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三話
しおりを挟むえ、ちょっと待って!?女神さま!?女神さまーーーー!?
端から消えていこうとする体に抵抗するように、一生懸命大声を出した…つもりだった。
が。
口から意味のある言葉が出ている感覚は無かった。
暗転する視界に思わず体に力が入る。一度、何かを突き向けたような感覚が体を襲い、
その衝撃を体を丸めてやり過ごして…
しゃがみ込むような状態で息をひそめた。
気が付くと、足にサヤサヤとあたる草の感覚を拾っていた。恐る恐る立ち上がり周りを確認すると…
草原。
草原が…見渡す限り明るい緑色が、目に飛び込んでくる。
ポツリポツリと木が生えているところはあるが、木同士の間隔は離れている。
晴れ上がった空には雲が流れ、感覚的には夏の、それも初夏の様なさわやかな青空が広がっている。
「え。えええ…。うそーん…」
ちょっと、気持ちの整理がつかない。ちょ、ええぇー。
最後聞こえた女神さまの「あ」が最高に不安を掻き立ててくれる。
あって、あ。って。
人との会話の最後に聞いたら不安になるワードベストテンに堂々ランクインするくらい不穏なワードじゃない?
ランキング一位だと言われても納得するレベルだぜ???
あぁ…あの女神さま、しっかりしてる様に見えたんだけどなーー。
いい女感バシバシ出してたんだけどなー。。見かけ倒しだったかーーー。うっかりさんだったかーー。
グルグルと考え込んでいると、不安が一周して逆に落ち着いてきた。乾いた笑いしか出ないというあの状態だ。
「あははー、これはー…やばいんじゃないかいーー?」
とりあえず、乾いた笑いを声に出し不安を抑え込む。よし、現状どうすべきかを考えることにしよう。
えーと、よく転生もので見るのは、異世界到着早々モンスターとばったり出会っちゃうパターンだよね。
今のところ、見渡す限りそんな気配は感じない。ポストカードにしたらよく売れそうな見事な景色が広がるばかりだ。
けど、油断はできない。日本生まれの現代人の感覚はサバイバルが必要な環境下においては貧弱極まりないだろうから。
とりあえず、安全な場所をみつけて情報を整理したいな。
というか、これ転生…か??自分の体の感覚を確かめてみるが、多分大人だし。
転生って、大体赤ちゃんとか、幼児の状態でこの世界の家族に囲まれて始まるものじゃないのかい??
一人…だぜ?
…寂しいぜ?…不安だぜ?
…転移…かな?
…転生ちゃうやん!!女神さま!!いいけどね!?異世界で二度目の人生は嬉しいから良いけどね!?
転生ヤッホーってなってた私をガッカリさせないように話を合わせてくれてたのかな!?
ただ、うっかりって可能性も…いや、あの女神さまならその可能性の方が高い気がするな…
ていうか、お願い事ってなんだったんだよ…そのお願いを聞くかわりに転生、いや転移か。させてくれるって感じだったじゃん…あんまり…無茶なお願いは…嫌だぜ…?
やっぱり、定番の魔王退治パターンなのかな??とりあえず、できる限り戦力あげ頑張ろう…
まぁ、良いや。ここで、ぼんやり絶望していても何も始まらない。
とりあえず近くの安全そうな場所に…
キョロキョロと辺りを見渡し、一番近くの木を目指すことにする。
歩き出したところで、腰に違和感を感じた。見ると、ポシェットのようなカバンが腰に巻いてある。
お。これは。女神さま直々に用意してくれた便利アイテムとか入ってるパターン??
だとしたら嬉しいな。楽しみだ。
心細い気持ちが少しだけ上を向く。
ポシェットの中身は、木についてから見るとして。そのほかを歩きながらざっと確認する。
まず、自分の体。…完全に大人だ。目線が大きく下がることも上がることももなく、大体死ぬ前の自分の身長と変わらないのではないだろうか?そして、性別も同じ。女性。
年齢や、顔立ちはまだ確認できないが手の平のお肌の張りを見る限り若返っている。。
…やった。単純に嬉しい。もとの世界では三十代だったので若さの有難みが身に染みる。
というか…この手の小さい感じ、指の短い感じ…完全に前の私のままじゃないかい??
