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魔鏡 “アブラハムには十三体の子”

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 常日頃、わずかに膨らんだ少女のような乳房と少年のように未発達な下半身を、薄布で気持ち程度に隠している魔王の下僕たち。

 だが、そんな彼らが健気にして見せた服装の変化とそこにこめられた気合いに、ラシュレスタ自身は全く興味がない。

 チラリと一瞥した後、室内に視線を這わせた。自分の居場所に疑問を抱く。

 (なぜ、ここなのだ・・・)

 石化の呪法の仕上げに、自分の城への転送のめいも封入しているはずだった。

 (結界に阻まれたか・・・?)

 しかし、その結界自体が今は実にゆるい。さらには城の主の気配もないに等しいくらいにわずかだ。
 
 首を傾げたものの、元より会う気などなければ、顔も見たくもない相手。

 約束は守られることなく、とことん好き勝手にされた不愉快な記憶がラシュレスタの中で鮮やかに蘇った。あからさまに瞳が剣呑を帯びた色合いとなる。

 いないならかえって好都合―――とサラサラと流れ落ち続けることで、半分程度の高さとなっていた砂山から、ヒラリと飛び降りた。

 銀色の上品な布地に、同系色で光沢質の刺繍が施されたロングブーツ。カツンと優雅に着地した途端に、ツクンと下腹部に小さな違和感を覚えた。

 (なんだ?)

 手のひらを置いて自らの魔霊気で探りを入れようとする。が、すぐさまその気配は消え去った。

 (あの無駄にでかいブツを出し入れされたせいか・・・)

 それに最後まで足掻いていたようだが、あれはなんだったのか―――ラシュレスタがわずかに振り返る。

 だが、所詮は目的を達成するために付き合ってやった一過性の現象。どうでもいい。我ながらかなり気前よく奉仕してやったものだと、自身にどこか憮然としながらも歩き始めた。

 室内に充満する魔煙の中、分厚く大仰おおぎょうに垂れ下がった赤黒い幕のかかる窓へと迷うことなく進む。日の高さを確かめるために。そして、そのままバルコニーから出て行くために。

 「お待ち下さいませ、ラシュレスタさま」

 赤みがかった褐色の肌に赤い髪。あどけない顔に、大きく占める赤い瞳の淫魔インキュバスのインが、サササ・・・と走り寄ると、またその足下で跪いた。

 「あれから何度、日は昇った?」

 長居する気など一切ないラシュレスタが歩みを止めることなく問いかけた。

 魔界では人間界を模して偽りの日があえて空を飾る。退屈この上ないと、闇一色の世界に天上界、妖精界、人間界の構成要素、階層構造、行動様式、生態系などを取り入れ、構築したのがゼフォーだ。

 「はっ・・・五回ほどでございます」

 青みがかった褐色の肌に青い髪。インと同じ顔をした青い瞳の淫魔サキュバスのサツもまた、サササ・・・と走り寄ると跪き、応じた。

 人の間では男夢魔と女夢魔と区別される彼らだが、ここ魔界では両者の役割に区別はない。

 (五日もかかったか・・・)

 汚された身を浄化し、行為前の状態で再生することを命じた石化の呪。

 魔王の底なしの淫欲と執拗さに対して、自分の想定が甘かったことは否めない。感じ入りながら、ラシュレスタが結界の張られた幕に手のひらを向けた。

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