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第9章 ハデス神殿での求愛
11 ポセイドンの落胤
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しばらく前方を見据えていたオルフェウスがボソリと呟き、そうだなと返した。
エリス王国の構造はややどころか、かなり変わっている。
城壁で防御された街の北側の、高く連なる山脈を背にした土地に、五角形の星の形をした水堀で囲まれた王城がある。
隙間のないほどに覆い茂っている林で守られているために、密林城という異名を持つその場所へは深夜に人目を忍んで侵入する予定だったというのに、なんだか奇妙な展開になっている。
(まぁ、でも…狩猟採集族と対峙するよりはよかったんだろうし…)
密林の中には背丈が子供程度しかない緑色の人型の魔獣が、城を守るためにあえて放たれていると聞く。
オルフェウスは取るに足らないと述べていたが、ギザギザの歯を持ち狂暴で人間を食す野蛮な連中とは会わなくて済むのならそれに越したことはない。
「これから起こす商売の下見も兼ねた観光と言ってましたが、実にちょうどいい時に来られましたよ。明日からイストミア大祭の予選会が始まりますからなぁ」
(イストミア大祭…の予選会…)
心地よい風が吹きつけてくる中、団長から聞かされた説明に、知っているかと自身の記憶に探りを入れているとオルフェウスが隣で発言した。
「そんな時期か…二年に一度、イストモスで開催される競技大祭への予選会と重なるとはな」
「いやあ、ポセイドンさまに捧げられる祭りですからねぇ、我らがアウゲイアス王も大盛り上がりですよ」
「世間ではピューティア大祭の方が盛り上がる」
「デルポイで開かれるアポロンさまを讃える音楽競技ですな…おっとッ!!」
ガックンッと。
どこかにでもぶつかったかのような突然の大きな揺れに、何をやってるんだ、お前らーーっと叫びながら団長が船首へと飛び出して行った。
「大丈夫か」
「あ、うん…」
咄嗟に逞しい腕で支えてくれているのだから問題などあるはずがない。
岸に近づけようとして失敗したようだなとオルフェウスが視線を前に向けながら呟き、そんな姿に小声で尋ねた。
「遠く離れたイストモスで開かれる競技大会で、なぜ盛り上がるんだろうか」
隣接する国ならまだしも…と続けると、あぁ…とつまらなそうに答えられた。
「アウゲイアスはポセイドンの落胤とされているからな」
「!!」
その一言を聞いて、それでかと二つの意味合いで合点した。
一つは海神ポセイドンへの祭儀であるが故に大祭への予選会に盛り上がっているのだということと。
そして、オリュンポス神族の血を半分引く身でありながら…とオルフェウスが前に言及していた内容だ。
アウゲイアス王は半神半人なのだ。
それもアルファ神族の三柱の一つ、海王ポセイドンの私生児だったとは。
とその時。
「王だーーっ、王が船着き場にいらしてるぞーーっ」
驚きを隠せないでいる身にさらなる衝撃の叫び声が届いた。
エリス王国の構造はややどころか、かなり変わっている。
城壁で防御された街の北側の、高く連なる山脈を背にした土地に、五角形の星の形をした水堀で囲まれた王城がある。
隙間のないほどに覆い茂っている林で守られているために、密林城という異名を持つその場所へは深夜に人目を忍んで侵入する予定だったというのに、なんだか奇妙な展開になっている。
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オルフェウスは取るに足らないと述べていたが、ギザギザの歯を持ち狂暴で人間を食す野蛮な連中とは会わなくて済むのならそれに越したことはない。
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(イストミア大祭…の予選会…)
心地よい風が吹きつけてくる中、団長から聞かされた説明に、知っているかと自身の記憶に探りを入れているとオルフェウスが隣で発言した。
「そんな時期か…二年に一度、イストモスで開催される競技大祭への予選会と重なるとはな」
「いやあ、ポセイドンさまに捧げられる祭りですからねぇ、我らがアウゲイアス王も大盛り上がりですよ」
「世間ではピューティア大祭の方が盛り上がる」
「デルポイで開かれるアポロンさまを讃える音楽競技ですな…おっとッ!!」
ガックンッと。
どこかにでもぶつかったかのような突然の大きな揺れに、何をやってるんだ、お前らーーっと叫びながら団長が船首へと飛び出して行った。
「大丈夫か」
「あ、うん…」
咄嗟に逞しい腕で支えてくれているのだから問題などあるはずがない。
岸に近づけようとして失敗したようだなとオルフェウスが視線を前に向けながら呟き、そんな姿に小声で尋ねた。
「遠く離れたイストモスで開かれる競技大会で、なぜ盛り上がるんだろうか」
隣接する国ならまだしも…と続けると、あぁ…とつまらなそうに答えられた。
「アウゲイアスはポセイドンの落胤とされているからな」
「!!」
その一言を聞いて、それでかと二つの意味合いで合点した。
一つは海神ポセイドンへの祭儀であるが故に大祭への予選会に盛り上がっているのだということと。
そして、オリュンポス神族の血を半分引く身でありながら…とオルフェウスが前に言及していた内容だ。
アウゲイアス王は半神半人なのだ。
それもアルファ神族の三柱の一つ、海王ポセイドンの私生児だったとは。
とその時。
「王だーーっ、王が船着き場にいらしてるぞーーっ」
驚きを隠せないでいる身にさらなる衝撃の叫び声が届いた。
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