アルファの戦士はオメガにされて愛される~オメガバース・ギリシャ神話~

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)

文字の大きさ
上 下
38 / 153
第4章 ケリュネイア山の黄金の羊

しおりを挟む
「確か…イオンは属性がその…黄金の羊に…近いから? トリトスの発する気配を察知して、この辺りだと突きとめることができたんだよな…だとしたならば、イオンだったら術に惑わされずに目的地に行けるのでは?」
「鋭いな、その通りだ。けれどもイオンが行ったところでどうする? 出てきて下さいと説得できるわけでもない」
「そ、そうだよな…」

 全くの正論に頷くことしかできない。
 自身の浅はかだった発想に苦笑いをする。と突如として声が聞こえた。

『あなたが来ればいいんだよ…』

 まるで風に乗るようにして頭の中に響いた言葉に、えっ?と思わず周囲を見渡した。

「どうした?」
「いや、いきなり声が聞こえてきたというか…」
「声? どんな声だ?」
「どんな声って…」

 説明するのが難しい。
 子供のようにも大人の女性のようにも思える。
 声というよりも念を受信したと告げた方が正しかっただろう。

「なんて聞こえたんだ?」
「えっ…あ、うん、あなたが来ればいい…と言ってた」
「……」
「誰からの…どういう意味だと思う?」

 絶妙の間で会話に入ってきたことを踏まえれば、こちらの様子を窺っていたと言える。
 つまりは、この場に術を張った者の念だと思って間違いないだろう。
 けれども、なぜ自分だけに聞こえたのか。
 聞こえなかったのかと尋ねるとオルフェウスがかすかに頷いた。
 たまたまなのだろうか。

「なんとなくだけど…黄金の羊が話しかけてきたと思っている…それでオレに来いって言っているような気がしてるんだけど」

 考えこんでいるかのような様子のオルフェウスに発案した。

「試してみる価値はあると思うからさ…オレ、ちょっと入ってみるよ」

 ここで立ち竦んでいてもどうしようもないからさと続けて、反応を待つ。
 けれども無言のままでなかなか応じない。
 仕方がない、行くかと。
 返事を諦めてオルフェウスに背を向けるや否や、ディケ…と名を呼ばれて腕を取られた。

「吉と出るか凶と出るか…あちらから招かれている以上はおそらく難なくたどり着けるだろう…黄金の羊は聖獣だ。攻撃をしてくる可能性も低い…けれども…」

 一度そこで口を閉ざしたオルフェウスが探りを入れるように視線を前方へと注ぎ、私が同行すれば閉ざされるだろうなと嘆息した。

「片時も離れたくないがやむ得ない…イオンを連れて行け」
「えっ、イオンを?」
「そうだ。イオン、ディケを守れ、いいな」
「クィィ…」
「凶暴性がない神獣とはいえ、なにを要求してくるかはわからない。ディケの身に危険が及んだ時はすぐさま戦え。いいな?」
「クィィ…」

 言い聞かされてコクンと小型の魔鳥が首を縦に振る。

「いいか、言い負かす必要などない。あくまでも提案だ。冥府の王妃ペルセフォネの楽園エレウシスで暮らさないかと持ちかけるんだ。アルテミスの元に戻りたかったらとっくに帰ってるはずだ。だから連れ戻されたくないと考えている可能性が高い」
「確かに…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ACCOMPLICE

子犬一 はぁて
BL
欠陥品のα(狼上司)×完全無欠のΩ(大型犬部下)その行為は同情からくるものか、あるいは羨望からくるものか。  産まれつき種を持たないアルファである小鳥遊駿輔は住販会社で働いている。己の欠陥をひた隠し「普通」のアルファとして生きてきた。  新年度、新しく入社してきた岸本雄馬は上司にも物怖じせず意見を言ってくる新進気鋭の新人社員だった。彼を部下に据え一から営業を叩き込むことを指示された小鳥遊は厳しく指導をする。そんな小鳥遊に一切音を上げず一ヶ月働き続けた岸本に、ひょんなことから小鳥遊の秘密を知られてしまう。それ以来岸本はたびたび小鳥遊を脅すようになる。  お互いの秘密を共有したとき、二人は共犯者になった。両者の欠陥を補うように二人の関係は変わっていく。 ACCOMPLICEーー共犯ーー ※この作品はフィクションです。オメガバースの世界観をベースにしていますが、一部解釈を変えている部分があります。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

処理中です...