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最高天使 降臨

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 天界の頂点たる存在からの魅力的な誘い。今をおいて二度とないだろう。この際だ、勇気を出して近寄ってみたい。

 けれども、やはり、さすがにおそれ多い。二羽が先を互いに譲り合いながら、ぐるぐると回り続ける。

 ようやくフギンギンが、指定された枝よりほんの少しだけ遠い場所に止まった。ムニンムニもそれに従って羽を下ろす。

 サワサワと穏やかな風が吹き付ける緑の丘。そのまま無言で、黄金に輝く髪と白く清らかな衣をたなびかせて、天使たちの活動を静かに眺める最上位の存在。

 ラシュレスタがその姿をじっと見つめる。ただひたすらなまでに。瞬きすら惜しんで。その姿をこの魂に刻みこみたいと切望しながら。

 やがてシャルスティーヤが口を開いた。

 「地上の年月で、今から三百三十三年後・・・一つの象徴が埋葬され、ここはやがて大きな聖地となる・・・先ほどの地と同じようにな」

 目の前の土地を見渡し、手を前方にかざすと、シュワンッ・・・と光を放った。そのまま続けて、右に左に、上に下にと。最高天使による祝福。

 一帯が浄化され、その土地自身がかすかに維持していた霊気と光の階層が、一気にふわんと上がるような感覚。

 魔に属する身でありながら、魔鳥たちですらそのキラキラと輝く光の波に思わず魅入る。

 「地上の年月で、今から三百三十三年後だ・・・」

 言い聞かせるように、ゆっくりと。シャルスティーヤが前方を見たまま繰り返した。

 (三百三十三年後・・・・・・その時に・・・一体、なにが?)

 告げられた数字を噛みしめながら、ラシュレスタがその続きの言葉を待つ。だが、聞こえてきた言葉は意外な内容だった。

 「ラシュレスタ・・・・・・髪飾りはまだ持っているか?」

 (えっ・・・)

 ラシュレスタの琥珀色の瞳が揺れる。

 (髪飾り・・・って、あの・・・?)

 その問いかけに応じるように、視線をこちらに向けて、空色の瞳が微笑んだ。

 (あぁ・・・)

 左胸の輪がジンと熱くなる。間違いない。あの髪飾りだ。自分と同じ瞳の色の。まさか覚えていて下さってるなんて。

 (あぁ・・・)

 手放すなんてあり得ない。闇に堕ちてからも、ずっとずっと特別な結界の空間にしまって、守り続けてきた物。

 他と一緒だなんていやだ。自分だけを特別に扱って欲しい―――そう願うようになってしまってからしばらくして、与えてもらえた物だ。

 「もちろん・・・持っております・・・」

 涙声で鏡面に返事をする。シャルスティーヤが黄金の眉をひそめ、笑みを浮かべた。そのどこか苦笑するような、困ったような・・・大好きで大好きでたまらない表情。

 (あぁ・・・)

 涙が零れて止まらない。ラシュレスタがグズンと鼻をすする。その目の前で、シャルスティーヤが左腕をまたしても胸の前に掲げた。金の防具の上に琥珀色の宝石が一つめこまれている。

 その形・・・薔薇のつぼみの・・・

 ハァァ・・・とラシュレスタが息を飲んだ。

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