アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
上 下
47 / 153
第5章 冥府の王妃ペルセフォネ

6 食べさせてやる

しおりを挟む
(どうしよう…)

 まさか、こざかしいだなんて言われるとは。
 生意気だと思われたのだろうか。
 まずいことをしてしまったと。
 臆して立ち竦んでいると、わずかに片眉を上げた美形が、ディケが謝ることではないと口にしてかすかに嘆息した。

「えっ…」

 どういう意味だろうとおそるおそる上目遣いで見つめれば、そのきれいな青灰色の瞳は捉えようのない色合いを滲ませている。
 あきれているわけでもなく、憤っているわけでもなく。
 目の前にいる自分を見ているようでいて、それでいてどこか遠い所に想いを寄せているようなまなざしをしていて。

(なんだろう…)

 とその不可解な様子に首を傾げた。
 どんな感情でもって自分を見下ろしているのか。
 こちらもまた困惑を覚えながら見上げることしかできない。
 しばらくしてオルフェウスが、君は本当に優しいなと呟いた。

「えっ…優しいって…?」

 誰がと、つい聞き返すとフッと口角を上げられる。
 一体どういうことなのか。
 足並みを乱すようなことをされて、気を悪くしていたのではなかったのか。

「仕方がない…さっさとソレを手放すためにも、ここから一番近いハデス神殿に向かうとしよう」
「えっ…」
「そうだな、エリスよりミケーネだな…アレイ、イオン、クレーテーのハデス神殿に向かう」
「ブルルルッ」
「クゥイィーッ」

 従順な魔獣が応じるようにいななき、小さな魔鳥が任せて下さいとばかりに御者台へと降り立つ。
 人間のように人語をよく理解し、世界の地図が頭の中に全て入っていると称したくなるほど土地勘も申し分ない。
 一度たりとも指示と目的地を違えたことのない彼らと異なり、こういう時はいつだって自分だけが後れを取っている。

「さぁ、乗って」
「えっ、あ、うん…」

 背中を大きな手で押されてそのまま獣車へと歩み出した。
 幌を揚げられて、胸にしがみつく羊を片手で押さえながら中へと入りこんだ。
 結局のところ機嫌は直ったのだろうかと、後ろに従い、幌を下げて目の前に座った相手を盗み見た。

「なにが食べたい?」
「えっ…」
大方おおかた、誰にも触れさせるな、終始抱いて守ってくれとでも要求されたのだろう?」

 あごでクイッと胸元のその発言者を示されて、よくわかったなと苦笑してしまう。

「だから、私が食べさせてやる」

 どこか愉快げに瞳を細めたオルフェウスが立てかけてあった、折りたたみ式の食卓を引き寄せてカチッ、カチッと組み立てた。

(ん? 食べさせる…?)

 まるで大木にとまる蝉のように、しっかりとトリトスにしがみつかれているのだ。
 食べ物を口に入れる、ほんのわずかな時間であるならば、片手だろうと両手だろうと使えるだろう。
 それがなぜ食べさせてやるになるのか。

「いや、別に…両手が不自由なわけじゃないし…」

 次から次へ食材が並べられる様子を目で追いながら問いかけた。

「ソレから手を離したらダメだろう?」
「えっ…いや、ほんのわずかな時間だったら特に問題はないのでは?」
「いや、ダメだ」
「な、なんで?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...