84 / 157
魔界の王と天界の最高位と
6
しおりを挟む
問いかけられた側がその瞳の色を変えた。
日が名残惜しげに沈みゆく刻、あたかもその未練の度合いを示さんがごとく鮮やかに赤く染まった空―――そんな情景を彷彿させる瞳が赤味を薄くし、黄色一色と化す。
さらに黄金色により近づけたかと思いきや、深みと茶色を混ざり合わせた美しい琥珀色へと変化させた。
だが、すぐに夏の青空のような瞳へと戻す。
それは対極を背負う片翼への偽りない返事。と同時に、極力控えめに応じる必要があることを踏まえての応答。
よくよく理解しているのだ。自身に対する果てのない執着と劣情と独占欲と嫉妬深さと。そして、どれほどの害をもたらすかも。
その、あえてして見せた現象の意図することを、
(今のは・・・一体・・・?)
と理解に至って欲しい相手は追いきれずに首を傾げ、だが、もう片方は確実に察した。
「ならぬ・・・ならぬぞ・・・そんなことは許さぬ・・・」
魔王が低く唸るような声を発した。
ドプン、ドプン、ドプン・・・・・・
感情の起伏に呼応するかのように、闇の湖面が激しく波打ち始める。
「そなたに教えるのは我だけ・・・我だけだ・・・我が教えた・・・我が教えたのだ・・・」
ジクジクと目を光らせながら、魔王が陰鬱な声音でつぶやいた。
光の根源。創造主たる存在が原初に、自らの代行者として創り上げた兄弟の天使。無の状態から有限の世界へと、その実現のために対で具現化された聖霊。
好奇心旺盛の兄に、優しく見守る弟。互いに無垢から始まり、共鳴し合って、分離した個体としての成長を遂げ、そして決定的な別離を迎えた。
それは永遠の運命共同体による、必須の離別。
「そなたは我だけのものよ・・・許さぬ・・・我らの間に入ることなど・・・」
ドプン・・・ボコッ・・・ドプン・・・ボコッ・・・ドプン・・・ボコッ・・・・・・
闇の波が大きくうねり、間から生れた不浄な泡がまるで天が地になったかのように、宙に向かって零れていく。
「本当に小憎らしい奴よのぅ・・・許さぬ・・・許さぬ・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォ・・・・・・
魔王の全身からすさまじい怒気が立ち上がった。ビリビリと空間を裂き、身に突き刺さるほどに感じる邪気。悪しき霊となって闇色の風に宿った。
ヒューン、ヒューン!! シャアァァーッ!! ヒューン、ヒューン!! シャアァァーッ!!
不快な音を立てながら、複数の渦の流れとなって四方八方に激しく行き交う。一際大きな塊が、ヒューンと大きく回りこむと、悪鬼の顔を模った。
ガァァアァァァァァーーー!!
黒い牙をむき出しにしながら、ラシュレスタに襲いかかる。
「くっ・・・」
闇の地に囚われて身動きできない身体が、咄嗟に両手を前にして防御を試みようとする。その時―――ふわりと大気が軽く、そして明るくなった。
「!!」
目の前に金色の翼。立ち塞がったその背中に、ラシュレスタが目を見開いた。
日が名残惜しげに沈みゆく刻、あたかもその未練の度合いを示さんがごとく鮮やかに赤く染まった空―――そんな情景を彷彿させる瞳が赤味を薄くし、黄色一色と化す。
さらに黄金色により近づけたかと思いきや、深みと茶色を混ざり合わせた美しい琥珀色へと変化させた。
だが、すぐに夏の青空のような瞳へと戻す。
それは対極を背負う片翼への偽りない返事。と同時に、極力控えめに応じる必要があることを踏まえての応答。
よくよく理解しているのだ。自身に対する果てのない執着と劣情と独占欲と嫉妬深さと。そして、どれほどの害をもたらすかも。
その、あえてして見せた現象の意図することを、
(今のは・・・一体・・・?)
と理解に至って欲しい相手は追いきれずに首を傾げ、だが、もう片方は確実に察した。
「ならぬ・・・ならぬぞ・・・そんなことは許さぬ・・・」
魔王が低く唸るような声を発した。
ドプン、ドプン、ドプン・・・・・・
感情の起伏に呼応するかのように、闇の湖面が激しく波打ち始める。
「そなたに教えるのは我だけ・・・我だけだ・・・我が教えた・・・我が教えたのだ・・・」
ジクジクと目を光らせながら、魔王が陰鬱な声音でつぶやいた。
光の根源。創造主たる存在が原初に、自らの代行者として創り上げた兄弟の天使。無の状態から有限の世界へと、その実現のために対で具現化された聖霊。
好奇心旺盛の兄に、優しく見守る弟。互いに無垢から始まり、共鳴し合って、分離した個体としての成長を遂げ、そして決定的な別離を迎えた。
それは永遠の運命共同体による、必須の離別。
「そなたは我だけのものよ・・・許さぬ・・・我らの間に入ることなど・・・」
ドプン・・・ボコッ・・・ドプン・・・ボコッ・・・ドプン・・・ボコッ・・・・・・
闇の波が大きくうねり、間から生れた不浄な泡がまるで天が地になったかのように、宙に向かって零れていく。
「本当に小憎らしい奴よのぅ・・・許さぬ・・・許さぬ・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォ・・・・・・
魔王の全身からすさまじい怒気が立ち上がった。ビリビリと空間を裂き、身に突き刺さるほどに感じる邪気。悪しき霊となって闇色の風に宿った。
ヒューン、ヒューン!! シャアァァーッ!! ヒューン、ヒューン!! シャアァァーッ!!
不快な音を立てながら、複数の渦の流れとなって四方八方に激しく行き交う。一際大きな塊が、ヒューンと大きく回りこむと、悪鬼の顔を模った。
ガァァアァァァァァーーー!!
黒い牙をむき出しにしながら、ラシュレスタに襲いかかる。
「くっ・・・」
闇の地に囚われて身動きできない身体が、咄嗟に両手を前にして防御を試みようとする。その時―――ふわりと大気が軽く、そして明るくなった。
「!!」
目の前に金色の翼。立ち塞がったその背中に、ラシュレスタが目を見開いた。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる