23 / 40
悪いおじいさんの悪だくみ発動
しおりを挟む
ひたすら順番待ちです。
病院内の撮影や端末の使用を一切禁じますといった案内があるため、娯楽が全くない状態での待機です。
その間もしっかりと弁当売りや瓦版、魚売り、せともの売り、絵馬売りが売り歩きにやって来ます。
生きていくための商売根性だよなぁと。
どこか共感しながら、そして居眠りしながら待っているとようやく自分の番になりました。
気がつけば他には誰もいませんでした。
「ほんとにお待たせしてしまって、すみません」
夕方すぎになってしまったことを副院長の若頭ですと名乗ったごつい男が詫びました。
こんなに待たせておいて院長じゃないのかよとワルオは内心不服を感じながらもキョロキョロと診察室を見渡しました。
(あっ…)
ありました、ありました、おじいさんと病院スタッフの記念写真です。
壁にしっかりと飾られてました。
「わぁ、すごい」
根は純粋なファンでもあるワルオが思わず口に出して目を輝かせてしまいました。
ハッとして自制心を取り戻します。
「あ、これですか? えぇ、実はあのキングアルファで有名なおじいさんが当院にいらっしゃいましてねぇ」
待ってましたとばかりに若頭もフフッと目を細めます。
「そうなんですか、あのイケメンおじいさんがですか…それはすごいですねぇ」
ワルオもまたお約束とばかりの言葉で返しました。
「で、ど、どうだったんですか…本物のおじいさんは」
これは純粋な疑問です。
しかも嘘偽りのない高純度の純粋さです。
「いやぁ、どうって聞かれましてもねぇ…ほんとに…」
いつ思い出しても何度思い出してもいいとばかりに。
若頭が噛みしめました。
「控えめに言っても…地上の生きた美の至高神って言うんですか…ほんっっと次元が違いましたよ」
「生きた美の至高神!! そりゃ、すごいですねぇ!!」
この返事もまた不純物ゼロの純粋さで放たれた感嘆でした。
さすが、オレのおじいさんと。
やっぱり、オレの推しだけあるぜと。
誇りに思いながらも同時に妬みも発生します。
ちくしょう、オレも生おじいさんに会いたいと。
終わらない自慢話を聞きながら。
これだから個々の診察時間がえらく長かったんだなと頭の片隅で理解しながら。
ワルオの中でメラメラと欲求が湧き上がります。
(せめて…あの写真を…)
持って帰りたいと欲しました。
もちろん盗んだら一発でバレます。
だからやるのは盗み撮りです。
おそらくはネットへの拡散や商業利用を防ぐためにでしょう。
撮影絶対に禁止という貼り紙がうっとうしいくらいに壁を埋め尽くしている中、なんとかして撮ってやるとワルオが闘志を燃やしました。
「じゃ、そろそろ診察をしましょう。腰でしたよね」
診察台に俯せに寝るように促されて素直に従いました。
「あれ…問題ないんじゃないんですかねぇ」
「えぇ、そうなんですよ、おじいさんの尊い写真を見て、尊い話を聞いていたら調子よくなっちゃいました」
「皆さん、そう言うんですよねぇ」
つまりは大半がおじいさんの写真見たさの口実なわけです。
しょうがねぇ連中だよなぁと。
自分のことは横に置いて心の中でワルオがツッコみます。
その腰を揉みながら若頭が首を傾げました。
「なんか…意外と身体が若いですよねぇ」
病院内の撮影や端末の使用を一切禁じますといった案内があるため、娯楽が全くない状態での待機です。
その間もしっかりと弁当売りや瓦版、魚売り、せともの売り、絵馬売りが売り歩きにやって来ます。
生きていくための商売根性だよなぁと。
どこか共感しながら、そして居眠りしながら待っているとようやく自分の番になりました。
気がつけば他には誰もいませんでした。
「ほんとにお待たせしてしまって、すみません」
夕方すぎになってしまったことを副院長の若頭ですと名乗ったごつい男が詫びました。
こんなに待たせておいて院長じゃないのかよとワルオは内心不服を感じながらもキョロキョロと診察室を見渡しました。
(あっ…)
ありました、ありました、おじいさんと病院スタッフの記念写真です。
壁にしっかりと飾られてました。
「わぁ、すごい」
根は純粋なファンでもあるワルオが思わず口に出して目を輝かせてしまいました。
ハッとして自制心を取り戻します。
「あ、これですか? えぇ、実はあのキングアルファで有名なおじいさんが当院にいらっしゃいましてねぇ」
待ってましたとばかりに若頭もフフッと目を細めます。
「そうなんですか、あのイケメンおじいさんがですか…それはすごいですねぇ」
ワルオもまたお約束とばかりの言葉で返しました。
「で、ど、どうだったんですか…本物のおじいさんは」
これは純粋な疑問です。
しかも嘘偽りのない高純度の純粋さです。
「いやぁ、どうって聞かれましてもねぇ…ほんとに…」
いつ思い出しても何度思い出してもいいとばかりに。
若頭が噛みしめました。
「控えめに言っても…地上の生きた美の至高神って言うんですか…ほんっっと次元が違いましたよ」
「生きた美の至高神!! そりゃ、すごいですねぇ!!」
この返事もまた不純物ゼロの純粋さで放たれた感嘆でした。
さすが、オレのおじいさんと。
やっぱり、オレの推しだけあるぜと。
誇りに思いながらも同時に妬みも発生します。
ちくしょう、オレも生おじいさんに会いたいと。
終わらない自慢話を聞きながら。
これだから個々の診察時間がえらく長かったんだなと頭の片隅で理解しながら。
ワルオの中でメラメラと欲求が湧き上がります。
(せめて…あの写真を…)
持って帰りたいと欲しました。
もちろん盗んだら一発でバレます。
だからやるのは盗み撮りです。
おそらくはネットへの拡散や商業利用を防ぐためにでしょう。
撮影絶対に禁止という貼り紙がうっとうしいくらいに壁を埋め尽くしている中、なんとかして撮ってやるとワルオが闘志を燃やしました。
「じゃ、そろそろ診察をしましょう。腰でしたよね」
診察台に俯せに寝るように促されて素直に従いました。
「あれ…問題ないんじゃないんですかねぇ」
「えぇ、そうなんですよ、おじいさんの尊い写真を見て、尊い話を聞いていたら調子よくなっちゃいました」
「皆さん、そう言うんですよねぇ」
つまりは大半がおじいさんの写真見たさの口実なわけです。
しょうがねぇ連中だよなぁと。
自分のことは横に置いて心の中でワルオがツッコみます。
その腰を揉みながら若頭が首を傾げました。
「なんか…意外と身体が若いですよねぇ」
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
噛痕に思う
阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。
✿オメガバースもの掌編二本作。
(『ride』は2021年3月28日に追加します)
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる