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第13章 黄金の林檎の園ヘスペリデス
2 ヘスペリデスの園
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どういうわけだか美しい森の中にいる。
豊かに生い茂る葉がサワサワと風に吹かれては波打ち、枝ではチチチッ…と小鳥たちが競うようにさえずっていて。
見渡す限りに広々とした空間には糸杉の木々や月桂樹が所狭しと立ち並び、幹の下には花々が咲き乱れていて、まばゆいほどの色鮮やかさでもって目に入りこんでくる。
けれどもなぜ、このように霊気に満ちた場所にいるのか。
(ハデス神殿では…ない…)
大きな岩盤の上で膝まで水流に浸る姿勢で寝かされていた状態も似てはいるが、やはり異なっていた。
(霊水…なのか…)
岩の下でサラサラと流れている水をじっと見つめた。
幽水といった感じはしない。
けれども神殿の庭で経験したように、ぽわんっ、ぽわんっと時折、水面から揺らいで生まれた物体が肌の上へとせり上がってくる。
どちらかというと薄い気泡に近い黄白色の玉だが、触れては弾け、また浮かび上がっては触れてくる――それらの感触がとても心地よくて、ここはどこなんだと改めて感じ入った。
「ラドンさまに早く伝えに行かないとねーーっ」
「ほんとだねーーっ」
「でも、あの方には? あの美しい方には伝えなくていいの?」
ラドンさまとは、あの方とは、一体誰のことだろうか。
黄緑色の透けた羽根からパタパタと光る鱗粉を撒きながら、円陣を組むように肩を抱き合って丸くなっている姿は邪悪な属性には思えない。
どちらかというと真逆だ。
その無垢にも感じられる三体にどことなく親しみを覚えながら、あのさ…と声をかけた。
「君たちはさ、誰…なのかな? ここは…どこ…なんだ?」
すると、ぐるんっと一斉に振り返ったプシュケーたちに声を合わせて叫ばれた。
「やっぱり忘れてるのかーーいっ」
「えっ」
「もーーっ、へスペ、ペリデ、リデスだよーーっ」
わかっててもショックだよねと、同じ声で同時に訴えてくる顔を見た途端に三つ子だと理解した。
髪型も顔も身体つきも、着ている貫頭衣も羽根の色も全てが同じだ。
ただ頭の上から釣り竿のように前に垂れ下がっている、おそらくは誘因突起であるだろう物体の発光している色だけが異なる。
確か青色がヘスペ、緑色がペリデ、黄色がリデスだと記憶の中の知識が自然と浮かび上がった途端に、居場所の地名が閃いた。
(ヘスペリデスの園…か…)
世界の西の果て、アルカディアの地にある果樹園だ。
そこにある、不死の源と称される黄金の林檎を手に入れること。
それが自分たちの最後の使命だったはずだ。
その土地に既に着いていたのかと思った矢先に、ふわぁっと青色と緑色の二体が飛び立った。
「とにかく、ラドンさまに早く知らせに行かないとねーーっ」
「ほんとだねーーっ」
「えっ…あの方はいいの?」
「お供のちっこい鳥が呼びに行ってるし、そっちはいいんじゃない?」
あ、そっかと頷いて黄色のプシュケーもまた身体を浮かせて合流する。
空中でじゃれ合うようにしながら、先に行ってるねーーっという言葉ともに光の球になって消え去った。
(なんだったんだろう…)
豊かに生い茂る葉がサワサワと風に吹かれては波打ち、枝ではチチチッ…と小鳥たちが競うようにさえずっていて。
見渡す限りに広々とした空間には糸杉の木々や月桂樹が所狭しと立ち並び、幹の下には花々が咲き乱れていて、まばゆいほどの色鮮やかさでもって目に入りこんでくる。
けれどもなぜ、このように霊気に満ちた場所にいるのか。
(ハデス神殿では…ない…)
大きな岩盤の上で膝まで水流に浸る姿勢で寝かされていた状態も似てはいるが、やはり異なっていた。
(霊水…なのか…)
岩の下でサラサラと流れている水をじっと見つめた。
幽水といった感じはしない。
けれども神殿の庭で経験したように、ぽわんっ、ぽわんっと時折、水面から揺らいで生まれた物体が肌の上へとせり上がってくる。
どちらかというと薄い気泡に近い黄白色の玉だが、触れては弾け、また浮かび上がっては触れてくる――それらの感触がとても心地よくて、ここはどこなんだと改めて感じ入った。
「ラドンさまに早く伝えに行かないとねーーっ」
「ほんとだねーーっ」
「でも、あの方には? あの美しい方には伝えなくていいの?」
ラドンさまとは、あの方とは、一体誰のことだろうか。
黄緑色の透けた羽根からパタパタと光る鱗粉を撒きながら、円陣を組むように肩を抱き合って丸くなっている姿は邪悪な属性には思えない。
どちらかというと真逆だ。
その無垢にも感じられる三体にどことなく親しみを覚えながら、あのさ…と声をかけた。
「君たちはさ、誰…なのかな? ここは…どこ…なんだ?」
すると、ぐるんっと一斉に振り返ったプシュケーたちに声を合わせて叫ばれた。
「やっぱり忘れてるのかーーいっ」
「えっ」
「もーーっ、へスペ、ペリデ、リデスだよーーっ」
わかっててもショックだよねと、同じ声で同時に訴えてくる顔を見た途端に三つ子だと理解した。
髪型も顔も身体つきも、着ている貫頭衣も羽根の色も全てが同じだ。
ただ頭の上から釣り竿のように前に垂れ下がっている、おそらくは誘因突起であるだろう物体の発光している色だけが異なる。
確か青色がヘスペ、緑色がペリデ、黄色がリデスだと記憶の中の知識が自然と浮かび上がった途端に、居場所の地名が閃いた。
(ヘスペリデスの園…か…)
世界の西の果て、アルカディアの地にある果樹園だ。
そこにある、不死の源と称される黄金の林檎を手に入れること。
それが自分たちの最後の使命だったはずだ。
その土地に既に着いていたのかと思った矢先に、ふわぁっと青色と緑色の二体が飛び立った。
「とにかく、ラドンさまに早く知らせに行かないとねーーっ」
「ほんとだねーーっ」
「えっ…あの方はいいの?」
「お供のちっこい鳥が呼びに行ってるし、そっちはいいんじゃない?」
あ、そっかと頷いて黄色のプシュケーもまた身体を浮かせて合流する。
空中でじゃれ合うようにしながら、先に行ってるねーーっという言葉ともに光の球になって消え去った。
(なんだったんだろう…)
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