ふむ。前世で、吸っていたタバコにより真っ黒になっていただろう肺も若返っているのだろうか??
ああ、いけない。思い出したらタバコを吸いたくなってきた。この世界にタバコってあるんだろうか??
探そう。タバコは私にとって精神安定剤だ。ないと駄目だ。
どうしてもない場合は…女神さまに相談かな??
タバコを止めるという選択肢は私の中にはない。禁煙化の荒波に負けない私の心はタバコに関してのみ鋼である。
あとは、あまり変わってないように思えるな。腰の位置とか…胴回りの太さとか…腕の振袖具合とか…太ももの隙間の無さとか…
…泣いていいかい…?いや、泣かないけどね…??
…ちょっとガッカリしつつ、まあそんなに至れり尽くせりではないよな。と思いなおす。
ま、まあ、気を取り直していこう。足の長さは変えれないが、体形は頑張ればなんとか…頑張りたくなった時に考えよう。うん、そうしよう。
前世でいわゆるデブと呼ばれる体形だが、生前もあまり気にしていなかったのでここでも深くは考えない。
そうゆう体形の人が好きって人もいたしな。
つらつらと考えながら歩き、チラリ、服に目をやる。
これは、一瞥しただけで分かった。死んだ時に着ていた服一式だ。仕事中だったため、いわゆるオフィスカジュアルな服装をしている。オフィスカジュアルと言えば聞こえはいいが、仕事用に用意したこれらは私にとって作業服のようなものだ。
動きやすいストレッチ性の高いパンツにタートルネックの長袖。これにごくごく薄手のカーディガンを羽織っている。暑い時期以外は、大体この格好で過ごしている。
冬は、これの下に防寒用のインナーが上下で追加され、カーディガンが分厚くなる。
いつも同じ服だといわれないように、それぞれ色のバリエーションだけはそれぞれ三色ほど揃えていたが、今回は、上下ともに黒で、ニットは薄いオフホワイトだ。
靴は、お気に入りの履きやすいローファー。これも色違いで三足。服に合わせたのだろう。無難に黒だった。
左手には、仕事用に愛用していた大きめ文字盤の腕時計が巻いてあり、パンツの尻ポッケには、なんと携帯と財布が入っていた。確認は後でしようと、とりあえず尻ポッケの上からポンポンと携帯と財布の形を確認するだけにとどめておく。本当に死ぬ直前の格好を忠実に再現しているのだろう。
もしやと思いつき、パンツの右のポッケを触ってみると…あった!!これは!!タバコ!!
ありがとう神様!!いや、この場合女神さまか。ありがとう、女神さま!!
タバコの残りがあとどれほどだったかが不安だが、右手がタバコに触れた瞬間、不安が払拭された。
勝つる。我、勝つる。
異世界で、この情報不足で不安ななかで、一服できる。それだけでかなり嬉しい。
実際には、タバコがあるからといってそれが何に役立つわけでもないし、健康に悪いし、そもそも喫煙する時間自体が無駄、というのは承知の上だが、精神安定剤の役割は大きい。かなり心に余裕ができた。
周囲を警戒しながら歩いていた足取りも軽くなるというものでる。
いまのところ、周囲に生き物らしき気配は無い。襲われる様子も今のところ無いようだ。
遠くの空に、鳥らしきなにかが飛んでいるのは見えたが、距離的に安全だと判断した。
…鳥、だよね?この世界の生態系をまだ知らないので不安が残る。
遠くの空に浮かぶ鳥らしき何かや、空を吹き向ける風に草が煽られる様子にびくびくしつつ、歩いて数分。
最初に居た地点から見て、一番近くの木の近くにたどり着いた。
とりあえず、木を全体的に観察する。安全な場所を探して移動した結果、安全だと思った木の周囲が一番危なかったです。では笑えないからだ。
生き物が隠れていないか木の根元、幹、枝の分かれるあたり、葉先までじっくりと観察し、そもそもこの木自体がモンスターだったりしないか?と注意深く見つめる。
…いるかもしれないじゃん?木の精霊的なものとか、木の魔物だったりとか。
しばらく、じっと見つめ、離れたところに生えている木とも見比べる。
なんとなく、同じ種類の木のようだ。…なにかがいるような気配もないし、大丈夫…かな??
