶつかるだろうが、まだまだ先だし街道からも少し距離がある。隠れられそうな場所がない。しまったな、もう少し範囲を広げてみておくべきだっただろうか。
木の後ろにでも隠れようかとも思ったが、一番近い木でも全力で走っている間に馬車に追いつかれそうな距離だ。ふむ、街道だから人が行き交うのもよくあることだろう。落ち着いてやり過ごそう。幸い、同方向に向かっているので顔を見られることもない。そう考えればやり過ごせそう…か?
表示されているマークはブルーなので、危険はないということ。馬車だろう乗り物に乗っている時点で人だろう。話ができる…はず。盗賊ということもない…と思いたい。いや、近くに来て心変わりとかもあり得るのか??
草原ウルフの例もある。マークは前提として生死に関わらないものが除外されている。裏を返せば生死に関わる可能性があるから表示されているのだ。
やばいか?うーーん、擬態。擬態とかできないもんだろうか。うーん、馬車が通り過ぎる時間だけでいいからそこら辺の石になりたい。贅沢を言えば、草原を駆けるさわやかな風とかになりたい。周囲に溶け込みたい。なんだろう、能力としては擬態力?変身力?
…ティンとこない。やばい。擬態力や変身力は能力として得られないのか。まあ、確かにしっくり来る単語じゃないもんな。
うむむ、隠蔽力。カモフラージュ力。迷彩力。いや、迷彩力ってなんだ。
心の中でグルグルと考えながら速足で歩き続けるが、あの軽快な能力付与の音はしない。大丈夫だ何も起こらないと自分を落ち着かせる一方、そうこうしている間に近づく馬車と私の距離に不安と恐怖が駆り立てられる。
焦りながらも、情報を得ようとマップ上で馬車を拡大する。馬車の御者台に2人、荷台部分に3人。5人。
どうか。どうか、そのまま何事もなく走り去ってくれ。
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