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人間界 約束の地にて 会う
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「えぇ・・・あの・・・アブラハム教の・・・その・・・信徒の中に、港湾都市から都市を絹や金を売り歩く行商人がおりまして・・・フギンギンというのですが、その者の手伝いで同行した時に、確か異国の地エローラで触らせてもらった楽器に似てるような・・・いやでも、あれは水オルガンにもっと近かったような・・・」
「エローラ? あの寺院で有名な? そこに似たような楽器があったということですか?」
「いえ、あの・・・ここまで立派ではなかったのですが、似た雰囲気の物で・・・その時の感覚を思い出しながら、こういう感じで弾くのかなと思って試してみたところ、弾けたという方がより適切と言いますか・・・」
我ながら苦し紛れ。そう思ったものの、疑うことのないルーカが、よしっといった具合に手を握りしめた。
「そうですか、そうですか、ローズさん!! なんとなくでできてしまうのは、元々が素晴らしい音楽の才をお持ちなのかと!! いずれにせよ、ローズさんが弾けることには間違いないのですから、教区長にこの方で間違いがありませんでしたと胸を張って報告したいと思います」
なんとも単純な。だが、今はそれがありがたい。ラシュレスタがホッと胸を下ろした。
「こちらでの楽師のお仕事、任せて頂けそうでしょうか?」
「もちろん、お願いすることになります!! 輝きの大天使が夢で告げた、後に、弾き方を知る楽師たる存在が現れる・・・とは、やはりローズさんのことだったのですよ!! ローズさんには是非ともここで働いて頂き、この楽器の完成と教会の発展にご尽力頂ければと・・・」
(輝きの大天使・・・か・・・それにしても夢の中で、そのような予言もされていたとは・・・)
ラシュレスタが感じ入ったその時――
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
と扉が荒々しく叩かれた。
「おぉい!! なんだぁ~? 誰か中にいるのかぁ~? おぉい!!」
聞こえてきた粗暴な声に、ルーカの表情が豹変した。
「ローズさん、こちらに!! 早く!!」
全身にただならぬ緊張を漂わせて、ルーカがラシュレスタの腕を強く引っ張った。
「ここに、ここに隠れていて下さい!! 絶対に出てきてはいけません!! いいですね!!」
そこは身廊の脇にある、外側に突き出すようにして設けられたスペース、翼廊。ちょうど足場が組まれて、塗料が散布されるのを防ぐための布が垂れ下がっている。
身を隠すのにはもってこいの場所へとルーカがラシュレスタを押しこんだ。
「おぉい!! いるよなぁ~? わかるんだよ、おぉい!!」
ドンッ!! ドンッ!!と叩かれ続ける扉。気にしながら、ルーカが小声で念を押した。
「いいですね。絶対に出てきてはいけません。ちょっと厄介な方なのです。ローズさんのように雰囲気のある方や、身体に障害がある方ならそれはそれでまた・・・いや・・・とにかく、ここにいて下さいね」
ルーカが背中を向けて歩き始めると同時に、扉が開いた。
「エローラ? あの寺院で有名な? そこに似たような楽器があったということですか?」
「いえ、あの・・・ここまで立派ではなかったのですが、似た雰囲気の物で・・・その時の感覚を思い出しながら、こういう感じで弾くのかなと思って試してみたところ、弾けたという方がより適切と言いますか・・・」
我ながら苦し紛れ。そう思ったものの、疑うことのないルーカが、よしっといった具合に手を握りしめた。
「そうですか、そうですか、ローズさん!! なんとなくでできてしまうのは、元々が素晴らしい音楽の才をお持ちなのかと!! いずれにせよ、ローズさんが弾けることには間違いないのですから、教区長にこの方で間違いがありませんでしたと胸を張って報告したいと思います」
なんとも単純な。だが、今はそれがありがたい。ラシュレスタがホッと胸を下ろした。
「こちらでの楽師のお仕事、任せて頂けそうでしょうか?」
「もちろん、お願いすることになります!! 輝きの大天使が夢で告げた、後に、弾き方を知る楽師たる存在が現れる・・・とは、やはりローズさんのことだったのですよ!! ローズさんには是非ともここで働いて頂き、この楽器の完成と教会の発展にご尽力頂ければと・・・」
(輝きの大天使・・・か・・・それにしても夢の中で、そのような予言もされていたとは・・・)
ラシュレスタが感じ入ったその時――
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
と扉が荒々しく叩かれた。
「おぉい!! なんだぁ~? 誰か中にいるのかぁ~? おぉい!!」
聞こえてきた粗暴な声に、ルーカの表情が豹変した。
「ローズさん、こちらに!! 早く!!」
全身にただならぬ緊張を漂わせて、ルーカがラシュレスタの腕を強く引っ張った。
「ここに、ここに隠れていて下さい!! 絶対に出てきてはいけません!! いいですね!!」
そこは身廊の脇にある、外側に突き出すようにして設けられたスペース、翼廊。ちょうど足場が組まれて、塗料が散布されるのを防ぐための布が垂れ下がっている。
身を隠すのにはもってこいの場所へとルーカがラシュレスタを押しこんだ。
「おぉい!! いるよなぁ~? わかるんだよ、おぉい!!」
ドンッ!! ドンッ!!と叩かれ続ける扉。気にしながら、ルーカが小声で念を押した。
「いいですね。絶対に出てきてはいけません。ちょっと厄介な方なのです。ローズさんのように雰囲気のある方や、身体に障害がある方ならそれはそれでまた・・・いや・・・とにかく、ここにいて下さいね」
ルーカが背中を向けて歩き始めると同時に、扉が開いた。
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