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六話
しおりを挟む流石に、これ以上時間をかけるのはまずい。
村にたどり着けなくなってしまう。この世界の人に会うのは、ちょっと怖いがそれ以上に野宿はもっと嫌だ。
タリス村の方角を地図上の木の表示とと周りの木の位置を見比べ割り出してから歩き出す。
「あ。」
そうだよ、揚力やっほいとか言ってる場合じゃなかった。
大事な能力の取得を忘れていた。これがあるのとないのでは人生がイージーモードから超ハードモードになるくらい違ってくる。
必須能力じゃないかな?
そう、ほら語学力。
第一異世界村人に無事会えても喋れないんじゃ文字通り話にならないし。
意思疎通が出来ないなんて、勇者になるならない関係なくそこで人生積みだよ。
ティン『語学力を得ました。知力に統合します。』
あっぶね。ありがとう、女神さま。
派生として、語彙力もとっておこう。
ティン『語彙力を得ました。知力に統合します。』
うん、よし。ありがとう。
ウキウキしながら、歩いていく。地図を見る限り夕方にならないうちにタリス村に着くはず。多分。
歩いている時間も色々な情報を検索しては確認していく。まず、地図を最大まで縮小。イメージは世界地図。
ついでに、ウィンドウを目の前ではなく頭の中に展開するようにイメージしてみる。
歩きながらウィンドウ見るとか危ないしね。
頭の中に地図が展開されていく。本当にイメージ次第で何でもできるな…
すごい。それにウィンドウで見るより鮮明だ。
頭の中に展開されたこの世界の地図を見てみると、大きな大陸が4つ程見える。他にも大小様々な島。
今私がいるのはその中でも二番目に大きな中央からみて左よりの逆三角形の大陸にいるらしい。
今いる大陸を確認して更に地図を縮小していく。この世界も地球を同じように丸いのか知りたかったからだ。
うん、丸い。地球と似ているらしい。
そして、前の世界と同じように北、もしくは南に向うと寒くなるのだろうか?
色合いを見る限りこの星の球体…これも地の球には変わらないから、地球でいいか。地球の上と下の地域は寒冷地らしく白くなっている。
私がいた地球と本当にあまり変わらないな。
もといた地球との類似点が結構あることにほっとする。
…まぁ、明らかに地球では見かけないような地形もあったりはするんだが。ちらっと見ただけでも六か所ほど…
最大の大陸に二つ。あとは、それぞれの大陸に一つづつ。そして、南海の真ん中にポツリ。
地球表示で見てもわかるほど異常に黒い森とか。南海も同じように黒い部分がある。
あとは、三角形を形どる山脈が二つ。それぞれ別の大陸にある。ちょうど上下が逆になっている。
あとは、異様にきれいな円形してるでかい湖とか…南海の真ん中に明らかに海面がそこだけ低そうな部分とか。しかも四角形だ。どうなってんだ、仕組みが分からん。
絶対なんかあると全力でアピールしてくる地形。ザっとみてこれなら詳しく見たらもっとあるぞこれ。
これは…あれかな。ダンジョン的なやつなのかな??勇者の装備とか守ってるレベルのやつ…?
まったく無関係なら見に行ってみたい。観光でならね??
でも、ダンジョンです。クリアしてくださいとかなら絶対行きたくない。
複数の中ボス倒してから、ラスボス対戦みたいな守りの堅い感じのやつだよね…
絶対、強くなってからじゃないと行きたくない。…訂正する。強くなっても行きたくない…
でも、勇者なら行かねばだよね…これだけのチートもらってて勇者じゃないよとかないと思うんだ…マジか…
せっかく生き返ったのに…死にたくないぜ…
強くならねば…
歩きながら時間つぶしに情報収集をしていたら、自分の人生に絶望していたという不思議。
ふふ、不思議だね…
「ふふふ…マジか…」
先人は良いことを言いました。笑とけ、笑とけと。
いや、これは芸人さんの言葉だったかな?私の好きな言葉だ。
唇に薄い笑みを張り付け、力無く笑いながら次の情報を集めはじめる。
はたから見れば間違いなく不審者だな。まあ、良い。次は、これから行く村までの道のりの詳しいところだ。
ここまで、私はまっすぐ草原を歩いてきた。地球とは別にミニマップを表示してそこに自分を示す黒いピンを置いて村までの最短距離を歩いてきたのだ。
と。困ったことになったのに気がついた。地図に表示される青い点‐生命の危機に関連する生き物‐があったらできるだけ遠回りで回避しようと思っていた…のだが。
草原の端にいた青い点の群れがいつのまにか移動し丁度このまま進むとぶちあたりそうなのだ。
…ふむ。いまから遠回りかするか?しばらく待ってその群れが通り過ぎるのを待つという手もある。だが、その分村に到着するのは遅くなる。
うーん、様子を見ていけそうなら戦闘してみるか…
草の間に座り込むようにして身をかがめる。ポシェットの外ポッケからナイフを取り出し刃を出しておく。
集中して。ミニマップの青い点の群れに範囲を指定。詳細をオーダー。オーダーと同時に群れの動きが止まった。
頭の中に群れの詳細が送り込まれてくる。これは、、狼?
