18 / 157
魔鏡 “アブラハムには十三体の子”
2
しおりを挟む
常日頃、わずかに膨らんだ少女のような乳房と少年のように未発達な下半身を、薄布で気持ち程度に隠している魔王の下僕たち。
だが、そんな彼らが健気にして見せた服装の変化とそこにこめられた気合いに、ラシュレスタ自身は全く興味がない。
チラリと一瞥した後、室内に視線を這わせた。自分の居場所に疑問を抱く。
(なぜ、ここなのだ・・・)
石化の呪法の仕上げに、自分の城への転送の命も封入しているはずだった。
(結界に阻まれたか・・・?)
しかし、その結界自体が今は実にゆるい。さらには城の主の気配もないに等しいくらいにわずかだ。
首を傾げたものの、元より会う気などなければ、顔も見たくもない相手。
約束は守られることなく、とことん好き勝手にされた不愉快な記憶がラシュレスタの中で鮮やかに蘇った。あからさまに瞳が剣呑を帯びた色合いとなる。
いないならかえって好都合―――とサラサラと流れ落ち続けることで、半分程度の高さとなっていた砂山から、ヒラリと飛び降りた。
銀色の上品な布地に、同系色で光沢質の刺繍が施されたロングブーツ。カツンと優雅に着地した途端に、ツクンと下腹部に小さな違和感を覚えた。
(なんだ?)
手のひらを置いて自らの魔霊気で探りを入れようとする。が、すぐさまその気配は消え去った。
(あの無駄にでかいブツを出し入れされたせいか・・・)
それに最後まで足掻いていたようだが、あれはなんだったのか―――ラシュレスタがわずかに振り返る。
だが、所詮は目的を達成するために付き合ってやった一過性の現象。どうでもいい。我ながらかなり気前よく奉仕してやったものだと、自身にどこか憮然としながらも歩き始めた。
室内に充満する魔煙の中、分厚く大仰に垂れ下がった赤黒い幕のかかる窓へと迷うことなく進む。日の高さを確かめるために。そして、そのままバルコニーから出て行くために。
「お待ち下さいませ、ラシュレスタさま」
赤みがかった褐色の肌に赤い髪。あどけない顔に、大きく占める赤い瞳の淫魔のインが、サササ・・・と走り寄ると、またその足下で跪いた。
「あれから何度、日は昇った?」
長居する気など一切ないラシュレスタが歩みを止めることなく問いかけた。
魔界では人間界を模して偽りの日があえて空を飾る。退屈この上ないと、闇一色の世界に天上界、妖精界、人間界の構成要素、階層構造、行動様式、生態系などを取り入れ、構築したのがゼフォーだ。
「はっ・・・五回ほどでございます」
青みがかった褐色の肌に青い髪。インと同じ顔をした青い瞳の淫魔のサツもまた、サササ・・・と走り寄ると跪き、応じた。
人の間では男夢魔と女夢魔と区別される彼らだが、ここ魔界では両者の役割に区別はない。
(五日もかかったか・・・)
汚された身を浄化し、行為前の状態で再生することを命じた石化の呪。
魔王の底なしの淫欲と執拗さに対して、自分の想定が甘かったことは否めない。感じ入りながら、ラシュレスタが結界の張られた幕に手のひらを向けた。
だが、そんな彼らが健気にして見せた服装の変化とそこにこめられた気合いに、ラシュレスタ自身は全く興味がない。
チラリと一瞥した後、室内に視線を這わせた。自分の居場所に疑問を抱く。
(なぜ、ここなのだ・・・)
石化の呪法の仕上げに、自分の城への転送の命も封入しているはずだった。
(結界に阻まれたか・・・?)
しかし、その結界自体が今は実にゆるい。さらには城の主の気配もないに等しいくらいにわずかだ。
首を傾げたものの、元より会う気などなければ、顔も見たくもない相手。
約束は守られることなく、とことん好き勝手にされた不愉快な記憶がラシュレスタの中で鮮やかに蘇った。あからさまに瞳が剣呑を帯びた色合いとなる。
いないならかえって好都合―――とサラサラと流れ落ち続けることで、半分程度の高さとなっていた砂山から、ヒラリと飛び降りた。
銀色の上品な布地に、同系色で光沢質の刺繍が施されたロングブーツ。カツンと優雅に着地した途端に、ツクンと下腹部に小さな違和感を覚えた。
(なんだ?)
手のひらを置いて自らの魔霊気で探りを入れようとする。が、すぐさまその気配は消え去った。
(あの無駄にでかいブツを出し入れされたせいか・・・)
それに最後まで足掻いていたようだが、あれはなんだったのか―――ラシュレスタがわずかに振り返る。
だが、所詮は目的を達成するために付き合ってやった一過性の現象。どうでもいい。我ながらかなり気前よく奉仕してやったものだと、自身にどこか憮然としながらも歩き始めた。
室内に充満する魔煙の中、分厚く大仰に垂れ下がった赤黒い幕のかかる窓へと迷うことなく進む。日の高さを確かめるために。そして、そのままバルコニーから出て行くために。
「お待ち下さいませ、ラシュレスタさま」
赤みがかった褐色の肌に赤い髪。あどけない顔に、大きく占める赤い瞳の淫魔のインが、サササ・・・と走り寄ると、またその足下で跪いた。
「あれから何度、日は昇った?」
長居する気など一切ないラシュレスタが歩みを止めることなく問いかけた。
魔界では人間界を模して偽りの日があえて空を飾る。退屈この上ないと、闇一色の世界に天上界、妖精界、人間界の構成要素、階層構造、行動様式、生態系などを取り入れ、構築したのがゼフォーだ。
「はっ・・・五回ほどでございます」
青みがかった褐色の肌に青い髪。インと同じ顔をした青い瞳の淫魔のサツもまた、サササ・・・と走り寄ると跪き、応じた。
人の間では男夢魔と女夢魔と区別される彼らだが、ここ魔界では両者の役割に区別はない。
(五日もかかったか・・・)
汚された身を浄化し、行為前の状態で再生することを命じた石化の呪。
魔王の底なしの淫欲と執拗さに対して、自分の想定が甘かったことは否めない。感じ入りながら、ラシュレスタが結界の張られた幕に手のひらを向けた。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる