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忘却の河のほとりには

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 燦然さんぜんと輝いて、宙に浮かぶ最愛の弟を目指して、

 ぬぅぅぅぅぅ・・・・・・

 と闇色の長い尾で伸び上がる。

 「我にのぅ、まさか、目隠しのお遊びとやらを教えてくれるとはのぅ・・・最高天使たる者が呪なんぞ使うとは・・・思いもよらなんだ。フフ・・・だが、まぁ、それはよしとしようぞ・・・一時の夢でも、かなり楽しめたからのぅ・・・」

 高次元の光に覆われた存在。うかつには近寄れないために、距離を取らざるを得ない。それでも限りなく接近した状態で、

 「だがのぅ・・・」

 ひゅるひゅると尾をくねらしながら、その周りをぐるぐると回り始める。

 「我の玩具・・・アレをどこに隠した? 気配がのぅ・・・せぬのだ」

 地上で遭った時のような魔陣という縛りは、ここではない。

 火花が散ろうとも、衝撃で弾かれようとも、なんとしてでも触ってやろうか―――話しかけながらも、ギラつく赤い瞳で見つめ、長い不潔な爪先を擦り合わせる。

 歯牙が飛び出た唇を赤い舌でペロリと舐め取った。

 「あぁ・・・美しい、美しい我のシャルスティーヤよ・・・そなたを存分に味わったような、いい夢だったぞ。突いて喘がせているのに、突かれて喘いでいるような・・・尽きない淫欲の交わり・・・愛し合ったのだ、我らは・・・さすがに最後には抱き潰したがのぅ」

 背後に回り、キラキラと輝く髪にむかって邪気に満ちた手を伸ばす。口づけるために。だが、途端に、シャッ・・・と目前から姿が消えた。

 「ん~・・・」

 拒絶するかのように移動した相手を、魔王が振り返る。

 「ずいぶんとつれないではないかぁ・・・我はそなたの兄で、なにができる兄なのかを・・・わかっておるよのぅ? そうだのぅ、火山がよいか? それとも、街が海に沈む方が好きか? ん? 兄の力を忘れたというのなら、見せてやらねばのぅ」

 ズルル・・・と尾をくねらせて、魔王が身体の向きを変えた。

 「さぁ・・・まずは、我の性具ぞ。兄のモノをそのように欲しがるではない・・・あのように腰を自ら振っては、アンアン、アンアンと悦ぶような淫乱な奴は、手元に戻したとしても、ダメだダメだ、あんなのは・・・わかっておろう? アレは元々、不出来な奴だったのよ・・・生来の尻軽よ」

 そうではない―――と好き勝手に愚弄する相手を、シャルスティーヤが冷ややかに見つめる。

 愛し合うために降誕した天使。その、ラシュレスタが持って生れた気質。自分に対する健気なまでの一途さと生真面目さが、つけこまれたのだ。

 人間界での性行為を見るように誘導したのも。汚れた感情と植え付けたのも。心理的に追い詰めたのも。

 堕天後に、まずは自らが低級な魔族に変化へんげして、時に手下の魔物まで使い、性体験を重ねるように仕掛け続けたのも。全てはゼフォーの策略だ。

 「さぁ、弟よ、兄に先に返すのだ、アレを・・・」

 魔王の言葉に、シャルスティーヤが握りしめた拳を前に差し出した。

 パッと広げると、ふわんと光る球を三つ、宙に浮かべる。同時に、そのまま、ヒュンッと霊気の風を起こして、魔王に向かって放った。

 パシッ・・・

 魔王が飛んできた球を掴み取る。

 「なんだ、一体・・・」

 手を開くと同時に、目を大きく見開いた。

 「魔王ゼフォーのものはゼフォーに、我のものは我に・・・」

 美しい空色の瞳に一瞬だけ赤みを走らせて。シャルスティーヤが冷然と告げた。

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