それでも、木に精霊がいたり、魔物だったりすると怖いので、木が作る陰にはぎりぎり入るが木からは少し距離がある、といったところに腰を下ろす。はやく生態系を確認しなければ、安心して休んでられない。
「よし。」
この世界の知識に関する確認も大事だが、まずはこの場所の安全度をもっと高めることにしよう。
長時間使えるバリアのような魔法があればいいのだが。女神さまが与えてくれたらしい知識に期待しよう。
まずは…
「ステ-タス」
…おお。
フィンと目の前に半透明のウィンドウが表示される。
うわぁ、便利。わくわくするなぁ。
なになに…
名前 糸川 美咲
加護 力の素
称号 女神のギフト
…うん。え、これだけ??え?…え?
レベルとか、スキルとかは??あ、加護がスキル扱いなのかな???
称号も気になる…
あと、こういうときって、HPとかMPとかも表示されるんじゃないのかい??
あとなんだっけ、賢さとか、俊敏さとか…?
ウィンドウを見つめてあまりに少ない記載に少し呆然としてしまう。
ウィンドウ枠内を隅から隅まで見渡しても、スクロールしてみても書かれている内容は、先ほど確認した内容だけしか見当たらない。
思わず、頭上に広がる青空を見上げる。見上げたところでもちろん何も起こらないが。
高く広い青空が目に染みるだけだ。
う、うーん…女神さまは知識と魅力は約束してくれたし、魔力もついてもなんだか悩んでいたようだがつけてくれていたはず。
考えるんだ。鍵は、多分加護の力の素。
これは、あれか?知力、体力、気力とか最後の力とつくものすべての素ということだろうか??
リクエストした魔力も最後に力つくしな。
ティン『知力を得ました。』『体力を得ました。』『気力を得ました。』『魔力を得ました。』
小さくベルの音がして、ウィンドウの下に新たな記載が表示される。
と、同時にステータス部分の表示も変わっていく。
名前 糸川 美咲
能力 知力 体力 気力 魔力
加護 力の素
称号 女神のギフト
お?…これは、もしかして…
魅力も力つくよね?じゃぁ、魅力の関連で交渉力とかも??
ティン『魅力を得ました。』『交渉力を得ました。』
よっし!!ステータスにも変更があらわれている。
名前 糸川 美咲
能力 知力 体力 気力 魔力 魅力 交渉力
加護 力の素
称号 女神のギフト
ふむ。とりあえず、語尾に力がつくものを思い浮かべればそれがそのまま能力として付与されるってことなのかな??ただ、能力の欄に記載されているだけなので、どの程度使える能力かまではまだわからないが…
付与ではなく、ただもともと持ってる能力を記載しただけという可能性もある…が。
付与されたと考えるなら…
…これ、もしかしなくともかなりチートな加護じゃないか??
私が認識さえすれば、その能力が次々に手に入る…ほほーん…
まあ、とりあえず今はここまでだ。
能力の追加を自分でできることは分かった。色々試したいことはあるが、今すべきはこの場の確固たる安全確保。
まず…この周辺の安全度と木の詳細、あと自分で身を守る方法をしりたいよね。
えーーと、知力で、周辺のマップとか、生き物分布とか見れないかな??
ステータスに表示のある知力をタップしてみる。
『知にまつわる力。所持者の要望に沿う。』
新しい情報が表示される。
ほほう。私の要望により沿ってくれるのか。さっきも思ったが、本当にチートだな。
では、と早速要望を思い描く。周囲の地図とそこに息づく生き物の表示。
あと、生き物に関しては、危険度の表示もだな。青・黄色・赤の表示で、青が安全、黄色が警戒、赤が危険。
よし、とりあえずこれで。オーダー!!なんちって。
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