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第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟
5 妻に発情期の
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明らかに不機嫌となった王の声に、まずいと招待した守衛団長を始めとする一同が一斉に青ざめる。
ハラハラと成り行きが見守られる中で、詰問された側が口を閉じ、しばらくするといかにも困っているといった体で首を左右に振りながら続けた。
「申し訳ない…妻に発情期の兆しが出ている」
「!!」
「従って、できる限り人の出入りがない場所にしたい」
その、あえて間を置いてからなされた説明に、居合わせた全員が同時に息をのみ、おおーっとどよめき、そして王が叫んだ。
「そういうことでしたかっ!!」
なんという機転の利かせ方かと感じ入る隙もない。
突き刺すような視線を一身に受けるはめとなって、即座に顔をオルフェウスの肩へと背けた。
(うそ…なんで…もう…なんで…)
そんな理由を口にしてくれたんだと泣きそうになる。
確かに、妻との新婚旅行を誰にも邪魔されたくないと返して、王への不敬に問われるよりは遙かにいい。
発情期とくれば、理に適っているどころか、反論の出しようもない完全に個人の切羽詰まった事情だ。
けれども猛烈に恥ずかしくてたまらない。
耳の裏まで一気に熱くなった。
オメガの妻であることを確定させられた上に、あからさまに欲情手前だと周知されたのだ。
「これはこれは気が利かずに大変失礼したっ、すぐに北の角へとご案内させましょう!!」
王が、デルタの女戦士どもを手配して早急に離れに配置しろっと命じ、途端にドタバタと騒がしくなる。
その様子を冷めた横目で見つめていたオルフェウスが口を開いた。
「お気持ちには感謝するが、このまま発情期を起こした場合は晩餐会に出られないだけでなく迷惑をかけることにもなる…やはり街外れかどこかで宿を探すべきだろう」
「いやいやいや、お待ちを!! 女官長っ!!」
「は、はいっ、おそばに」
やや離れたところで大きな羽の付いた団扇の長い棒を持ち、待機していた黒髪の女性がすかさず走り寄ってきた。
「オルフェウス殿に離れについての説明を」
「は、はいっ…おそれながらオルフェウスさまに申し上げます…我らが王城の五角を守る木立の中にはご来賓さま用の宿舎がございまして、その塔からは松明に照らされた水堀の優美な夜景も存分に楽しめます。どうぞ奥方さまとそちらにお泊まり下さいませ」
団扇の棒を地面に立て、片膝をついた女官長らしき存在が頭を下げながら、王の意図を汲んで願い出た。
「そうか…では、ここはご厚意に甘えることとしよう。アウゲイアス王のお気遣いに心よりお礼を申し上げる」
相手をたてるように慇懃に謝意を示したオルフェウスに、そうです、そうですともとアウゲイアス王もまたまんざらでもない様子で頷いた。
「警備が行き届いた、我が城内にて是非とも発情期が終わられるまでゆったりと滞在なさればいい…おおっ、そうだ、奥方が休まれている間、もしよろしければ、オルフェウス殿とは…イストミア大祭の予選会を酒でも酌み交わしながら眺めたいものですなぁ」
ハラハラと成り行きが見守られる中で、詰問された側が口を閉じ、しばらくするといかにも困っているといった体で首を左右に振りながら続けた。
「申し訳ない…妻に発情期の兆しが出ている」
「!!」
「従って、できる限り人の出入りがない場所にしたい」
その、あえて間を置いてからなされた説明に、居合わせた全員が同時に息をのみ、おおーっとどよめき、そして王が叫んだ。
「そういうことでしたかっ!!」
なんという機転の利かせ方かと感じ入る隙もない。
突き刺すような視線を一身に受けるはめとなって、即座に顔をオルフェウスの肩へと背けた。
(うそ…なんで…もう…なんで…)
そんな理由を口にしてくれたんだと泣きそうになる。
確かに、妻との新婚旅行を誰にも邪魔されたくないと返して、王への不敬に問われるよりは遙かにいい。
発情期とくれば、理に適っているどころか、反論の出しようもない完全に個人の切羽詰まった事情だ。
けれども猛烈に恥ずかしくてたまらない。
耳の裏まで一気に熱くなった。
オメガの妻であることを確定させられた上に、あからさまに欲情手前だと周知されたのだ。
「これはこれは気が利かずに大変失礼したっ、すぐに北の角へとご案内させましょう!!」
王が、デルタの女戦士どもを手配して早急に離れに配置しろっと命じ、途端にドタバタと騒がしくなる。
その様子を冷めた横目で見つめていたオルフェウスが口を開いた。
「お気持ちには感謝するが、このまま発情期を起こした場合は晩餐会に出られないだけでなく迷惑をかけることにもなる…やはり街外れかどこかで宿を探すべきだろう」
「いやいやいや、お待ちを!! 女官長っ!!」
「は、はいっ、おそばに」
やや離れたところで大きな羽の付いた団扇の長い棒を持ち、待機していた黒髪の女性がすかさず走り寄ってきた。
「オルフェウス殿に離れについての説明を」
「は、はいっ…おそれながらオルフェウスさまに申し上げます…我らが王城の五角を守る木立の中にはご来賓さま用の宿舎がございまして、その塔からは松明に照らされた水堀の優美な夜景も存分に楽しめます。どうぞ奥方さまとそちらにお泊まり下さいませ」
団扇の棒を地面に立て、片膝をついた女官長らしき存在が頭を下げながら、王の意図を汲んで願い出た。
「そうか…では、ここはご厚意に甘えることとしよう。アウゲイアス王のお気遣いに心よりお礼を申し上げる」
相手をたてるように慇懃に謝意を示したオルフェウスに、そうです、そうですともとアウゲイアス王もまたまんざらでもない様子で頷いた。
「警備が行き届いた、我が城内にて是非とも発情期が終わられるまでゆったりと滞在なさればいい…おおっ、そうだ、奥方が休まれている間、もしよろしければ、オルフェウス殿とは…イストミア大祭の予選会を酒でも酌み交わしながら眺めたいものですなぁ」
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