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愛に囚われた天使~シャルスティーヤ~

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 兄が魔界でしていたこと、下位の天使に強いていた行為、それは性交だ。愛情ではなく肉欲を追求するためだけの。淫欲の欲望に最高位の天使が堕ちたのだ。誰よりも誇り高く、優しく麗しかった兄だったのに。

 闇に囚われてしまった最愛の兄に。どうして、魔界があるのだ。どうして、兄が背負わなくてはならないのだと。

 万能たる創造主に対して初めての憤りのような感情を知ったあの日、居ても立っても居られずに光の神殿へと足を向けた。

 領域自体が霊域とも言える聖なる天界にあえて設けられている霊堂で。

 外部からの接触を全て取り払い、ただひたすら創造主と繋がるために祈り、降りてきた光の波長に厳かに頭を下げた。

 『シャルスティーヤ、我の天使よ。我は常にそなたとともに。尋ねるがよい』

 穏やかでありながら、威厳に満ちた念に静かに応じた。

 『創造主よ。なにとぞ私の願いを叶えたまえ』

 『願いとは?』

 『兄ではなく、どうか私に魔界の管理をお任せ下さい』

 ゆらゆらと輝きを放つ高次元の光の波へと申し出た。

 『兄、ヤヌスティーヤには……荷が重いと思われます。ですから、どうか私に魔界の管理を』

 嘘偽りなど一切ない心からの願望。だが、返ってきた答えは意外なモノだった。

 『ヤヌスティーヤもそう願い出た』

 『!!』

 『我が、ヤヌスティーヤかそなたのどちらかに魔界を任せたいと伝えた時、そなたではなく、自分に・・・と口にした』

 『そ、そんな・・・』

 『そなたでは荷が重いと。魔界は自分が背負うと』

 創造主の言葉に。あぁ・・・とシャルスティーヤの瞳に涙が溢れ出た。いつだって、自分を想ってくれる気高き優しき兄だったのだ。それが――

 『主よ、愚かなる・・・愚かなる私の問いかけをどうかお許し下さい。教えて下さい。何故、魔界が必要なのでしょうか』

 『シャルスティーヤよ、無の光から生まれた者よ。我は世界が「ある」ことを望んでいる。有限なる、もろく儚くこの美しい世界を。我から旅立った光の御霊が旅をし、光の源に戻って来る時を我は待っているのだ。この物質世界を作るために。維持するために。闇をあえて作った我を許せ』

 主の創造がなければ、今、自分はここには存在していない。全ての根源なのだ。その意向に許せも何も異論など、あるわけがない。

 『ならば・・・ならば・・・今からでも・・・私にも魔界の管理を』

 『シャルスティーヤよ、我の愛しき大天使よ。我が大天使を二体作ったのには訳がある。有限なる世界の調和を保つためには、表裏一体の存在が必要なのだ。光と闇の。そして、ヤヌスティーヤが闇を背負った』

 『あぁ、主よ・・・なんたるお言葉・・・』

 涙が零れ落ちて止まらない。

 『私に兄が堕ち続けるのをただ見ていろと・・・?』

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