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第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟
8 デルタの軍団長
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どういう意味なのかと様子を窺うが、女官長からの返事はない。
静まり返った一行の様子に、禁断の話題に触れたのではないかとそんな気がした。
「ご、ご覧下さいませ…ご滞在頂くのは、あちらの塔でございます」
これ以上この話題を掘り下げられては困ると思ったのか、すかさず前方へと女官長が注意をそらした。
(あれは…)
まさか、あの場所に寝泊まりするのかとつい目をこらしてしまう。
広く切り開かれた草地の真ん中に、ポツンとそれだけが建っている姿は闇夜で航路を照らす灯台のようにも、辺境の地で境界を守る要塞のようにも見える。
幅広い円柱の本体部分の、その表面は緑色の葉の茂ったツタが上へ上へと目指すようにびっしりとつたい、最上階には露台のある豪華な居住空間が、そしてその上には尖った帽子のような屋根がのっている。
その傍らからガシャ、ガシャ、ガシャと武具を鳴らしながら勇ましい兵士が現れた。
「お待ちしておりました。ピューレウスと申します。我が父アウゲイアスの勅命により、本日より警備にあたらせて頂きます」
ガシャッと跪き、両手のひらを胸の前で重ねると頭を下げながら低い声で挨拶を口にした。
「アウゲイアス王の娘か」
「はい、さようでございます。どうぞ、ご安心下さいませ。我が軍団はデルタ属性の戦士のみで構成されております。塔は元よりこの辺り一帯には雄性を持つ者など蟻一匹通しません」
(む、娘なのか…)
告げられた言葉から雌性のみのデルタであることを理解するが、男らしさを誇示するかのようないかつい体躯からは到底信じがたい。
それをオルフェウスは一目で見抜いたというのか。
もしくは元々知っていたのか。
それは心強い、よろしく頼むと動揺することもなく美声が応じると、ははっ…とピューレウスが頭を深く下げてから立ち上がった。
「我々は外の警備に徹する。引き続き、お部屋への案内と塔内での給仕にあたるように」
「はい、かしこまりました」
デルタの軍団長が傍らに控えている部下の側に退くと、女官長とともに前に進み、塔の中へと足を踏み入れる。
一歩また一歩と女官長と侍女たちが螺旋の階段を丁寧に上り、その間をオルフェウスに抱かれたまま、まるで捧げられる供物にでもなったかのように移動し始めた。
「建物は一階は物販の搬入および調理場になっておりまして、二階はわたくしどもの控え室に、三階はお食事場所、四階はお風呂、五階は寝所となっております」
説明を耳にしながら、至る所にパチパチと松明が焚かれてどこもかしこもが明るい中を上へ上へと目指して歩いて行く。
「こちらの塔が広々とした場所にあえて建てられましたのは、ひとえにご来賓さまにこの風景を楽しんで頂くためでございます」
最上階へとたどり着くと、さぁああっと閉ざされてない窓から風が入りこんできた。
(すごいな…)
大男が数人で寝そべったとしても余りあるだろう大きな寝具が置かれ、色鮮やかな調度品に飾られた室内は言うまでもなく見事だ。
けれどもやはり女官長が誇ったように、一つの窓から外のバルコニーに出て、壁沿いにつたって東西南北全ての方角をグルリと網羅できる景観は抜き出ている。
だが、興味なさそうに一瞥した者があっさりと告げた。
静まり返った一行の様子に、禁断の話題に触れたのではないかとそんな気がした。
「ご、ご覧下さいませ…ご滞在頂くのは、あちらの塔でございます」
これ以上この話題を掘り下げられては困ると思ったのか、すかさず前方へと女官長が注意をそらした。
(あれは…)
まさか、あの場所に寝泊まりするのかとつい目をこらしてしまう。
広く切り開かれた草地の真ん中に、ポツンとそれだけが建っている姿は闇夜で航路を照らす灯台のようにも、辺境の地で境界を守る要塞のようにも見える。
幅広い円柱の本体部分の、その表面は緑色の葉の茂ったツタが上へ上へと目指すようにびっしりとつたい、最上階には露台のある豪華な居住空間が、そしてその上には尖った帽子のような屋根がのっている。
その傍らからガシャ、ガシャ、ガシャと武具を鳴らしながら勇ましい兵士が現れた。
「お待ちしておりました。ピューレウスと申します。我が父アウゲイアスの勅命により、本日より警備にあたらせて頂きます」
ガシャッと跪き、両手のひらを胸の前で重ねると頭を下げながら低い声で挨拶を口にした。
「アウゲイアス王の娘か」
「はい、さようでございます。どうぞ、ご安心下さいませ。我が軍団はデルタ属性の戦士のみで構成されております。塔は元よりこの辺り一帯には雄性を持つ者など蟻一匹通しません」
(む、娘なのか…)
告げられた言葉から雌性のみのデルタであることを理解するが、男らしさを誇示するかのようないかつい体躯からは到底信じがたい。
それをオルフェウスは一目で見抜いたというのか。
もしくは元々知っていたのか。
それは心強い、よろしく頼むと動揺することもなく美声が応じると、ははっ…とピューレウスが頭を深く下げてから立ち上がった。
「我々は外の警備に徹する。引き続き、お部屋への案内と塔内での給仕にあたるように」
「はい、かしこまりました」
デルタの軍団長が傍らに控えている部下の側に退くと、女官長とともに前に進み、塔の中へと足を踏み入れる。
一歩また一歩と女官長と侍女たちが螺旋の階段を丁寧に上り、その間をオルフェウスに抱かれたまま、まるで捧げられる供物にでもなったかのように移動し始めた。
「建物は一階は物販の搬入および調理場になっておりまして、二階はわたくしどもの控え室に、三階はお食事場所、四階はお風呂、五階は寝所となっております」
説明を耳にしながら、至る所にパチパチと松明が焚かれてどこもかしこもが明るい中を上へ上へと目指して歩いて行く。
「こちらの塔が広々とした場所にあえて建てられましたのは、ひとえにご来賓さまにこの風景を楽しんで頂くためでございます」
最上階へとたどり着くと、さぁああっと閉ざされてない窓から風が入りこんできた。
(すごいな…)
大男が数人で寝そべったとしても余りあるだろう大きな寝具が置かれ、色鮮やかな調度品に飾られた室内は言うまでもなく見事だ。
けれどもやはり女官長が誇ったように、一つの窓から外のバルコニーに出て、壁沿いにつたって東西南北全ての方角をグルリと網羅できる景観は抜き出ている。
だが、興味なさそうに一瞥した者があっさりと告げた。
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