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愛に囚われた天使~シャルスティーヤ~

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 シャルスティーヤが美しい額をぽわんっと黄金色に輝かせた。

 我もまた愛を求める一個の個体なのだ――そのことを。これほどまでにこの身でもって実感することになるとは。

 感じ入りつつも天の眼を使って、まずは、黄金の矢で射貫かれた存在がザルキスの力を借りて、魔獄谷へと逃げ落ちたのを確認する。と、次に手にした魔鏡を見つめた。

 『シャルスティーヤさまは!?』

 視線の先では、魔鏡の力で忘却の河へと舞い戻った者が必死に自分を求めている。

 床に崩れ落ちるようにしながらも真っ先に問いかけたその様を見つめて。空色の瞳に情愛が溢れ出た。

 (ラシュレスタ・・・)

 全身全霊をかけて自分を守ろうとしたのだ。愛しくてたまらない。

 『ご無事でありんすよ。魔王を撃退したでありんすよ』

 アブラハムの報告にホッと脱力し、途端にその琥珀色の瞳からハラハラと涙を零した。よかった・・・とつぶやきながら、力尽きたように倒れこむ。

 (あぁ・・・)

 なんて、愛おしいのか。すぐさま会って抱きしめたい。だが、さすがに今はできない。万感の想いをこめて鏡に唇をつけると聖気を注いだ。

 『あっ・・・』

 魔鏡の向こうから驚きと悦びの声が上がる。伝わったのだ、愛しい者に、この霊気が。や否や、バッと翼を広げて飛び立った。

 感傷に耽る時間はない。すぐさま浄化しなくてはならないのだ。常に中庸でなくてはならない、この中間の領域を。次に妖精界を、そして人間界を。

 邪気に偏ったまま放っておくと災害が連動して広がるのだ。放置はできない。キラキラと輝く光の粒子を黄金の翼から撒きながら、既に作業を始めている天使たちの元へと向かい始める。

 それにしてもまさか、これほどまでに暴走するとは。それはまるで、徐々に徐々に膨らんで進んだ浸食がある種の臨界点にまで達したかのようで。

 手のひらから浄化の光を放ちつつ、想いを寄せる。兄たる存在に。あれはもう、どのくらい前の話になるのか。もはや遠い記憶でもある――脳裏に過去の時間が蘇った。

 『兄上、また魔界に行かれるのですか?』

 背中を見かけると、いつだってそうすかさず声をかけた。

 『魔界の管理は我が創造主より承っている役目だ。何が言いたいのだ』

 いつしか反論の出来ない言葉でぴしゃりと遮断されるようになって。複雑な心情で、足繁く魔界へと出向く兄の姿を見守り続けた。美しかった兄が闇に侵されていく姿を。ただただ見守った。

 やがて――同行させた天使の数体が魔界から戻ってくることはなくなり、尋ねてもとぼけるようになりと。天の眼で見抜けることを知っていながら、嘘をあからさまにつくようになった――

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