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12:ペガサスの懇願とツガイとしての求愛と※

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 「テセウス、いいか・・・」

 言い聞かせようとした相手に首を振って、意思を強く示す。

 「いやだ・・・ハァハァ・・・置いていかれる・・・のは・・・ハァハァ・・・オレも・・・」

 「テセウス、メデューサの体液は邪淫だけでなく毒も含む。お前に少しでも触れさせるわけにはいかない。ここにいてくれ」

 「いやだ・・・いや・・・だ・・・」

 そういう事情があってのことだったとしても。だどするならば、なおさら、きっと。外に出た後、結界でも張って、閉じこめるつもりなのだ。直感でそう感じる。

 けれども。自分だって、知りたいのだ。自分だって、ちゃんと関わりたい。なによりも――

 「離れたくない」

 青紫色の瞳が見開かれ、眉をひそめた相手に狂おしげに見つめられた。

 「テセウス・・・」

 自分には隠し事はして欲しくない。秘密裏に終わらせて欲しくなんかない。きちんと分かち合って欲しい。

 先ほど、獣車に置いて行かれた時の。やるせなかった気持ちが今、明確な形となって湧き上がる。

 「アトラス・・・ハァハァ・・・オレは・・・」

 心情を告げようとした唇が即座に奪われた。

 「んっ・・・んぅっ・・・」

 舌が挿し入れられた同時に、激情の気が流れこんでくる。

 「ぅんっ・・・ぁんっ・・・ぅぅんっ・・・」

 その熱のこもったアルケーから、その激しい愛撫から、感じる想いは――お前の身体のもっと奥まで。オレで侵したい。お前をオレのモノにもっとしたいと。荒々しいまでの渇望だ。

 (あぁ・・・)

 愛されているのだ、間違いなく。

 (アトラス・・・)

 より深く、より存分にと。右に左に、顔の向きを変えてくる相手に応えながら。背中を掻きむしるように両手で撫でまわす。この男が愛おしくてたまらない。

 (ずっと・・・一緒にいたい・・・ずっと・・・)

 その発露は偽りのない心からの欲求で。

 「アト・・・ぅんんっ・・・ふっ・・・んんっ・・・」

 舌を絡ませ合っては、互いに夢中になって貪り合う。邪淫に犯されているからじゃない。

 「んんっ・・・ぅんっ・・・んんっ・・・」

 こんなにも情熱的に求められているのだって、発情したオメガだからじゃない。愛し合っているからだ。

 (アトラス・・・オレの・・・・・・ツガイ・・・)

 強く欲した途端、バッと相手から両手で身を押された。

 「テセウス・・・」

 ハァハァ・・・と荒い息で、濡れた唇で、潤んだ瞳で、行為をやめた相手を見つめる。

 「先に・・・ケリをつけてくる・・・」

 アトラスが瞳を閉じて、フゥ・・・と肩で大きく息をした。

 「オレも・・・ハァハァ・・・行く・・・」

 それでも、ギュッと。外套クライナを握りしめて放さない手に、大きな手が重なる。

 「小窓から見てていい。だから、外には出るな。ここにいてくれ、頼む」

 そっと一本ずつ指が外されると、ザッと幕が上げられた。

 「ここから見てろ。いいな?」

 譲歩した相手に、自分もまた歩み寄る。それならと。静かに頷いた。

 「すぐ戻る」

 想いを振り切るようにして、アトラスが外に出て行く。とすぐさま、震えの走る身体を奮い立たせて。御者台に身を乗り出した。


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