68 / 157
人間界 約束の地にて 会う
12
しおりを挟む
「サ、サニキニウスさま・・・な、なんか妙な感じがします。今日はもうお戻りになった方が・・・」
近衛兵が馬をなだめながら、辺りを不安げに見回した。
「そ、そうですよ。今すぐ馬車を整え直しますので、か、帰りましょう。天気が崩れる前兆なのかもしれません。サニキニウスさまになにかあっては大変です」
「う、うむ・・・そ、そうだな・・・そ、そうするか・・・それを早くどけろ!!」
壁を背に呆然とへたりこんでいる、先ほどまでわいせつ行為を強いていた相手を振り返ることもなく、卑劣な男がバタバタと騒々しく逃げ去る。
その気配が消え失せた頃にラシュレスタが姿を現した。
「シモーニ修道士、大丈夫ですか?」
「えっ・・・あ、はい・・・あ、ありがとうございます・・・だ、大丈夫です・・・」
差し出された手をやんわりと辞退し、ルーカがさりげなく口元を袖で拭った。乱れた服装を整えながら、立ち上がる。
痛みが走ったのか。小さく呻き、手首を押さえた。口元と同様に赤く腫れ上がっているその様子。どれだけの怪力だったのか。痛々しい。
ラシュレスタが、きまりが悪そうな気配を漂わす相手からそっと離れた。あえて先手を打って、床を見回すようにして歩きながら白々しく尋ねる。
「あぁ・・・なんだか床がものすごいことになってしまいましたが・・・今のあの・・・突風は何だったのですか? この辺りは、ああいった天候の急な変化がある地域なのですか?」
「えっ?」
いかにも初めての現象に驚愕しているといった様子で、ラシュレスタが会話を続けた。
「とても驚きましたが・・・外もなんだかすごい音がしてましたよね・・・何ですか、あれ・・・局所的に突風が起こりやすい場所なのですか、ここは?」
「いえ、そんなことは決してないのですが・・・そうだ・・・確かに・・・大変な音がしてた・・・」
ルーカが小走りに扉へと向かう。地面を見て唖然とした後、外へ出て上へと視線を向けた。
「雨樋の羽飾りが・・・正面部分の彫刻も・・・ずいぶんと落ちてきてる・・・立て付けが甘かったのか・・・でも・・・なんで? ど、どういうことなんだろ・・・こんなこと、今まで・・・」
茫然自失に近い状態で、ルーカが現況を認識する。その時間を十分に取らせてから、背後からラシュレスタが声をかけた。
「先ほどの方々・・・天気が崩れる前兆かもしれないと言って、お帰りになりましたが・・・」
「えっ? そ、そうでしたか・・・いや、でも・・・天気・・・なのでしょうか? こんな現象は今までなくって・・・」
「シモーニ修道士・・・この突発的に発生した強風による状況について・・・フェデリコ教区長にご報告なさるかと思いますが・・・あの身分の高い方からされたことも全て、きちんとお話になった方がいい・・・今後のためにも」
ルーカがラシュレスタをじっと見つめた。
「ローズさん・・・」
「あのような方もいらっしゃるんですね。民の上に立つ方なのに・・・とても残念です」
近衛兵が馬をなだめながら、辺りを不安げに見回した。
「そ、そうですよ。今すぐ馬車を整え直しますので、か、帰りましょう。天気が崩れる前兆なのかもしれません。サニキニウスさまになにかあっては大変です」
「う、うむ・・・そ、そうだな・・・そ、そうするか・・・それを早くどけろ!!」
壁を背に呆然とへたりこんでいる、先ほどまでわいせつ行為を強いていた相手を振り返ることもなく、卑劣な男がバタバタと騒々しく逃げ去る。
その気配が消え失せた頃にラシュレスタが姿を現した。
「シモーニ修道士、大丈夫ですか?」
「えっ・・・あ、はい・・・あ、ありがとうございます・・・だ、大丈夫です・・・」
差し出された手をやんわりと辞退し、ルーカがさりげなく口元を袖で拭った。乱れた服装を整えながら、立ち上がる。
痛みが走ったのか。小さく呻き、手首を押さえた。口元と同様に赤く腫れ上がっているその様子。どれだけの怪力だったのか。痛々しい。
ラシュレスタが、きまりが悪そうな気配を漂わす相手からそっと離れた。あえて先手を打って、床を見回すようにして歩きながら白々しく尋ねる。
「あぁ・・・なんだか床がものすごいことになってしまいましたが・・・今のあの・・・突風は何だったのですか? この辺りは、ああいった天候の急な変化がある地域なのですか?」
「えっ?」
いかにも初めての現象に驚愕しているといった様子で、ラシュレスタが会話を続けた。
「とても驚きましたが・・・外もなんだかすごい音がしてましたよね・・・何ですか、あれ・・・局所的に突風が起こりやすい場所なのですか、ここは?」
「いえ、そんなことは決してないのですが・・・そうだ・・・確かに・・・大変な音がしてた・・・」
ルーカが小走りに扉へと向かう。地面を見て唖然とした後、外へ出て上へと視線を向けた。
「雨樋の羽飾りが・・・正面部分の彫刻も・・・ずいぶんと落ちてきてる・・・立て付けが甘かったのか・・・でも・・・なんで? ど、どういうことなんだろ・・・こんなこと、今まで・・・」
茫然自失に近い状態で、ルーカが現況を認識する。その時間を十分に取らせてから、背後からラシュレスタが声をかけた。
「先ほどの方々・・・天気が崩れる前兆かもしれないと言って、お帰りになりましたが・・・」
「えっ? そ、そうでしたか・・・いや、でも・・・天気・・・なのでしょうか? こんな現象は今までなくって・・・」
「シモーニ修道士・・・この突発的に発生した強風による状況について・・・フェデリコ教区長にご報告なさるかと思いますが・・・あの身分の高い方からされたことも全て、きちんとお話になった方がいい・・・今後のためにも」
ルーカがラシュレスタをじっと見つめた。
「ローズさん・・・」
「あのような方もいらっしゃるんですね。民の上に立つ方なのに・・・とても残念です」
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる