アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
上 下
97 / 153
第9章 ハデス神殿での求愛

11 ポセイドンの落胤

しおりを挟む
 しばらく前方を見据えていたオルフェウスがボソリと呟き、そうだなと返した。
 エリス王国の構造はややどころか、かなり変わっている。
 城壁で防御された街の北側の、高く連なる山脈を背にした土地に、五角形の星の形をした水堀で囲まれた王城がある。
 隙間のないほどに覆い茂っている林で守られているために、密林ズグラ城という異名を持つその場所へは深夜に人目を忍んで侵入する予定だったというのに、なんだか奇妙な展開になっている。

(まぁ、でも…狩猟採集族ピュグマイオイと対峙するよりはよかったんだろうし…)

 密林の中には背丈が子供程度しかない緑色の人型の魔獣が、城を守るためにあえて放たれていると聞く。
 オルフェウスは取るに足らないと述べていたが、ギザギザの歯を持ち狂暴で人間を食す野蛮な連中とは会わなくて済むのならそれに越したことはない。
 
「これから起こす商売の下見も兼ねた観光と言ってましたが、実にちょうどいい時に来られましたよ。明日からイストミア大祭の予選会が始まりますからなぁ」

(イストミア大祭…の予選会…)

 心地よい風が吹きつけてくる中、団長から聞かされた説明に、知っているかと自身の記憶に探りを入れているとオルフェウスが隣で発言した。

「そんな時期か…二年に一度、イストモスで開催される競技大祭への予選会と重なるとはな」
「いやあ、ポセイドンさまに捧げられる祭りですからねぇ、我らがアウゲイアス王も大盛り上がりですよ」
「世間ではピューティア大祭の方が盛り上がる」
「デルポイで開かれるアポロンさまを讃える音楽競技ですな…おっとッ!!」

 ガックンッと。
 どこかにでもぶつかったかのような突然の大きな揺れに、何をやってるんだ、お前らーーっと叫びながら団長が船首へと飛び出して行った。

「大丈夫か」
「あ、うん…」

 咄嗟に逞しい腕で支えてくれているのだから問題などあるはずがない。
 岸に近づけようとして失敗したようだなとオルフェウスが視線を前に向けながら呟き、そんな姿に小声で尋ねた。

「遠く離れたイストモスで開かれる競技大会で、なぜ盛り上がるんだろうか」

 隣接する国ならまだしも…と続けると、あぁ…とつまらなそうに答えられた。

「アウゲイアスはポセイドンの落胤らくいんとされているからな」
「!!」

 その一言を聞いて、それでかと二つの意味合いで合点した。
 一つは海神ポセイドンへの祭儀であるが故に大祭への予選会に盛り上がっているのだということと。
 そして、オリュンポス神族の血を半分引く身でありながら…とオルフェウスが前に言及していた内容だ。
 アウゲイアス王は半神半人なのだ。
 それもアルファ神族の三柱の一つ、海王ポセイドンの私生児だったとは。
 とその時。

「王だーーっ、王が船着き場にいらしてるぞーーっ」

 驚きを隠せないでいる身にさらなる衝撃の叫び声が届いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ACCOMPLICE

子犬一 はぁて
BL
欠陥品のα(狼上司)×完全無欠のΩ(大型犬部下)その行為は同情からくるものか、あるいは羨望からくるものか。  産まれつき種を持たないアルファである小鳥遊駿輔は住販会社で働いている。己の欠陥をひた隠し「普通」のアルファとして生きてきた。  新年度、新しく入社してきた岸本雄馬は上司にも物怖じせず意見を言ってくる新進気鋭の新人社員だった。彼を部下に据え一から営業を叩き込むことを指示された小鳥遊は厳しく指導をする。そんな小鳥遊に一切音を上げず一ヶ月働き続けた岸本に、ひょんなことから小鳥遊の秘密を知られてしまう。それ以来岸本はたびたび小鳥遊を脅すようになる。  お互いの秘密を共有したとき、二人は共犯者になった。両者の欠陥を補うように二人の関係は変わっていく。 ACCOMPLICEーー共犯ーー ※この作品はフィクションです。オメガバースの世界観をベースにしていますが、一部解釈を変えている部分があります。

処理中です...