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最愛の者 腕の中に

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 「ラシュレスタ・・・」

 「申し訳ございません・・・申し訳ございません・・・汚れた感情で、ずっと・・・心の中でシャルスティーヤさまを・・・」

 天界の最上位たる存在に欲情し、自慰までしていた。恥ずべき天使。それが自分なのだ。

 「私の身勝手な汚れた感情で・・・いつも・・・いつも、あなたを・・・それが耐えきれず・・・天界を出ました・・・」

 子供のように、ヒックヒックとしゃくり上げる。嗚咽が止まらない。シャルスティーヤがこの上なく優しく髪を撫でながら、問いかけた。

 「ラシュレスタ・・・誰が、そなたに、汚れた感情だという誤った考えを植えつけたのだ?」

 その予想もしなかった言葉に、ラシュレスタが目を見開いた。

 「誰だ?」

 促されて、ラシュレスタがシャルスティーヤの顔を凝視する。一体、目の前の存在は、なにを聞いてきているのだろうか。

 (誤った考えを・・・植え・・・つけた? ど、どういうこと・・・・・・汚れた感情・・・は・・・誤っている考えだと・・・おっしゃっているのですか?)

 それではまるで、汚れた感情ではないと言っているようにも聞こえる。

 いや、そんなことはない。自分は劣情を抱いた目で見ていたのだ。欲望の対象にして自慰までしていたのだ。

 (それに、植えつけたって・・・どういうことなんだろう・・・)

 じっと返事を待っている様子のシャルスティーヤを、ラシュレスタもまた見つめる。

 天界の最高位である、シャルスティーヤが間違った発言などするはずがないのだ。

 それならば、その発言の意味するところは―――ラシュレスタが懸命に考えを巡らせる。誰が植えつけたのだと尋ねてきたシャルスティーヤ。

 (誰が・・・って、一体、どういう意味なのだろうか・・・)

 その言い方ではまるで、誰かから刷りこまれたようにも聞こえる。だが、植えつけられた覚えなどない。劣情を抱いていることには間違いないのだから。

 その時、ふと、ラシュレスタの脳裏に、ある存在が浮かび上がった。それは――

 「そうだ・・・我が兄、魔界の王となる道を選んだ者だ・・・」

 「!!」

 ラシュレスタが息をのんだ。だが、即座に無言で首を振って、違うと否定する。

 確かに、天界にいる頃、自分の心の内を見事に見抜かれて、揶揄されては、汚らわしい感情だの、最高天使をお前の劣情なんかで汚すな・・・などと何度も言われた。

 そのことを今、植えつけられたと言っているのだろうか。でも、それは植えつけられたのではなく、事実であって・・・間違ってはいない。

 その内面での自問自答に応じるように、シャルスティーヤが口を開いた。

 「兄は我がいないところで、事あるごとにそなたに、汚れた感情だと言い続けていた。何度も何度も聞かされて、そなたはそう信じこんだ・・・・・・だが、ラシュレスタ・・・愛し合う者同士が愛を確かめ合うための行為に、汚れなどない。つまり、そなたは汚れてなど、いないのだ」

 目を見開いたままの相手に「わかるか?」とシャルスティーヤが問いかけた。

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