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人間界 約束の地にて 会う
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「サ、サニキニウスさま・・・な、なんか妙な感じがします。今日はもうお戻りになった方が・・・」
近衛兵が馬をなだめながら、辺りを不安げに見回した。
「そ、そうですよ。今すぐ馬車を整え直しますので、か、帰りましょう。天気が崩れる前兆なのかもしれません。サニキニウスさまになにかあっては大変です」
「う、うむ・・・そ、そうだな・・・そ、そうするか・・・それを早くどけろ!!」
壁を背に呆然とへたりこんでいる、先ほどまでわいせつ行為を強いていた相手を振り返ることもなく、卑劣な男がバタバタと騒々しく逃げ去る。
その気配が消え失せた頃にラシュレスタが姿を現した。
「シモーニ修道士、大丈夫ですか?」
「えっ・・・あ、はい・・・あ、ありがとうございます・・・だ、大丈夫です・・・」
差し出された手をやんわりと辞退し、ルーカがさりげなく口元を袖で拭った。乱れた服装を整えながら、立ち上がる。
痛みが走ったのか。小さく呻き、手首を押さえた。口元と同様に赤く腫れ上がっているその様子。どれだけの怪力だったのか。痛々しい。
ラシュレスタが、きまりが悪そうな気配を漂わす相手からそっと離れた。あえて先手を打って、床を見回すようにして歩きながら白々しく尋ねる。
「あぁ・・・なんだか床がものすごいことになってしまいましたが・・・今のあの・・・突風は何だったのですか? この辺りは、ああいった天候の急な変化がある地域なのですか?」
「えっ?」
いかにも初めての現象に驚愕しているといった様子で、ラシュレスタが会話を続けた。
「とても驚きましたが・・・外もなんだかすごい音がしてましたよね・・・何ですか、あれ・・・局所的に突風が起こりやすい場所なのですか、ここは?」
「いえ、そんなことは決してないのですが・・・そうだ・・・確かに・・・大変な音がしてた・・・」
ルーカが小走りに扉へと向かう。地面を見て唖然とした後、外へ出て上へと視線を向けた。
「雨樋の羽飾りが・・・正面部分の彫刻も・・・ずいぶんと落ちてきてる・・・立て付けが甘かったのか・・・でも・・・なんで? ど、どういうことなんだろ・・・こんなこと、今まで・・・」
茫然自失に近い状態で、ルーカが現況を認識する。その時間を十分に取らせてから、背後からラシュレスタが声をかけた。
「先ほどの方々・・・天気が崩れる前兆かもしれないと言って、お帰りになりましたが・・・」
「えっ? そ、そうでしたか・・・いや、でも・・・天気・・・なのでしょうか? こんな現象は今までなくって・・・」
「シモーニ修道士・・・この突発的に発生した強風による状況について・・・フェデリコ教区長にご報告なさるかと思いますが・・・あの身分の高い方からされたことも全て、きちんとお話になった方がいい・・・今後のためにも」
ルーカがラシュレスタをじっと見つめた。
「ローズさん・・・」
「あのような方もいらっしゃるんですね。民の上に立つ方なのに・・・とても残念です」
近衛兵が馬をなだめながら、辺りを不安げに見回した。
「そ、そうですよ。今すぐ馬車を整え直しますので、か、帰りましょう。天気が崩れる前兆なのかもしれません。サニキニウスさまになにかあっては大変です」
「う、うむ・・・そ、そうだな・・・そ、そうするか・・・それを早くどけろ!!」
壁を背に呆然とへたりこんでいる、先ほどまでわいせつ行為を強いていた相手を振り返ることもなく、卑劣な男がバタバタと騒々しく逃げ去る。
その気配が消え失せた頃にラシュレスタが姿を現した。
「シモーニ修道士、大丈夫ですか?」
「えっ・・・あ、はい・・・あ、ありがとうございます・・・だ、大丈夫です・・・」
差し出された手をやんわりと辞退し、ルーカがさりげなく口元を袖で拭った。乱れた服装を整えながら、立ち上がる。
痛みが走ったのか。小さく呻き、手首を押さえた。口元と同様に赤く腫れ上がっているその様子。どれだけの怪力だったのか。痛々しい。
ラシュレスタが、きまりが悪そうな気配を漂わす相手からそっと離れた。あえて先手を打って、床を見回すようにして歩きながら白々しく尋ねる。
「あぁ・・・なんだか床がものすごいことになってしまいましたが・・・今のあの・・・突風は何だったのですか? この辺りは、ああいった天候の急な変化がある地域なのですか?」
「えっ?」
いかにも初めての現象に驚愕しているといった様子で、ラシュレスタが会話を続けた。
「とても驚きましたが・・・外もなんだかすごい音がしてましたよね・・・何ですか、あれ・・・局所的に突風が起こりやすい場所なのですか、ここは?」
「いえ、そんなことは決してないのですが・・・そうだ・・・確かに・・・大変な音がしてた・・・」
ルーカが小走りに扉へと向かう。地面を見て唖然とした後、外へ出て上へと視線を向けた。
「雨樋の羽飾りが・・・正面部分の彫刻も・・・ずいぶんと落ちてきてる・・・立て付けが甘かったのか・・・でも・・・なんで? ど、どういうことなんだろ・・・こんなこと、今まで・・・」
茫然自失に近い状態で、ルーカが現況を認識する。その時間を十分に取らせてから、背後からラシュレスタが声をかけた。
「先ほどの方々・・・天気が崩れる前兆かもしれないと言って、お帰りになりましたが・・・」
「えっ? そ、そうでしたか・・・いや、でも・・・天気・・・なのでしょうか? こんな現象は今までなくって・・・」
「シモーニ修道士・・・この突発的に発生した強風による状況について・・・フェデリコ教区長にご報告なさるかと思いますが・・・あの身分の高い方からされたことも全て、きちんとお話になった方がいい・・・今後のためにも」
ルーカがラシュレスタをじっと見つめた。
「ローズさん・・・」
「あのような方もいらっしゃるんですね。民の上に立つ方なのに・・・とても残念です」
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