アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
上 下
99 / 153
第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟

2 国賓扱い

しおりを挟む
 これではまるで国賓のようではないかと。
 他に格式高い賓客でも乗っていたのだろうかとつい周りを窺った。
 だが自分とオルフェウス以外に乗っているのは兵士たちだけだ。
 一体どういうことなのか。
 国の威厳を来訪者に知らしめる習わしでもあるのだろうか。

(だ、大丈夫なのか…)

 あまりにも常軌を逸した出迎えに、こちらの意図がバレているのかもしれないと、むしろ上陸した矢先に捕まらないだろうかと不安が競り上がってくる。
 緊張を隠せないでいる視線の先で、ガッタンと厚みのある立派な舷梯げんていが船と岸壁の間に設置されると団長が勇ましく駈け降りて行く。
 岸壁の待ち構える一行の前へと走り寄り、胸の前で両手のひらを上下に重ねると恭しく頭を垂れた。
 それに合わせてスッと中央にいた人物が手を上げ、ピタリと音楽が止んだ。

「正門守衛団長、報告を」

 静かになったその場に濁った太い声が響いた。

「はっ、我らが誉れアウゲイアス王にご報告申し上げます。こちらにおわす、リュキアから商売の下見に来られたオルフェウス殿は正門の守護石、真実の魔妖石アレーティア・マギアリトスをそれはそれは類を見ないほどに美しく黄金色に輝かせ、その奥方エウリュディケ殿もまた気品溢れる薄緑色で石が反応いたしました。そのため王の晩餐会にふさわしい客人と見なし、お連れした次第でございます」
「うむ…ご苦労だった」

 稀に見る逸材でございますとばかりに意気揚々として紹介した団長に対し、受けとめた側が質問をすることもなくあっさりと返す。
 それほど動じていない様子からして、あくまでも儀礼的な流れだったことがわかる。
 おそらくは伝令が既に通達していたか、あの不可解な石を通して感知していたかのどちらかだろう。
 
(あれが…アウゲイアス王か…)

 あくまでも体調がすぐれない体裁をとりながら、さりげなく盗み見た。
 肩よりも長い、クルクルと巻いた黒い毛は、エリス王国の民族の特長なのだろうか。
 門をくぐった時からやたらと目にする髪型だ。
 加えて、口やアゴの下を覆い隠す黒い巻き毛の髭もまた男たちによく見られる身だしなみだが、こちらは髭がない者が未成年で、髭が長ければ長いほどそれなりの地位を持つ者を示しているのだろう。
 王はとりわけ髪も髭も長く、植物性の油か何かで丁寧に手入れがされているのだろう、艶々とした色合いを保ち、円形や管の形の細かな飾り玉まで付いている。

(けど…)

 一歩また一歩と。
 まるで大切な宝物でも丁寧に運んでいるかのようにゆったりと岸壁へと歩んでいくオルフェウスの腕の中で、ぞわりといやな感覚に襲われた。

(なんか…気持ちの悪い男だ…)

 赤い派手な貫頭衣チュニックと足首まで長い腰衣の上には、金糸の刺繍が施された青い上衣プロゥバァを羽織り、頭には城壁冠に似た形の金色の布頭巾ピリディオンを被って。
 さらに首から胸までをジャラジャラと厚い金の首輪で覆い、腕や手首、全ての指にも宝飾品を付けている様は実に品がない。
 だが、その富と権力をひけらかす服装が理由ではないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

処理中です...