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12:ペガサスの懇願とツガイとしての求愛と※

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 「ルーベ、テーバイの地はピキオン山、スフィンクスの館を目指せ」

 「ワフッ!!」

 アトラスが歩みを止めることなく、そして御者台から視線をそらすことなく、魔獣に命令を下した。

 (アトラス・・・)

 銀色の長い髪をなびかせて。視線を交わしながら荷台の横を通り過ぎた者が、幌を上げて、ギシッと膝をついて中に入ってくる。バサッと背後で分厚い布が落ちた。

 「テセウス、幕を下ろせ」

 密な空間にしろと命じられて。ゴクリと嚥下し、おずおずと御者台から身を戻す。震えの走る指先で、小窓を閉ざした。

 アトラスの全身から漂っている、そのむせ返るようなアルファのアルケーに、そのオスの求愛の熱情に。酩酊しそうになる。ハァ・・・と息を吐いた。

 ドックン、ドックンと。気が乱れ、呼吸が苦しい。触れられてもいないというのに、邪淫で燻っていた全身が。一気に発火したかのように熱を帯びて。

 (あぁ・・・)

 と視界が潤む。

 出入り口で動きを止めたアトラスが、カチャッ、カチャッ、カチャッと。

 両腕の、両肩の、胸の重厚な防具を見せつけるように外しては、ドサッ、ドサッ、ドサッと。段差が設けられた床下へと放り投げる――情欲に濡れた、その青紫色の瞳を向けたまま。

 (アトラス・・・)

 今までとは打って変わって、ゆっくりと。胴周りも脚も、下半身を護る全ての甲冑を、それこそサンダルすらも。目の前で丁寧に脱いで取り去った男が。傍らにある酒瓶に手を伸ばした。

 片膝を立てて、座した姿勢で。ポンッとフタを開けて、ゴクリと喉を動かして酒を飲む。滴で濡れた唇を舌で舐め取る、その間もずっと。獲物に狙いをつけたように片時も目を離さない。

 (なぜ・・・)

 今にも飛びかかってきそうな、飢えた肉食獣のように。ギラギラとどうしようもなく孕んでいるというのに。どうして、酒なんか飲んで見せるのか。

 そのまま酒瓶に口をつけながら見つめているだけで、一向に近づいて来ない相手の。その露骨で扇情的な態度と濃密な空気に耐えきれずに下を向いた。全身が勝手に震えて、止まらない。

 「テセウス、さっき、オレをツガイとして欲したな?」

 「!!」

 ようやく、口を開いたと思えば。困惑を覚えるような内容で。

 (そんな・・・)

 と視線を泳がさずにはいられない。あの口づけの最中に心の中で求めたことを察したというのか。だとしても、なぜ、そんな風にあえて聞いてくるのか。

 これまでのように荒々しく、抱きに来ればいいじゃないかと。そうは思っても、声に出せずに、小窓の前で動けなくなってしまう。知らず知らず、ギュッと衣服の裾を握ったその時――

 「テセウス、来い」

 と言いつけられて、思わず目を見開いた。

 その発言が意味することは、お前からオレを求めに来いと。薄着になった雄々しい体躯で、欲情に濡れた瞳で指図されて。

 「ア、アトラス・・・」

 「こっちに来い、テセウス」

 少し進めば、手が届く距離だというのに。動かずに呼びつける男の声に、身体がカァッと一層熱くなった。

 (な、なんで・・・)

 どうして、そちらからは動いてくれないのか。ハァハァと乱れる息の、つらい身体の状態は何も変わっていない。来て欲しい。早く触って、抱いて欲しい。

 「アトラス・・・た、頼むから・・・」

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