アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
上 下
52 / 153
第5章 冥府の王妃ペルセフォネ

11 あの時のあの声は

しおりを挟む
 王妃から返された花を両手で抱えながらピョンピョンと跳ね上がり、満面な笑顔で振り返られても、たいしたことは何もしてないのに…と心の中で呟くことでしか返せない。

『違うよ違うよ、そうじゃないよ~、ディケさんがいなくては会うこともできなかった方なんだよ~、ペルセフォネさまがいれば、ぼく、もうこわいものなんてないんだもんね~』

 そう興奮し続ける小さな体がひょいと持ち上げられた。

「ここでいい子にして、ちょっと待っててね」

 傍らに仕えていた天馬へとペルセフォネが歩み寄り、背中にトリトスを乗せた。
 わぁい、わぁいと喜びが抑えきれない羊を背にして王妃がまた静かに近づいて来る。

「オレは…君の幸せを心から望んでいる」

 長い黄金の前髪の、その間に揺れて見える黄緑色の瞳に真摯に告げられて、あぁ…と左胸が熱くなった。

(どうして…)

 それほどまでに情のこもった言葉をかけてくれるのかと。
 数歩先で立ち止まった秀麗な姿にただただ目で問いかける。

「もし…全ての使命を無事に終えて…君が新しい人生へと歩み始める時…エレウシスに住むことも選択肢に入れておいて欲しい」
「えっ」
「君を全力で保護する…だから…」

 そう告げた後にそのまま口をつぐんだ相手を凝視し続ける。

(だから…だから、なんなんだ…?)

 その先の言葉が聞きたい。
 楽園エレウシスに住むことを許してくれる理由は何なのか。
 全力で保護するとまで言ってくれるのはなぜなのか。
 一体何を把握しているというのか。
 視線を床に彷徨わせて躊躇っているかのような様子に、早く聞かせてくれともどかしさがこみ上げる。

「あの…どうして、そんな風に…言ってくれるんですか」

 いつまでたっても口を開かない相手にしびれを切らして非礼を承知で尋ねた。

「オレのこと…なにか…知っているんですか」
「それは、その…」
「オレは…恩赦で釈放された囚人です…それなのに、なんでそんな風に…」

 そう口にした途端にハッと気がつかされた。

(そうだ、この声は…)

 あの声によく似ていると。
 脳内で過去と今とが繋がった。
 闇の中で囚人として目覚めた時の、自分に問いかけてきた声に似ているのだ。

「君にはあまり告げない方が…むしろ、いいのかもしれない」

 ボソリと呟き、自らの決断を後押しするかのように身体の向きを変えた王妃に、待ってと叫んだ。
 間違いないと心の奥底で確信する。

「あなただっ、あの時のあの声はあなただっ!! あなたはオレのなにを知っているんですかっ!?」

 まだ行かないでくれと。
 頼むから、教えてくれと。
 つい荒々しく王妃に向かって手を伸ばし、引き止めようと歩み寄ったその時――ブワアァンッと一陣の紫がかった黒い突風が突然巻き起こった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

処理中です...