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魔界の王と天界の最高位と

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 (あぁ・・・シャルスティーヤさま・・・)

 癒やしと浄化の聖気を額の輪に注いでくれたのだ。これで心身ともに強く立ち向かえる。よかった、本当によかったと安堵の気持ちがラシュレスタの中に広がる。

 (ルーカ、もう大丈夫だ・・・大丈夫だから・・・)

 柔らかな霊気に包まれて、ルーカもまた光る球に包まれて上空へと上がっていく。その清らかな光景に、ラシュレスタの目頭が熱くなった。

 「レスーア・・・」

 「はっ」

 待機している「神の調和」レスーアが静かに球体を受け止めた。お任せ下さいと頭を深く下げた。

 「そして、我の天使・・・」

 シャルスティーヤが視線を向けると同時に、パァンッ!! と鳥かごが黄金の光で弾き壊された。中で倒れていたネミルバの身体がふわりと上昇し、移動し始める。

 ウゥ・・・と呻いて、かすかに意識を取り戻したネミルバが、自分をしっかりと抱きしめた偉大なる相手をそのかすむ視界で認識した。

 「シャルス・・・ティーヤ・・・さま・・・も、申し訳・・・ござい・・・ません・・・」

 ルーカを護れなかったこと、魔王の手にかかってしまったこと・・・自らがそんな状態になってまで詫びる天使に、フッとシャルスティーヤが微笑んだ。

 「ネミルバ、苦難の道を歩ませたな・・・すまなかった・・・」

 朦朧としている相手の額にこの上なく優しく口づける。ボワンッと光る球で包みこんだ。

 「そなたの願いで繋がった・・・・・・感謝する。ゆっくりと癒やせ・・・・・・クトラス、頼んだぞ」

 「はっ」

 「神の制裁」クトラスが上がってきた球体を優しく受け止めると、すぐに治してやるとネミルバにささやいた。

 「各々、先ほど告げたように、遂行せよ」

 「はっ」

 ザンッ!! と一斉に翼を広げた音が鳴り響く。天界の頂点である存在の、そのめいは絶対だ。責務を全うすべく、一団、また一団と球体を力強く護りながら飛び立っていく。

 最後の一団、自らの隊を行かせた後、「神の戒め」のネイオロスが口を開いた。

 「怖れながら、シャルスティーヤさま・・・せめて、私だけでもここに残ることをお許し下さい」

 その言葉から、シャルスティーヤがあらかじめ独りでこの場に残る決意を表明していたことが判明する。不安を感じて当然だろう。

 だが、その純然たる憂慮は心ない言葉で遮られた。

 「空気を読まぬかぁ~ ネイオロス・・・我とシャルスティーヤの愛の逢瀬なのだ~ 邪魔者は早く去れ、去れぇ~ それとも、そなたも我にそんなに会いたかったか・・・フフフ・・・」

 かつての最高天使。右腕だった者が敬愛していた存在の、変わり果てた姿から視線をそらした。あまりにも残酷な現実、その変貌に耐えきれずに。

 「あ~ぁ・・・そうかぁ~ この者はいるのに、自分はなぜ残れないと思っておるのかぁ~? だとしたら、それは許せ、許せ~ この者は我の妻となったゆえ・・・挨拶させねばならぬと思ってのぅ・・・フフフ・・・」

 その言いよう。ギリリ・・・とラシュレスタが奥歯を噛みしめた。わざとなのだ。確固たる悪意を持って、シャルスティーヤとネイオロスに言って聞かせたのだ。

 妻なんかではないと叫びたくともそんな見苦しいことはできない、自分を嬲るために。

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