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第10章 怪異王アウゲイアスと不気味な異母兄弟
2 国賓扱い
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これではまるで国賓のようではないかと。
他に格式高い賓客でも乗っていたのだろうかとつい周りを窺った。
だが自分とオルフェウス以外に乗っているのは兵士たちだけだ。
一体どういうことなのか。
国の威厳を来訪者に知らしめる習わしでもあるのだろうか。
(だ、大丈夫なのか…)
あまりにも常軌を逸した出迎えに、こちらの意図がバレているのかもしれないと、むしろ上陸した矢先に捕まらないだろうかと不安が競り上がってくる。
緊張を隠せないでいる視線の先で、ガッタンと厚みのある立派な舷梯が船と岸壁の間に設置されると団長が勇ましく駈け降りて行く。
岸壁の待ち構える一行の前へと走り寄り、胸の前で両手のひらを上下に重ねると恭しく頭を垂れた。
それに合わせてスッと中央にいた人物が手を上げ、ピタリと音楽が止んだ。
「正門守衛団長、報告を」
静かになったその場に濁った太い声が響いた。
「はっ、我らが誉れアウゲイアス王にご報告申し上げます。こちらにおわす、リュキアから商売の下見に来られたオルフェウス殿は正門の守護石、真実の魔妖石をそれはそれは類を見ないほどに美しく黄金色に輝かせ、その奥方エウリュディケ殿もまた気品溢れる薄緑色で石が反応いたしました。そのため王の晩餐会にふさわしい客人と見なし、お連れした次第でございます」
「うむ…ご苦労だった」
稀に見る逸材でございますとばかりに意気揚々として紹介した団長に対し、受けとめた側が質問をすることもなくあっさりと返す。
それほど動じていない様子からして、あくまでも儀礼的な流れだったことがわかる。
おそらくは伝令が既に通達していたか、あの不可解な石を通して感知していたかのどちらかだろう。
(あれが…アウゲイアス王か…)
あくまでも体調がすぐれない体裁をとりながら、さりげなく盗み見た。
肩よりも長い、クルクルと巻いた黒い毛は、エリス王国の民族の特長なのだろうか。
門をくぐった時からやたらと目にする髪型だ。
加えて、口やアゴの下を覆い隠す黒い巻き毛の髭もまた男たちによく見られる身だしなみだが、こちらは髭がない者が未成年で、髭が長ければ長いほどそれなりの地位を持つ者を示しているのだろう。
王はとりわけ髪も髭も長く、植物性の油か何かで丁寧に手入れがされているのだろう、艶々とした色合いを保ち、円形や管の形の細かな飾り玉まで付いている。
(けど…)
一歩また一歩と。
まるで大切な宝物でも丁寧に運んでいるかのようにゆったりと岸壁へと歩んでいくオルフェウスの腕の中で、ぞわりといやな感覚に襲われた。
(なんか…気持ちの悪い男だ…)
赤い派手な貫頭衣と足首まで長い腰衣の上には、金糸の刺繍が施された青い上衣を羽織り、頭には城壁冠に似た形の金色の布頭巾を被って。
さらに首から胸までをジャラジャラと厚い金の首輪で覆い、腕や手首、全ての指にも宝飾品を付けている様は実に品がない。
だが、その富と権力をひけらかす服装が理由ではないのだ。
他に格式高い賓客でも乗っていたのだろうかとつい周りを窺った。
だが自分とオルフェウス以外に乗っているのは兵士たちだけだ。
一体どういうことなのか。
国の威厳を来訪者に知らしめる習わしでもあるのだろうか。
(だ、大丈夫なのか…)
あまりにも常軌を逸した出迎えに、こちらの意図がバレているのかもしれないと、むしろ上陸した矢先に捕まらないだろうかと不安が競り上がってくる。
緊張を隠せないでいる視線の先で、ガッタンと厚みのある立派な舷梯が船と岸壁の間に設置されると団長が勇ましく駈け降りて行く。
岸壁の待ち構える一行の前へと走り寄り、胸の前で両手のひらを上下に重ねると恭しく頭を垂れた。
それに合わせてスッと中央にいた人物が手を上げ、ピタリと音楽が止んだ。
「正門守衛団長、報告を」
静かになったその場に濁った太い声が響いた。
「はっ、我らが誉れアウゲイアス王にご報告申し上げます。こちらにおわす、リュキアから商売の下見に来られたオルフェウス殿は正門の守護石、真実の魔妖石をそれはそれは類を見ないほどに美しく黄金色に輝かせ、その奥方エウリュディケ殿もまた気品溢れる薄緑色で石が反応いたしました。そのため王の晩餐会にふさわしい客人と見なし、お連れした次第でございます」
「うむ…ご苦労だった」
稀に見る逸材でございますとばかりに意気揚々として紹介した団長に対し、受けとめた側が質問をすることもなくあっさりと返す。
それほど動じていない様子からして、あくまでも儀礼的な流れだったことがわかる。
おそらくは伝令が既に通達していたか、あの不可解な石を通して感知していたかのどちらかだろう。
(あれが…アウゲイアス王か…)
あくまでも体調がすぐれない体裁をとりながら、さりげなく盗み見た。
肩よりも長い、クルクルと巻いた黒い毛は、エリス王国の民族の特長なのだろうか。
門をくぐった時からやたらと目にする髪型だ。
加えて、口やアゴの下を覆い隠す黒い巻き毛の髭もまた男たちによく見られる身だしなみだが、こちらは髭がない者が未成年で、髭が長ければ長いほどそれなりの地位を持つ者を示しているのだろう。
王はとりわけ髪も髭も長く、植物性の油か何かで丁寧に手入れがされているのだろう、艶々とした色合いを保ち、円形や管の形の細かな飾り玉まで付いている。
(けど…)
一歩また一歩と。
まるで大切な宝物でも丁寧に運んでいるかのようにゆったりと岸壁へと歩んでいくオルフェウスの腕の中で、ぞわりといやな感覚に襲われた。
(なんか…気持ちの悪い男だ…)
赤い派手な貫頭衣と足首まで長い腰衣の上には、金糸の刺繍が施された青い上衣を羽織り、頭には城壁冠に似た形の金色の布頭巾を被って。
さらに首から胸までをジャラジャラと厚い金の首輪で覆い、腕や手首、全ての指にも宝飾品を付けている様は実に品がない。
だが、その富と権力をひけらかす服装が理由ではないのだ。
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