24 / 40
バレた
しおりを挟む
「えっ…そうですか、いやぁ毎日納豆と高麗人参とニンニクとしじみとショウガと卵と玄米とクルミと青魚とシソとゴマと多めの野菜と豆腐を食べて、適度な運動と良質な睡眠を取っている程度なんですけど」
「じゃ、問題ないですねぇ。その生活を続けて下さい」
内心ヒヤリとさせられましたが、副院長の全く気にしていない様子にワルオがホッと安心しました。
ですが、このまま診察が終了してしまうと写真が撮れません。
「あのぅ…実は…」
身を起こして台の上に座り直すと院内に入ってからずっと付けたままの黒い布をおずおずと取りました。
「予約を取った時にはなかったのですが、数日前から頬にこぶみたいなのができてしまって…」
状況を見て出そうと仕こんでいたネタを今ここで使うことにしたのです。
「どれどれ、ちょっと横を向いて下さい」
膨らんだ部位を見た途端にスッと若頭の目がわずかに閉ざされました。
それが人工的に作られたこぶだとわかったからです。
おそらくは吸引した脂肪を注射針か何かで注入したにちげぇねぇと。
若頭は察しました。
こぶの除去も添加も鬼の専門分野です。
他の奴らをだませても、このオレはだませねぇぞと。
診察する振りをしながら心の中で吐き捨てました。
けれども意味がわかりません。
おじいさんの写真をなんとかしてこの目で見ようと。
それこそ肩こり、腰痛、膝痛、頭痛、手足のしびれを自称する以外にも、打撲やら擦り傷やら捻挫やらなんやらをわざわざ自力でこしらえて来院してくる患者も少なくありませんでした。
ですが、外科的な施術までしてこぶを作ってきたのは初めてです。
(おじいさんのファンだから…?)
熱狂的ゆえにこぶを真似したのかと思い、いや違うとすぐさま否定します。
対外的にはおじいさんの個人情報保護の観点もあり、小さなできものを取ったとしかバラしていません。
こぶだと知っているはずがないのです。
「ちょっと器具を取ってきますね」
いずれにせよ、要親父確認案件だなと。
若頭が診察椅子から立ち上がりました。
おじいさんを愛する心を持つならば人類も鬼も皆兄弟、どんな患者でももはや同担に変わりありません。
従って、やらせのケガだろうとなんだろうと基本的には保険適用内で治療を施してきましたが、今回の自作自演のこぶはさすがにどうなんだろうと。
融通の利かない若頭には判断がつかなかったのです。
(今だ!!)
がっしりとした後ろ姿が戸の向こうに消えるや否や、ワルオが跳ね上がります。
急いで荷物置き場に置いていた鞄からカメラ機能が搭載された端末を取り出しました。
まだまだ画素数が少ない粗い画像の時代ではありましたが、どうしてもマイお宝として残したいのです。
まずは全体像に、次におじいさんのアップもと。
手が震えるのを堪えながら一生懸命に撮ります。
せっかくだからおじいさんと一緒に写したいと欲が出てしまったその時です。
「てめぇ、このヤロー、なにしてやがんだっ!!」
怒号が室内に響き渡りました。
文字通り鬼のような形相で若頭が立っていました。
先ほどまでの穏やかな整形外科医はどこにもいません。
ワルオの目には角ですら見えました。
でも実際にも本当に角が生えていました。
「うさんくせぇ奴だと思っていたが、ただじゃおかねぇ」
「じゃ、問題ないですねぇ。その生活を続けて下さい」
内心ヒヤリとさせられましたが、副院長の全く気にしていない様子にワルオがホッと安心しました。
ですが、このまま診察が終了してしまうと写真が撮れません。
「あのぅ…実は…」
身を起こして台の上に座り直すと院内に入ってからずっと付けたままの黒い布をおずおずと取りました。
「予約を取った時にはなかったのですが、数日前から頬にこぶみたいなのができてしまって…」
状況を見て出そうと仕こんでいたネタを今ここで使うことにしたのです。
「どれどれ、ちょっと横を向いて下さい」
膨らんだ部位を見た途端にスッと若頭の目がわずかに閉ざされました。
それが人工的に作られたこぶだとわかったからです。
おそらくは吸引した脂肪を注射針か何かで注入したにちげぇねぇと。
若頭は察しました。
こぶの除去も添加も鬼の専門分野です。
他の奴らをだませても、このオレはだませねぇぞと。
診察する振りをしながら心の中で吐き捨てました。
けれども意味がわかりません。
おじいさんの写真をなんとかしてこの目で見ようと。
それこそ肩こり、腰痛、膝痛、頭痛、手足のしびれを自称する以外にも、打撲やら擦り傷やら捻挫やらなんやらをわざわざ自力でこしらえて来院してくる患者も少なくありませんでした。
ですが、外科的な施術までしてこぶを作ってきたのは初めてです。
(おじいさんのファンだから…?)
熱狂的ゆえにこぶを真似したのかと思い、いや違うとすぐさま否定します。
対外的にはおじいさんの個人情報保護の観点もあり、小さなできものを取ったとしかバラしていません。
こぶだと知っているはずがないのです。
「ちょっと器具を取ってきますね」
いずれにせよ、要親父確認案件だなと。
若頭が診察椅子から立ち上がりました。
おじいさんを愛する心を持つならば人類も鬼も皆兄弟、どんな患者でももはや同担に変わりありません。
従って、やらせのケガだろうとなんだろうと基本的には保険適用内で治療を施してきましたが、今回の自作自演のこぶはさすがにどうなんだろうと。
融通の利かない若頭には判断がつかなかったのです。
(今だ!!)
がっしりとした後ろ姿が戸の向こうに消えるや否や、ワルオが跳ね上がります。
急いで荷物置き場に置いていた鞄からカメラ機能が搭載された端末を取り出しました。
まだまだ画素数が少ない粗い画像の時代ではありましたが、どうしてもマイお宝として残したいのです。
まずは全体像に、次におじいさんのアップもと。
手が震えるのを堪えながら一生懸命に撮ります。
せっかくだからおじいさんと一緒に写したいと欲が出てしまったその時です。
「てめぇ、このヤロー、なにしてやがんだっ!!」
怒号が室内に響き渡りました。
文字通り鬼のような形相で若頭が立っていました。
先ほどまでの穏やかな整形外科医はどこにもいません。
ワルオの目には角ですら見えました。
でも実際にも本当に角が生えていました。
「うさんくせぇ奴だと思っていたが、ただじゃおかねぇ」
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる