アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

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第5章 冥府の王妃ペルセフォネ

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 肩の上で、お前なんか認めないぞとばかりにイオンが騒々しく鳴いた。
 それに対してトリトスもまた腕の中で顔を上げて、いーだっと舌を出す。
 雰囲気としてはやれやれといったところだろう。

「こらこら、ほら、仲良く仲良く…な? イオン、さぁ案内してくれ。オルフェウスの元に戻ろう」

 今にも嘴で突き出しそうな魔鳥を優しく戒め、先導を命じた。
 不要な争いは避けたい。
 ケンカなどしないでくれと目で訴えると、心情をよく理解する鳥がバサバサと肩から飛び立った。
 けれども、その様子はかなり面白くなさそうだ。

(気が合わないんだろうなぁ…)

 と秘かに嘆息する。
 幻獣と魔鳥の間には相性があるとも聞く。
 ずいぶんと嫌われた印象だが、いずれにせよ一過性の関係なのだ。
 たいした問題ではないだろうと思いながら元来た道を戻り出すと腕の中から声がした。

『あのさ、その…一緒に旅をしてる…その…今から戻る…所にいる方…ってさ…』

 オルフェウスのことかと尋ねるとコクリと頷いた。

『そう、その…オルフェウス…さま…がさ…仮に、仮にだよ…重たいだろうから、ぼくの抱っこを変わってあげる…って言っても、絶対にぼくを渡さないでね』

 胸部にかかる外套クライナの布をギュッと握りしめて、金色の瞳がどういうわけだか真剣に念を押してきた。

「あぁ、渡さないよ」

 約束したからな…と告げるとホッとしたように微笑む。
 ぷっくらとした愛らしいほっぺたは児童そのものだ。
 だが体重は不思議と軽い。
 両腕に不自由さはあっても重たくなどないのだから、そもそも変わってもらう必要もない。
 でも…と続けた。
 でも?と黄金の瞳が怪訝そうに見上げてくる。

「さっきも言ったけど、オレは一介の…その…命じられて動いている下っ端にすぎない。だから高貴なる王妃さまに手渡しはさすがにむずかしい…」

 こちらは訳ありの囚人なんだ。
 そんな低下層の身で冥界の王の妃に会えるわけないだろとは言えずに、ぼやかして伝えた。

『それは心配はいらないよ。ディケさんならペルセフォネさまにちゃんと会えるから』

 そのキラキラと輝く瞳での迷いのない断言は聖獣ならではの予知なのか、希望的観測なのか。
 まぁ、オルフェウスに打診してもらうつもりではいるけど…と応じると瞳がスッと翳りを帯びた。

『ぼく…ぼく…その…オルフェウス…さま…のことはなるべく見ないようにするから…だから…ぼくのことも…絶対に、絶対に渡さないでね』

(どういうことだ…)

 なぜ、オルフェウスのことを見ないようにするのか。
 意味を問いただそうとすると頭上でクゥイーーッとイオンが鳴き声を上げ、ふにゃりと足の裏に違和感を覚えた。

「あっ…」

 厚ぼったい空気の層をくぐり抜けるような、ほわんっとした感覚を覚える。
 と同時にサァッと心地よい風に頬を撫でられた。

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