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第5章 冥府の王妃ペルセフォネ
6 食べさせてやる
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(どうしよう…)
まさか、こざかしいだなんて言われるとは。
生意気だと思われたのだろうか。
まずいことをしてしまったと。
臆して立ち竦んでいると、わずかに片眉を上げた美形が、ディケが謝ることではないと口にしてかすかに嘆息した。
「えっ…」
どういう意味だろうとおそるおそる上目遣いで見つめれば、そのきれいな青灰色の瞳は捉えようのない色合いを滲ませている。
あきれているわけでもなく、憤っているわけでもなく。
目の前にいる自分を見ているようでいて、それでいてどこか遠い所に想いを寄せているようなまなざしをしていて。
(なんだろう…)
とその不可解な様子に首を傾げた。
どんな感情でもって自分を見下ろしているのか。
こちらもまた困惑を覚えながら見上げることしかできない。
しばらくしてオルフェウスが、君は本当に優しいなと呟いた。
「えっ…優しいって…?」
誰がと、つい聞き返すとフッと口角を上げられる。
一体どういうことなのか。
足並みを乱すようなことをされて、気を悪くしていたのではなかったのか。
「仕方がない…さっさとソレを手放すためにも、ここから一番近いハデス神殿に向かうとしよう」
「えっ…」
「そうだな、エリスよりミケーネだな…アレイ、イオン、クレーテーのハデス神殿に向かう」
「ブルルルッ」
「クゥイィーッ」
従順な魔獣が応じるようにいななき、小さな魔鳥が任せて下さいとばかりに御者台へと降り立つ。
人間のように人語をよく理解し、世界の地図が頭の中に全て入っていると称したくなるほど土地勘も申し分ない。
一度たりとも指示と目的地を違えたことのない彼らと異なり、こういう時はいつだって自分だけが後れを取っている。
「さぁ、乗って」
「えっ、あ、うん…」
背中を大きな手で押されてそのまま獣車へと歩み出した。
幌を揚げられて、胸にしがみつく羊を片手で押さえながら中へと入りこんだ。
結局のところ機嫌は直ったのだろうかと、後ろに従い、幌を下げて目の前に座った相手を盗み見た。
「なにが食べたい?」
「えっ…」
「大方、誰にも触れさせるな、終始抱いて守ってくれとでも要求されたのだろう?」
あごでクイッと胸元のその発言者を示されて、よくわかったなと苦笑してしまう。
「だから、私が食べさせてやる」
どこか愉快げに瞳を細めたオルフェウスが立てかけてあった、折りたたみ式の食卓を引き寄せてカチッ、カチッと組み立てた。
(ん? 食べさせる…?)
まるで大木にとまる蝉のように、しっかりとトリトスにしがみつかれているのだ。
食べ物を口に入れる、ほんのわずかな時間であるならば、片手だろうと両手だろうと使えるだろう。
それがなぜ食べさせてやるになるのか。
「いや、別に…両手が不自由なわけじゃないし…」
次から次へ食材が並べられる様子を目で追いながら問いかけた。
「ソレから手を離したらダメだろう?」
「えっ…いや、ほんのわずかな時間だったら特に問題はないのでは?」
「いや、ダメだ」
「な、なんで?」
まさか、こざかしいだなんて言われるとは。
生意気だと思われたのだろうか。
まずいことをしてしまったと。
臆して立ち竦んでいると、わずかに片眉を上げた美形が、ディケが謝ることではないと口にしてかすかに嘆息した。
「えっ…」
どういう意味だろうとおそるおそる上目遣いで見つめれば、そのきれいな青灰色の瞳は捉えようのない色合いを滲ませている。
あきれているわけでもなく、憤っているわけでもなく。
目の前にいる自分を見ているようでいて、それでいてどこか遠い所に想いを寄せているようなまなざしをしていて。
(なんだろう…)
とその不可解な様子に首を傾げた。
どんな感情でもって自分を見下ろしているのか。
こちらもまた困惑を覚えながら見上げることしかできない。
しばらくしてオルフェウスが、君は本当に優しいなと呟いた。
「えっ…優しいって…?」
誰がと、つい聞き返すとフッと口角を上げられる。
一体どういうことなのか。
足並みを乱すようなことをされて、気を悪くしていたのではなかったのか。
「仕方がない…さっさとソレを手放すためにも、ここから一番近いハデス神殿に向かうとしよう」
「えっ…」
「そうだな、エリスよりミケーネだな…アレイ、イオン、クレーテーのハデス神殿に向かう」
「ブルルルッ」
「クゥイィーッ」
従順な魔獣が応じるようにいななき、小さな魔鳥が任せて下さいとばかりに御者台へと降り立つ。
人間のように人語をよく理解し、世界の地図が頭の中に全て入っていると称したくなるほど土地勘も申し分ない。
一度たりとも指示と目的地を違えたことのない彼らと異なり、こういう時はいつだって自分だけが後れを取っている。
「さぁ、乗って」
「えっ、あ、うん…」
背中を大きな手で押されてそのまま獣車へと歩み出した。
幌を揚げられて、胸にしがみつく羊を片手で押さえながら中へと入りこんだ。
結局のところ機嫌は直ったのだろうかと、後ろに従い、幌を下げて目の前に座った相手を盗み見た。
「なにが食べたい?」
「えっ…」
「大方、誰にも触れさせるな、終始抱いて守ってくれとでも要求されたのだろう?」
あごでクイッと胸元のその発言者を示されて、よくわかったなと苦笑してしまう。
「だから、私が食べさせてやる」
どこか愉快げに瞳を細めたオルフェウスが立てかけてあった、折りたたみ式の食卓を引き寄せてカチッ、カチッと組み立てた。
(ん? 食べさせる…?)
まるで大木にとまる蝉のように、しっかりとトリトスにしがみつかれているのだ。
食べ物を口に入れる、ほんのわずかな時間であるならば、片手だろうと両手だろうと使えるだろう。
それがなぜ食べさせてやるになるのか。
「いや、別に…両手が不自由なわけじゃないし…」
次から次へ食材が並べられる様子を目で追いながら問いかけた。
「ソレから手を離したらダメだろう?」
「えっ…いや、ほんのわずかな時間だったら特に問題はないのでは?」
「いや、ダメだ」
「な、なんで?」
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