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忘却の河のほとりには
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それは明確な線引き。
今も昔も双翼の片割れだ。対極である魔界を担い続ける兄であることは違いない。そのヤヌスティーヤの魂に対しての想いは、なにひとつ変わらない。
だが、そのために、どこか曖昧模糊となっていた、兄の外的な側面である魔王ゼフォーへの接し方を。
ここで、その関係性を明らかにしたのだ。魔王ゼフォーと初めて呼ぶことによって。ラシュレスタを自分のものだと明言することによって。
兄と自分の関係と、魔王と自分では違うのだと――その分離を突きつけた。
かたや突き離されるような形となった魔王は、ブルブルと手を震わせ始める。
ぐしゃぁあぁっ!!
光る球から飛び出して。喜ぶように跳ねていた闇の胞子を全て握りつぶした。
「おのれ・・・おのれ・・・おのれぇえぇぇ~」
グツグツと感情が交じり合う。自分が植え付けた隷属の印が見事に取り払われている屈辱と。なにがどうあって排除されたかのその背景と。
「そなた・・・まさか・・・そなた・・・まさか・・・」
ラシュレスタを自分のものだと宣言したシャルスティーヤと。揺るぎなく愛されているラシュレスタへの憎悪と。
「そんなことは許さぬ・・・誰が許すか・・・」
ヤヌスティーヤから派生した自我、魔王ゼフォー。ゼフォー自身もまた、主軸であるヤヌスティーヤから完全に分離し切れてはいない。
「我を切り捨てる気か・・・シャルスティーヤ・・・」
魔王からすれば、依存する最愛の存在からの裏切り行為だ。
地を這うような声とともに、黒いモヤを、ファア”ァァア”ァァァ・・・と吐き出し、暗く澱んだ目で睨みつけた。
「我が背負ったというのにのぅ・・・我が魔界を・・・そなたのために・・・その我に、よくぞ、まぁ・・・」
そう恨みがましく発言する時点でヤヌスティーヤではないのだ。シャルスティーヤが怜悧な瞳で見つめる。
ゴゴゴゴゴゴゴォォォ”ォォォオ”ォォォ・・・・・・
魔王の全身からすさまじい怒気が立ち上がり始めた。
「忘れたのか、シャルスティーヤよ・・・我らは運命共同体、永遠の対なのだ。そなたは我だけのものよ。許さぬ・・・我らの間に入ることなど・・・そなたが我から離れることも」
ビリビリと大気を切り裂くがごとく。猛烈に広がり始めたどす黒い邪気に誘発されて、
ゴォォオ”ォォォォ・・・・・・ゴォォオ”ォォォォ・・・・・・
と大小複数の竜巻が発生した。
ボゴボゴボゴボゴッ・・・・・・・・
砂礫が地表から舞い上がり、
ガガガガガガガガガッ・・・・・・・
岩山がナイフで削り取られるようにたやすく剥がれる。
ゴゴゴゴッガッゴゴゴォォォオ”ォォォーー・・・・・・
大木や巨岩が紙くずのように巻きこまれる、そのすさまじさよ。
轟音とともに光の防御壁の中にまでも風が入りこんでくる。シャルスティーヤの髪が揺れ動き、聖衣がはためき始めた。
「そうよのぅ。この偉大なる兄にそのような態度を取るとはのぅ・・・そなたにはやはり、わからせてやらねばならぬのぅ・・・捕まえて、じっくりと愛してやらねばならぬのぅ」
歪んだ愛情が暴走を開始する。四方に分散して。なにもかもを激しく巻きこんでいた竜巻が、悪しき邪龍に形を変え、シャルスティーヤへと一斉に襲いかかった。
ガァァア”ァァァァァーーーー!!
今も昔も双翼の片割れだ。対極である魔界を担い続ける兄であることは違いない。そのヤヌスティーヤの魂に対しての想いは、なにひとつ変わらない。
だが、そのために、どこか曖昧模糊となっていた、兄の外的な側面である魔王ゼフォーへの接し方を。
ここで、その関係性を明らかにしたのだ。魔王ゼフォーと初めて呼ぶことによって。ラシュレスタを自分のものだと明言することによって。
兄と自分の関係と、魔王と自分では違うのだと――その分離を突きつけた。
かたや突き離されるような形となった魔王は、ブルブルと手を震わせ始める。
ぐしゃぁあぁっ!!
光る球から飛び出して。喜ぶように跳ねていた闇の胞子を全て握りつぶした。
「おのれ・・・おのれ・・・おのれぇえぇぇ~」
グツグツと感情が交じり合う。自分が植え付けた隷属の印が見事に取り払われている屈辱と。なにがどうあって排除されたかのその背景と。
「そなた・・・まさか・・・そなた・・・まさか・・・」
ラシュレスタを自分のものだと宣言したシャルスティーヤと。揺るぎなく愛されているラシュレスタへの憎悪と。
「そんなことは許さぬ・・・誰が許すか・・・」
ヤヌスティーヤから派生した自我、魔王ゼフォー。ゼフォー自身もまた、主軸であるヤヌスティーヤから完全に分離し切れてはいない。
「我を切り捨てる気か・・・シャルスティーヤ・・・」
魔王からすれば、依存する最愛の存在からの裏切り行為だ。
地を這うような声とともに、黒いモヤを、ファア”ァァア”ァァァ・・・と吐き出し、暗く澱んだ目で睨みつけた。
「我が背負ったというのにのぅ・・・我が魔界を・・・そなたのために・・・その我に、よくぞ、まぁ・・・」
そう恨みがましく発言する時点でヤヌスティーヤではないのだ。シャルスティーヤが怜悧な瞳で見つめる。
ゴゴゴゴゴゴゴォォォ”ォォォオ”ォォォ・・・・・・
魔王の全身からすさまじい怒気が立ち上がり始めた。
「忘れたのか、シャルスティーヤよ・・・我らは運命共同体、永遠の対なのだ。そなたは我だけのものよ。許さぬ・・・我らの間に入ることなど・・・そなたが我から離れることも」
ビリビリと大気を切り裂くがごとく。猛烈に広がり始めたどす黒い邪気に誘発されて、
ゴォォオ”ォォォォ・・・・・・ゴォォオ”ォォォォ・・・・・・
と大小複数の竜巻が発生した。
ボゴボゴボゴボゴッ・・・・・・・・
砂礫が地表から舞い上がり、
ガガガガガガガガガッ・・・・・・・
岩山がナイフで削り取られるようにたやすく剥がれる。
ゴゴゴゴッガッゴゴゴォォォオ”ォォォーー・・・・・・
大木や巨岩が紙くずのように巻きこまれる、そのすさまじさよ。
轟音とともに光の防御壁の中にまでも風が入りこんでくる。シャルスティーヤの髪が揺れ動き、聖衣がはためき始めた。
「そうよのぅ。この偉大なる兄にそのような態度を取るとはのぅ・・・そなたにはやはり、わからせてやらねばならぬのぅ・・・捕まえて、じっくりと愛してやらねばならぬのぅ」
歪んだ愛情が暴走を開始する。四方に分散して。なにもかもを激しく巻きこんでいた竜巻が、悪しき邪龍に形を変え、シャルスティーヤへと一斉に襲いかかった。
ガァァア”ァァァァァーーーー!!
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