『草原ウルフ 草原に住むウルフ。群れを作り行動する。』
この群れは5頭だったらしい。
狼5頭…無理だ…
せめてそこはスライムとかさぁ…
せめて、せめて単体とかじゃない…?
よし、時間がかかってもいい。遠回りしよ。
勝てない戦はしないに限る。そっと、立ち上がり群れの進行方向とは逆方向に歩き出す。
すると、オーダーの後からその場にとどまりウロウロとした動きをしていた群れが何かに気づいたのか、私の方向に向かって進んでくる。…え?
最初は、そろそろとしたスピードだったが、徐々に走り出し見る間にトップスピードにのった。
「嘘でしょっ…」
まずいッ…気付かれた!!なぜ!?
暴れだす心臓を抑え込んで、迎え撃つために必死に頭を回す。
走って逃げるのでは間に合わない。どうする、どうする!?
知らず上がり始める呼吸を、意識して深呼吸してむりやり落ち着かせる。
よし。集中!!
魔力を周りの地面になじませていく。発動はまださせない。イメージはできるだけ細かく練り上げる。
イメージは二つ、連続した流れで。
範囲は私の周り十メートルほど。
必死でイメージを練り上げる私の目に狼が見えた。向こうも気づいたのだろうスピードを落とし私を囲む様に群れを展開してゆく。
あっという間に周りを囲まれる。
落ち着け。力が向けそうになる足を叱咤しナイフを強く握りこむ。
落ち着け。私は勇者。私はチート。こんな所ではまだ死なない。死ねない。
ジリジリと近づいてくる狼たち。頭を下げいつとびかかってきてもおかしくない。
喉から漏れ聞こえるうなり声がこちらの思考を邪魔してくる。
もう少し、もう少しっ。
目の前の一頭が、足元を強く踏みしめた。
今!!
全身の力を抜いて、その勢いのまま両手で全力で地面をたたく。
地面のどこかが鈍い音をたてるのを聞いた。
そして。
周囲の地面が消える。範囲は私が今座り込んでいる部分を除き魔力を流し込んだ部分全部。
ちょうど狼たちがいた場所だ。今私の周りにはドーナッツ型に穴ができている。
私にとびかかろうとしていた狼たちがバランスを崩し穴の中に消えてゆく。…うまいこと全部落ちてくれたらしい。次だ。
流れるように思考を連続させる。
水。穴を満たすように。回転をかけて。ぐるぐると。
瞬間、穴に落ち混乱する狼を大量の水が襲う。とっさに水から逃れようとあがくが、水の勢いに体制を整えることもできず周りの土を削ってできる濁流に飲まれていく。
私も体制を整える隙を与えないよう、ひたすらぐるぐると水を回してゆく。
ドーナッツ型に沿うように回していた水流に、さらに穴の上下を入れ替えるような回転を組み合わせてゆく。
穴が、外へ外へと削れてゆく。少しでも気を抜くと回転の勢いのまま池の外に水が飛び出しそうだ。
どれくらい時間がたったかは分からないが、必死で魔力の制御をするうちに狼が一頭、また一頭と力尽きてゆく。
最後には、濁流の合間にたまにチラリと黒い毛並みがのぞくだけになっていた。
もういいだろうか…?
そっと魔力の放出を止めると、水流が見るまに勢いを失い。私の周りには幅八メートルほどの円形をした茶色い池が広がっていた。
お、終わった…??
池にプカリと浮かぶ五つの黒い毛並みがしばらく待っても動かないことを確認するとほっとして足から力が抜けた。
最初に落とし穴を発生させる時にしゃがみ込んでいたが、完全に地面にへたりこんでしまう。
「ふふ…しんど…」
乾いた笑いしかでない…が、後片付けが待っている。
ヨロヨロと立ち上がり、まずナイフを元の場所に戻す。
そして…
「どうすべこれ…」
自分の周囲360度に広がる、橋もなにもないどろ池をみてため息をついたのだった。
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