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忘却の河のほとりには
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ジャラララララーーッ!!
間髪入れずに、闇色の鎖が放たれる。逃げられないように両腕に巻きつけて拘束した。
「おぉ、シャルスティーヤ、シャルスティーヤ、シャルスティーヤよ・・・」
魔王が感極まった様子で、バチバチバチッと聖なる火花を激しく飛ばす、その身体にグーッと接近する。
「兄に逆らうでない。逆らうでない。そなたの美を損ねたくないのだ」
キラキラと黄金に輝く髪を。不浄な手が、ザシュッ!! と攻撃を受けながらも掴み上げる。
「このまま、我が城で愛し合うのだ・・・このまま・・・」
唇を寄せる。また、ザシュッ!! と裂傷が走った。ボタボタと体液が滴る。
『天使・・・捕マエタ・・・オレガ・・・噛ンダカラダ・・・オレノ毒・・・ノオカゲダ・・・』
「黙れぇ。噛めてなどおらぬわ・・・噛んでたら、うぬなどいないわ。邪魔するな」
肩から割りこんだザルキスに魔王が露骨に不快さを表した。誰であろうと邪魔されたくない。
シャルスティーヤが降参したかのように翼をたたんだ。
「おぉぉ~ シャルスティーヤ、我の愛しい弟よ。そうだ、もはや、気兼ねはいらぬ。存分に愛し合おうぞ」
「ザルキス・・・」
魔王の問いかけを無視して、シャルスティーヤが口を開いた。
「我の中に入りたいか?」
『!!』
「な、なにを言っておるのだ、そなたは・・・」
魔王が激しく動揺した。
「どうだ、ザルキス?」
『天使・・・オレ二・・・食ワセル・・・気・・・ナノカ・・・」
食わせるのではない。取り入れるのだ。自己中心的な発言に、シャルスティーヤがフッと笑みを浮かべた。
「兄上・・・我は、いつだって代わります。いつだって・・・」
美しい空色の瞳は魔王を見ているようで、その深部を見ている。魔王の体内に沈みこんだ黄金の細片が陣を作り、揺り動かしにかかる様を。
「シャルスティーヤ、そなた、一体・・・」
「我が兄、ヤヌスティーヤよ。もし、おつらいのならば・・・永らく担って頂きましたが、そろそろ代わりましょうか」
その眠れる神性へと問いかける。だが、答えは既にわかっているのだ。
無の光から生れた、対極という有限を。創造主が意図的に物質化した世界を維持するために、自ら魔界を担った兄なのだ。
元より、交代など許す兄ではないのだ。自分が逆の立場なら、絶対に許さない。ゆえに、兄もまた許すわけがないのだ。
「兄上・・・いかがですか?」
だから、この問いかけはあくまでも掘り起こすための一種の儀式なのだ。
応じるように、ユラユラと輝く黄金の陣の間に、ふわっとある容貌が表面化した。それは麗しき兄の姿だ。
(シャルスティーヤ・・・)
その優しいまなざしに。高貴なる輝きに。シャルスティーヤの目頭が熱くなる。
(我が弟よ・・・そなたの願いは我の願い・・・)
フッと微笑むと、また光の波へと沈んだ。
(あぁ・・・今のは・・・)
どういう意味の言葉だったのだろうか――シャルスティーヤが掘り下げようとしたその時、
「ダメですっ!! そんなことは絶対にダメですっ!!」
ザルキスに破壊され、飛ばされた右腕の防具の。そこから外れたまま、宙に浮かんでいた小さな魔鏡から。
その魔鏡から、魔鏡本体を通して見守っていた者が、いても立ってもいられずに現れた。
「そんなのは、いやだ。いやです・・・そんなことは・・・」
目の前の存在がいなくなるなんて。耐えられない。どうか、それだけはやめて下さい。琥珀色の瞳がポロポロと涙を流した。
間髪入れずに、闇色の鎖が放たれる。逃げられないように両腕に巻きつけて拘束した。
「おぉ、シャルスティーヤ、シャルスティーヤ、シャルスティーヤよ・・・」
魔王が感極まった様子で、バチバチバチッと聖なる火花を激しく飛ばす、その身体にグーッと接近する。
「兄に逆らうでない。逆らうでない。そなたの美を損ねたくないのだ」
キラキラと黄金に輝く髪を。不浄な手が、ザシュッ!! と攻撃を受けながらも掴み上げる。
「このまま、我が城で愛し合うのだ・・・このまま・・・」
唇を寄せる。また、ザシュッ!! と裂傷が走った。ボタボタと体液が滴る。
『天使・・・捕マエタ・・・オレガ・・・噛ンダカラダ・・・オレノ毒・・・ノオカゲダ・・・』
「黙れぇ。噛めてなどおらぬわ・・・噛んでたら、うぬなどいないわ。邪魔するな」
肩から割りこんだザルキスに魔王が露骨に不快さを表した。誰であろうと邪魔されたくない。
シャルスティーヤが降参したかのように翼をたたんだ。
「おぉぉ~ シャルスティーヤ、我の愛しい弟よ。そうだ、もはや、気兼ねはいらぬ。存分に愛し合おうぞ」
「ザルキス・・・」
魔王の問いかけを無視して、シャルスティーヤが口を開いた。
「我の中に入りたいか?」
『!!』
「な、なにを言っておるのだ、そなたは・・・」
魔王が激しく動揺した。
「どうだ、ザルキス?」
『天使・・・オレ二・・・食ワセル・・・気・・・ナノカ・・・」
食わせるのではない。取り入れるのだ。自己中心的な発言に、シャルスティーヤがフッと笑みを浮かべた。
「兄上・・・我は、いつだって代わります。いつだって・・・」
美しい空色の瞳は魔王を見ているようで、その深部を見ている。魔王の体内に沈みこんだ黄金の細片が陣を作り、揺り動かしにかかる様を。
「シャルスティーヤ、そなた、一体・・・」
「我が兄、ヤヌスティーヤよ。もし、おつらいのならば・・・永らく担って頂きましたが、そろそろ代わりましょうか」
その眠れる神性へと問いかける。だが、答えは既にわかっているのだ。
無の光から生れた、対極という有限を。創造主が意図的に物質化した世界を維持するために、自ら魔界を担った兄なのだ。
元より、交代など許す兄ではないのだ。自分が逆の立場なら、絶対に許さない。ゆえに、兄もまた許すわけがないのだ。
「兄上・・・いかがですか?」
だから、この問いかけはあくまでも掘り起こすための一種の儀式なのだ。
応じるように、ユラユラと輝く黄金の陣の間に、ふわっとある容貌が表面化した。それは麗しき兄の姿だ。
(シャルスティーヤ・・・)
その優しいまなざしに。高貴なる輝きに。シャルスティーヤの目頭が熱くなる。
(我が弟よ・・・そなたの願いは我の願い・・・)
フッと微笑むと、また光の波へと沈んだ。
(あぁ・・・今のは・・・)
どういう意味の言葉だったのだろうか――シャルスティーヤが掘り下げようとしたその時、
「ダメですっ!! そんなことは絶対にダメですっ!!」
ザルキスに破壊され、飛ばされた右腕の防具の。そこから外れたまま、宙に浮かんでいた小さな魔鏡から。
その魔鏡から、魔鏡本体を通して見守っていた者が、いても立ってもいられずに現れた。
「そんなのは、いやだ。いやです・・・そんなことは・・・」
目の前の存在がいなくなるなんて。耐えられない。どうか、それだけはやめて下さい。琥珀色の瞳がポロポロと涙を流した。
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