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淫欲に堕ちた妖精王子

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 あれからもずっと魔鏡で求め続けていた。日夜恋い焦がれるようにして。だが、わずかに気配を感じられたのが数回程度。降臨の姿が見られたのは、一度だけ。

 それは突然の火山の噴火によって、わずか一日にして灰に埋もれた街。大災害に見舞われた土地の浄化と犠牲者の魂の救済のために、地上に降りた偉大なる天使。

 熱さのため、離れた海上から遠巻きにして。飛び続ける大烏たちの視線からですらも感じた、あまりにも神々しく美しい姿。心が打ち震えるほどの清らかさ。まさに癒やしの権化。

 (シャルスティーヤさま・・・・・・あぁ・・・)
 
 光る鳥も何度送ってもらっただろうか。返事も出さない者に。送り方がわからなかったという問題ではない。一体、なにを文字にできるというのだろうか。

 そのくせ――

 恋しくて恋しくてたまらない。側を離れて薄れるどころか、日々増していく。この狂おしいまでの愛おしさ。

 (あなただけを・・・愛しています・・・あなただけを・・・あなただけなんです・・・)

 ラシュレスタが切なげに左胸を手で掴む。いつだって空しく問いかけて終わる想い。だが、ここは他者の、しかも魔界の私有地なのだ。すぐさま意図的に意識を切替えた。

 いずれにせよ、気持ちは決まっている。このわずらわしく、生理的に不快となってきた地からは離れる。人間界でなかったとしても、妖精界、煉獄の地、魔界以外ならどこでもいい。そのためには――

 「ラシュレスタさまぁぁ~!!」

 耳をつんざくような甲高い声に思索が邪魔された。 

 「も、申し訳ございません!! いらっしゃっていたとは気がつかずに・・・あの・・・その、突然・・・その、来客があったものですから・・・」

 (リリートゥ・・・)

 仮に結界を張っておいて違和感を覚えたとしても、淫乱の身であの状態で、よくぞこれほどまでに早くに切り上げられたものだ。ラシュレスタが密かに感心した。

 「花をもらいに来ただけなので。コボルト公爵とのお時間を邪魔するつもりはない。どうぞ、お相手を」

 あえてにこやかに。紳士ぶって。伯爵というよりは伯爵令嬢といった体裁を好む相手に寄せに行く。いつも通りに。

 「ま、まぁ・・・そ、そんな・・・ち、違います・・・あ、あの方、あの、ちょっと・・・し、しつこいのです。嫌だって言ってるのに・・・ほんと・・・いつも・・・」

 どこから見られて、どこまで? ―――動揺を隠しきれない相手が頬を染めてもじもじと恥じらった。

 多淫であることはもはや周知の事実なのだから、なにを今更・・・と思っても、その裏表のある戯れに付き合う。利用価値の高い相手なのだから。

 「公爵がお待ちなのでは? 苗さえ頂ければ、私は帰りますから」

 「なっ・・・い、いやです、そんな・・・わたくしの気持ちを知っていて・・・あの方にはもう帰って頂きました」

 リリートゥがラシュレスタの胸に手をそえて甘えるように身をすり寄せた。

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