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第14章 正体とその愛を知る
5 監獄で自分を弄んだ傲慢なアルファ神族
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(あっ…)
大きな岩の上に腰掛けるように優しく下ろされ、スッと離れていった温もりに言いようのない寂しさを覚える。
近くに立つ木の幹に片手をついて、躊躇する様子を見せた背中に、オルフェウス…と心の中で呼びかけて、違うとすぐさま否定した。
もはや、その心から信頼し、互いに求め合った存在はいないのだ。
目の前にいるのは番いがいる精霊族のアルファだと知りながら、監獄で自分を弄んだ傲慢なアルファ神族だ。
「なぜ、エウリュステウス殺しを背負ったんだ?」
「…オレが殺したからだ」
「殺したのは君ではない」
「いや、オレだ」
「違う。エウリュステウスを撲殺したのはヘラクレスだ」
「ッ…なんで、なんで今さらそんなことを言うんだっ!!」
そうだ、今さらなのだ。
ティリンス国の卑劣な王エウリュステウスを殺害したのはヘラクレスだ。
それは疑いようのない事実だ。
けれどもヘラクレスを罰するわけにはいかなかったのだ。
(全て…わかっているくせに…)
至る所で小競り合いが多発し、いつ開戦となってもおかしくないとされている聖戦ギガントマキア。
半神半人のヘラクレスの協力なくしては巨人族に勝利することはありえない――その、オリュンポスの神託を預かる全ての神官、巫女、占い師の共通の予知もあって、当初は冥府の王が不問に付すと決断し、地の王ゼウスも支持したのだ。
エウリュステウスがした非道な行為への正当な怒りと見なされた面も大きかった。
支配者階級は誰しも皆、あの気まぐれなポセイドンですら、オリュンポスの未来を思って妥当だと見なした。
にもかかわらず、ただひとり激しく異を唱える者がいたのだ。
ゼウスの妻、オリュンポスのガンマ属の頂点ヘラだ。
「私が境界沿いの視察から戻ると君の刑が既に確定していた…なぜ、やってもいない罪に自ら名乗り出た?」
(やってもいない罪…というのか…アポロン…)
ヘラクレスを糾弾し続ける者のために、わざわざ人身御供にならなくてもよかったのにとでも言いたいのか。
この身こそが罰せられる存在だというのに。
涙とともに堪えきれずに嗚咽が漏れた。
「ヘラクレスでなくても…オレがやってた…本来はオレが…っ…オレがやることだった…そうだろ? だからオレが殺したも同然だ、だからだっ!!」
「それは違う」
「どこが違うんだっ!! どこの世界に、番いがっ、番いがあんな目に遭わされてっ…」
平然としていられる者がいるだろうか。
誰だって、殺してやりたいと思うはずだ。
そして実行するに決まっている。
けれども現実に行動に移したのは友であるヘラクレスだ。
なぜなら自分は、卑劣なエウリュステウスにひどい目に遭わされている時に自分は、夫である自分は男に抱かれていたのだから。
あぁ…と岩の上に泣き崩れた。
「ごめん…へベ…」
森林の小鳥がさえずる中で後悔と嗚咽の音だけが異質に響く。
しばらくして、ダフネ…と声をかけられた。
「へベは…生きている」
「!?」
「へベは生きているんだ」
大きな岩の上に腰掛けるように優しく下ろされ、スッと離れていった温もりに言いようのない寂しさを覚える。
近くに立つ木の幹に片手をついて、躊躇する様子を見せた背中に、オルフェウス…と心の中で呼びかけて、違うとすぐさま否定した。
もはや、その心から信頼し、互いに求め合った存在はいないのだ。
目の前にいるのは番いがいる精霊族のアルファだと知りながら、監獄で自分を弄んだ傲慢なアルファ神族だ。
「なぜ、エウリュステウス殺しを背負ったんだ?」
「…オレが殺したからだ」
「殺したのは君ではない」
「いや、オレだ」
「違う。エウリュステウスを撲殺したのはヘラクレスだ」
「ッ…なんで、なんで今さらそんなことを言うんだっ!!」
そうだ、今さらなのだ。
ティリンス国の卑劣な王エウリュステウスを殺害したのはヘラクレスだ。
それは疑いようのない事実だ。
けれどもヘラクレスを罰するわけにはいかなかったのだ。
(全て…わかっているくせに…)
至る所で小競り合いが多発し、いつ開戦となってもおかしくないとされている聖戦ギガントマキア。
半神半人のヘラクレスの協力なくしては巨人族に勝利することはありえない――その、オリュンポスの神託を預かる全ての神官、巫女、占い師の共通の予知もあって、当初は冥府の王が不問に付すと決断し、地の王ゼウスも支持したのだ。
エウリュステウスがした非道な行為への正当な怒りと見なされた面も大きかった。
支配者階級は誰しも皆、あの気まぐれなポセイドンですら、オリュンポスの未来を思って妥当だと見なした。
にもかかわらず、ただひとり激しく異を唱える者がいたのだ。
ゼウスの妻、オリュンポスのガンマ属の頂点ヘラだ。
「私が境界沿いの視察から戻ると君の刑が既に確定していた…なぜ、やってもいない罪に自ら名乗り出た?」
(やってもいない罪…というのか…アポロン…)
ヘラクレスを糾弾し続ける者のために、わざわざ人身御供にならなくてもよかったのにとでも言いたいのか。
この身こそが罰せられる存在だというのに。
涙とともに堪えきれずに嗚咽が漏れた。
「ヘラクレスでなくても…オレがやってた…本来はオレが…っ…オレがやることだった…そうだろ? だからオレが殺したも同然だ、だからだっ!!」
「それは違う」
「どこが違うんだっ!! どこの世界に、番いがっ、番いがあんな目に遭わされてっ…」
平然としていられる者がいるだろうか。
誰だって、殺してやりたいと思うはずだ。
そして実行するに決まっている。
けれども現実に行動に移したのは友であるヘラクレスだ。
なぜなら自分は、卑劣なエウリュステウスにひどい目に遭わされている時に自分は、夫である自分は男に抱かれていたのだから。
あぁ…と岩の上に泣き崩れた。
「ごめん…へベ…」
森林の小鳥がさえずる中で後悔と嗚咽の音だけが異質に響く。
しばらくして、ダフネ…と声をかけられた。
「へベは…生きている」
「!?」
「へベは生きているんだ」
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