アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
上 下
105 / 153
第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟

8 デルタの軍団長

しおりを挟む
 どういう意味なのかと様子を窺うが、女官長からの返事はない。
 静まり返った一行の様子に、禁断の話題に触れたのではないかとそんな気がした。

「ご、ご覧下さいませ…ご滞在頂くのは、あちらの塔でございます」

 これ以上この話題を掘り下げられては困ると思ったのか、すかさず前方へと女官長が注意をそらした。

(あれは…)

 まさか、あの場所に寝泊まりするのかとつい目をこらしてしまう。
 広く切り開かれた草地の真ん中に、ポツンとそれだけが建っている姿は闇夜で航路を照らす灯台のようにも、辺境の地で境界を守る要塞のようにも見える。
 幅広い円柱の本体部分の、その表面は緑色の葉の茂ったツタが上へ上へと目指すようにびっしりとつたい、最上階には露台バルコニーのある豪華な居住空間が、そしてその上には尖った帽子のような屋根がのっている。
 その傍らからガシャ、ガシャ、ガシャと武具を鳴らしながら勇ましい兵士が現れた。
 
「お待ちしておりました。ピューレウスと申します。我が父アウゲイアスの勅命により、本日より警備にあたらせて頂きます」

 ガシャッと跪き、両手のひらを胸の前で重ねると頭を下げながら低い声で挨拶を口にした。

「アウゲイアス王の娘か」
「はい、さようでございます。どうぞ、ご安心下さいませ。我が軍団はデルタ属性の戦士のみで構成されております。塔は元よりこの辺り一帯には雄性を持つ者など蟻一匹通しません」

(む、娘なのか…)

 告げられた言葉から雌性のみのデルタであることを理解するが、男らしさを誇示するかのようないかつい体躯からは到底信じがたい。
 それをオルフェウスは一目で見抜いたというのか。
 もしくは元々知っていたのか。
 それは心強い、よろしく頼むと動揺することもなく美声が応じると、ははっ…とピューレウスが頭を深く下げてから立ち上がった。
 
「我々は外の警備に徹する。引き続き、お部屋への案内と塔内での給仕にあたるように」
「はい、かしこまりました」

 デルタの軍団長が傍らに控えている部下の側に退くと、女官長とともに前に進み、塔の中へと足を踏み入れる。
 一歩また一歩と女官長と侍女たちが螺旋の階段を丁寧に上り、その間をオルフェウスに抱かれたまま、まるで捧げられる供物にでもなったかのように移動し始めた。

「建物は一階は物販の搬入および調理場になっておりまして、二階はわたくしどもの控え室に、三階はお食事場所、四階はお風呂、五階は寝所となっております」

 説明を耳にしながら、至る所にパチパチと松明ダロスが焚かれてどこもかしこもが明るい中を上へ上へと目指して歩いて行く。

「こちらの塔が広々とした場所にあえて建てられましたのは、ひとえにご来賓さまにこの風景を楽しんで頂くためでございます」

 最上階へとたどり着くと、さぁああっと閉ざされてない窓から風が入りこんできた。

(すごいな…)

 大男が数人で寝そべったとしても余りあるだろう大きな寝具が置かれ、色鮮やかな調度品に飾られた室内は言うまでもなく見事だ。
 けれどもやはり女官長が誇ったように、一つの窓から外のバルコニーに出て、壁沿いにつたって東西南北全ての方角をグルリと網羅できる景観は抜き出ている。
 だが、興味なさそうに一瞥した者があっさりと告げた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...