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14:囚われて※

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 「覚えているか・・・オレたちが初めて会った日のことを・・・」

 自らの心に向き合いたいのか。ハデスが静かに背中を向けて、パキンッ、パキンッと。砕けて散乱する鏡の中を歩き始める。

 「オレはまるで昨日のことのように覚えている・・・・・・レウケーを失った後、その喪失感と虚脱感からオレは冥府にこもった。

 そして、オレがオリュンポスに関与しなかったその間に、好色な弟ゼウスがお前の母デメテルを・・・ヘラの目を盗んで噛み、隷属化した」

 (レウケー・・・)

 聞こえてきたその名に、ピクリと身体を震わせる。

 精霊ニュムペーゆえに、冥界の気に心を蝕まれ、自死した先妻だ。意識しなかったことなどない。

 そして、デメテル――この名も考えない日などなかった。

 「子供を産み、あの病んだポセイドンにも噛まれ、弟たちの慰み者になっているとヘスティアから耳にして、エレウシスにすぐさま向かい、そこでお前と会った」

 そうだ。鮮やかに蘇る。オリュンポス、神々の治政へと復活したハデスが、離れた地にある宮殿に尋ねてきたのだ。自分たちを庇護下に置くために。

 (オレだって、はっきりと覚えている・・・)

 黒く長く流れる髪に、左右で異なる色の瞳を持つ美しい存在に。幼心にも圧倒され、そして――

 「愛らしく聡明なお前は、虚無一色だったオレを一目で魅了した」

 (えっ・・・)

 思いがけない言葉を耳にして、その背中を凝視した。

 「オレの中のその愛しさは・・・・・・いつしか、お前が成長するにつれ、お前が美しくなればなるほど、強く激しくなり、オレはお前をツガイにしたいと・・・心から望むようになった」

 (そ、そんな・・・)

 それは初めて耳にする心情だ。本当なのだろうかと。あてもなく歩んでいる相手を見つめ続ける。だって、だって、ハデスは・・・と心の奥で声がした。

 「だが・・・年端もいかない、善悪の判断すらままならないお前の首を。いていないような父親の代わりに、慕ってくれていたお前を・・・騙すようにして噛んだことを、デメテルは激しく怒った。あの温和で気弱な妹がな」

 (えっ・・・騙すようにして・・・って・・・いや、それは・・・それは・・・)

 違うと。そうじゃないと。心の中で否定する。それに、母デメテルが感情を害した理由についてもだ。

 (母さんは・・・)

 ハデスに想いを寄せていたのだ。だから、失望し、憤ったのだ――そう思い返した途端に、涙が滲んだ。

 「使者を出し、手紙を書き、何度も会って説得したが、頑なに拒まれた。そのうち、お前たち親子は・・・オレの守護を外し、宮殿に強力な結界を張り、外部からの接触を全て遮断した」

 「!!」

 「お前たちは全身全霊でオレを拒んだ」

 「ち、違う・・・そ、それは・・・それは・・・」

 そうじゃないのだ。それが理由ではないのだ。別の事情があったのだ。だが、真相を口にすることができない。

 「オレはお前たち親子の心が開かれる日を何年も待ち続け、お前を妻にすることを願い続けていた・・・そんなある日、アフロディーテのたわいもない話をきっかけに、オレはお前の居場所を知った」

 ハデスがピタリと立ち止まり、振り返った。

 「誰だ? 誰のために、あんなことをした?」

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