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第5章 冥府の王妃ペルセフォネ
11 あの時のあの声は
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王妃から返された花を両手で抱えながらピョンピョンと跳ね上がり、満面な笑顔で振り返られても、たいしたことは何もしてないのに…と心の中で呟くことでしか返せない。
『違うよ違うよ、そうじゃないよ~、ディケさんがいなくては会うこともできなかった方なんだよ~、ペルセフォネさまがいれば、ぼく、もうこわいものなんてないんだもんね~』
そう興奮し続ける小さな体がひょいと持ち上げられた。
「ここでいい子にして、ちょっと待っててね」
傍らに仕えていた天馬へとペルセフォネが歩み寄り、背中にトリトスを乗せた。
わぁい、わぁいと喜びが抑えきれない羊を背にして王妃がまた静かに近づいて来る。
「オレは…君の幸せを心から望んでいる」
長い黄金の前髪の、その間に揺れて見える黄緑色の瞳に真摯に告げられて、あぁ…と左胸が熱くなった。
(どうして…)
それほどまでに情のこもった言葉をかけてくれるのかと。
数歩先で立ち止まった秀麗な姿にただただ目で問いかける。
「もし…全ての使命を無事に終えて…君が新しい人生へと歩み始める時…エレウシスに住むことも選択肢に入れておいて欲しい」
「えっ」
「君を全力で保護する…だから…」
そう告げた後にそのまま口をつぐんだ相手を凝視し続ける。
(だから…だから、なんなんだ…?)
その先の言葉が聞きたい。
楽園エレウシスに住むことを許してくれる理由は何なのか。
全力で保護するとまで言ってくれるのはなぜなのか。
一体何を把握しているというのか。
視線を床に彷徨わせて躊躇っているかのような様子に、早く聞かせてくれともどかしさがこみ上げる。
「あの…どうして、そんな風に…言ってくれるんですか」
いつまでたっても口を開かない相手にしびれを切らして非礼を承知で尋ねた。
「オレのこと…なにか…知っているんですか」
「それは、その…」
「オレは…恩赦で釈放された囚人です…それなのに、なんでそんな風に…」
そう口にした途端にハッと気がつかされた。
(そうだ、この声は…)
あの声によく似ていると。
脳内で過去と今とが繋がった。
闇の中で囚人として目覚めた時の、自分に問いかけてきた声に似ているのだ。
「君にはあまり告げない方が…むしろ、いいのかもしれない」
ボソリと呟き、自らの決断を後押しするかのように身体の向きを変えた王妃に、待ってと叫んだ。
間違いないと心の奥底で確信する。
「あなただっ、あの時のあの声はあなただっ!! あなたはオレのなにを知っているんですかっ!?」
まだ行かないでくれと。
頼むから、教えてくれと。
つい荒々しく王妃に向かって手を伸ばし、引き止めようと歩み寄ったその時――ブワアァンッと一陣の紫がかった黒い突風が突然巻き起こった。
『違うよ違うよ、そうじゃないよ~、ディケさんがいなくては会うこともできなかった方なんだよ~、ペルセフォネさまがいれば、ぼく、もうこわいものなんてないんだもんね~』
そう興奮し続ける小さな体がひょいと持ち上げられた。
「ここでいい子にして、ちょっと待っててね」
傍らに仕えていた天馬へとペルセフォネが歩み寄り、背中にトリトスを乗せた。
わぁい、わぁいと喜びが抑えきれない羊を背にして王妃がまた静かに近づいて来る。
「オレは…君の幸せを心から望んでいる」
長い黄金の前髪の、その間に揺れて見える黄緑色の瞳に真摯に告げられて、あぁ…と左胸が熱くなった。
(どうして…)
それほどまでに情のこもった言葉をかけてくれるのかと。
数歩先で立ち止まった秀麗な姿にただただ目で問いかける。
「もし…全ての使命を無事に終えて…君が新しい人生へと歩み始める時…エレウシスに住むことも選択肢に入れておいて欲しい」
「えっ」
「君を全力で保護する…だから…」
そう告げた後にそのまま口をつぐんだ相手を凝視し続ける。
(だから…だから、なんなんだ…?)
その先の言葉が聞きたい。
楽園エレウシスに住むことを許してくれる理由は何なのか。
全力で保護するとまで言ってくれるのはなぜなのか。
一体何を把握しているというのか。
視線を床に彷徨わせて躊躇っているかのような様子に、早く聞かせてくれともどかしさがこみ上げる。
「あの…どうして、そんな風に…言ってくれるんですか」
いつまでたっても口を開かない相手にしびれを切らして非礼を承知で尋ねた。
「オレのこと…なにか…知っているんですか」
「それは、その…」
「オレは…恩赦で釈放された囚人です…それなのに、なんでそんな風に…」
そう口にした途端にハッと気がつかされた。
(そうだ、この声は…)
あの声によく似ていると。
脳内で過去と今とが繋がった。
闇の中で囚人として目覚めた時の、自分に問いかけてきた声に似ているのだ。
「君にはあまり告げない方が…むしろ、いいのかもしれない」
ボソリと呟き、自らの決断を後押しするかのように身体の向きを変えた王妃に、待ってと叫んだ。
間違いないと心の奥底で確信する。
「あなただっ、あの時のあの声はあなただっ!! あなたはオレのなにを知っているんですかっ!?」
まだ行かないでくれと。
頼むから、教えてくれと。
つい荒々しく王妃に向かって手を伸ばし、引き止めようと歩み寄ったその時――ブワアァンッと一陣の紫がかった黒い突風が突然巻き起こった。
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