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魔界の王と天界の最高位と

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 「アレは万人にあまねく愛を与える天上の存在・・・不憫に思って、手を差し伸べているだけのこと・・・アレの優しさに便乗して、天に帰るのか? 帰れるのか? そんな不浄の身で・・・アレの顔に泥でも塗る気か?」

 腕の中の激しく動揺している相手に、魔王がたたみかける。

 「帰ったところで、その薄汚い欲望・・・捨てられるのか? ん~? また迷惑をかける気か? フフフ・・・おこがましいにもほどがあるのぅ・・・自らの意志で堕天して・・・自らの意志で我に抱かれたくせに・・・楽しんだくせに・・・それで身ごもったくせに・・・」

 あぁ・・・と涙が一筋、ラシュレスタの頬をつたった。

 自分が浅はかだったのだ。どうせ一回限りの関係。一過性の快楽。浄化の呪で流れ落とせると思っていたのだ。

 しつこいと煩わしく考え、安易に身を委ねた結果がこれだ―――

 黄金の美しい姿がにじむ。愛しくてたまらない存在がぼやけて見えない。あまりにも遠い。天界の清らかな存在から、これほどまでにかけ離れてしまったのだ、自分は―――ハラハラと涙が零れ落ちた。

 (シャルスティーヤさま・・・申し訳・・・ございません・・・)

 一体、どうして、その手が取れるだろうか。その手を望めるだろうか。

 「ラシュレスタ・・・大丈夫だ・・・願え・・・」

 心を誘導をしてはならないという禁忌を犯してまで、手を差し伸べたまま真摯に声をかけてくる最高天使。

 だが、ラシュレスタが首を振る――その手を望むなんて、その愛を願うなんて・・・おこがましいのだ、本当に。

 こんな身になってしまったというのに。それでもまだ劣情を抱いている。あなたが欲しくてたまらない。

 (シャルスティーヤさま・・・申し訳・・・ございません・・・)

 好きです。好きです。大好きです。愛しています。愛しています。申し訳ございません。ラシュレスタが心の中で泣きじゃくる。

 確実に魔界の空間へとズブズブと引きずりこまれていく姿に、シャルスティーヤが右手をグッと握りしめた。目の前にいるというのに・・・

 そのまま振り上げて、バッと前方へと手のひらを押し出す。黄金の光を放った。

 ふわんっ!!

 金色の吹雪が辺り一面を覆った。まるで薔薇の花びらが強風に煽られたかのように、パラパラ、パラパラと黄金の細片が去りゆく者たちに舞い落ちる。

 「なんだ!! 見えぬではないか!!」

 阻むためとはいえ、自らも不本意ながらの撤退。できる限り長く、愛おしい弟の姿を見つめていようとしてた魔王が、両目にかかった欠片かけらに苛立ちの声を上げた。顔を振るが落ちない。

 その間、ラシュレスタの全身にも、額、喉、左胸、右胸、右の手のひらへと金色の輝きが落ちる。スッとなじむようにして、身体の中に消えた。

 (シャルスティーヤさま・・・)

 一心に見つめる先で、シャルスティーヤが右手を身体の前で立てた。金の防具の上にある魔鏡を左手で押さえるような仕草を見せる。

 そして、左の腕にある琥珀色の宝石に口づけた。想いをこめて。

 (シャルスティーヤさま・・・)

 橙黄色に色合いをかえて見つめ続ける瞳。その物言いたげな瞳を、ラシュレスタもまた、闇の渦に飲みこまれる最後の瞬間まで見つめ返していた。


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