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第3章 異常なまでに求愛されて
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今だって小さな灯りが吊され、温かみのある橙黄色の明るさに包まれている。
冥府の王が用意した獣車と言っていたが、ここでも疑問が湧き起こる。
環境がよすぎないかと。
恩赦が至れり尽くせりだ。
(それだけ時間がないってことなんだと思うけど…)
移動手段で困らないようにとの援助らしいが、それはつまりは何が何でも期限内に使命を達成して欲しいと冥界側が望んでいることを示している。
一体どういうことなのか。
もちろん提供はありがたい。
居心地も申し分ない。
けれども大きな荷台付きとなれば、それなりに目立つ。
従って村や里ではなるべく歩き、夜には追いついてきた獣車に乗って移動する、そんな過ごし方をしていた。
馬車が普及する人間社会で大型獣の引く車もなくはないが、悪目立ちは本意ではないとオルフェウスに言われたからだ。
(確かに…それなりに時間短縮にはなっているけどさ…)
そもそもなぜ、それほどまでに急いでいるのかと腑に落ちない。
切羽詰まっている裏事情でもあるのか。
物思いに耽りながら肩、腕、胸と防具や装身具を外し、段差の設けられた床上へと落とし、荷台に腰掛けると膝下の防具と革紐を外して靴を脱いだ。
衣服だけの身軽になった肉体でのそのそと両手両足で這うようにして端に移動して、ゴロリと敷布の上に横になる。
右半身が下になるようにして寝そべった。
広さとしては大の男が二人横になって寝られるほど縦に長く幅もある。
だが大の字になって相手が来るのを待つほどの神経はさすがに持ち合わせていない。
ドックン、ドックンと早打ちし始めた心臓と背中を意識しながらゴクリと嚥下した。
何日経とうと慣れるはずがない。
バサッ…
中に入ったのだろう、幌を元に戻す気配がした。
呪符がこめられた頑丈な布は風も音も遮断して快適以外の何ものでもない空間を生み出す。
まさに冥府の王が用立てした地上で唯一無二の乗り物だろう。
「ッ!!」
その二人だけとなった場所で肩に手を置かれ、寝る時さえも仮面を外さない男に覗きこまれた。
「疲れたか?」
「い、いや、大丈夫だ…」
そうかと言いながら覆い被さってきた相手に、よく寝られるように…と額に口づけられた。
「っ…」
それは毎晩かかさずに行われる就寝前の慣例と化した行為だ。
初日にされた時はそれこそ飛び上がるほど驚いたが、当初から否定しようもないほどの甘ったるさが漂っている。
少しどころかかなり恥ずかしい。
けれども、おやすみと言われて、おやすみといつも通りに返した。
カッカッと燃え上がるように熱くなった頬を隠すようにして背を向ける。
やめてくれと口先だけで告げたことはあっても拒絶したことはない。
自分でもその理由はわかっている。
まんざらでもないからだ。
(だって…だってさ…)
冥府の王が用意した獣車と言っていたが、ここでも疑問が湧き起こる。
環境がよすぎないかと。
恩赦が至れり尽くせりだ。
(それだけ時間がないってことなんだと思うけど…)
移動手段で困らないようにとの援助らしいが、それはつまりは何が何でも期限内に使命を達成して欲しいと冥界側が望んでいることを示している。
一体どういうことなのか。
もちろん提供はありがたい。
居心地も申し分ない。
けれども大きな荷台付きとなれば、それなりに目立つ。
従って村や里ではなるべく歩き、夜には追いついてきた獣車に乗って移動する、そんな過ごし方をしていた。
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(確かに…それなりに時間短縮にはなっているけどさ…)
そもそもなぜ、それほどまでに急いでいるのかと腑に落ちない。
切羽詰まっている裏事情でもあるのか。
物思いに耽りながら肩、腕、胸と防具や装身具を外し、段差の設けられた床上へと落とし、荷台に腰掛けると膝下の防具と革紐を外して靴を脱いだ。
衣服だけの身軽になった肉体でのそのそと両手両足で這うようにして端に移動して、ゴロリと敷布の上に横になる。
右半身が下になるようにして寝そべった。
広さとしては大の男が二人横になって寝られるほど縦に長く幅もある。
だが大の字になって相手が来るのを待つほどの神経はさすがに持ち合わせていない。
ドックン、ドックンと早打ちし始めた心臓と背中を意識しながらゴクリと嚥下した。
何日経とうと慣れるはずがない。
バサッ…
中に入ったのだろう、幌を元に戻す気配がした。
呪符がこめられた頑丈な布は風も音も遮断して快適以外の何ものでもない空間を生み出す。
まさに冥府の王が用立てした地上で唯一無二の乗り物だろう。
「ッ!!」
その二人だけとなった場所で肩に手を置かれ、寝る時さえも仮面を外さない男に覗きこまれた。
「疲れたか?」
「い、いや、大丈夫だ…」
そうかと言いながら覆い被さってきた相手に、よく寝られるように…と額に口づけられた。
「っ…」
それは毎晩かかさずに行われる就寝前の慣例と化した行為だ。
初日にされた時はそれこそ飛び上がるほど驚いたが、当初から否定しようもないほどの甘ったるさが漂っている。
少しどころかかなり恥ずかしい。
けれども、おやすみと言われて、おやすみといつも通りに返した。
カッカッと燃え上がるように熱くなった頬を隠すようにして背を向ける。
やめてくれと口先だけで告げたことはあっても拒絶したことはない。
自分でもその理由はわかっている。
まんざらでもないからだ。
(だって…だってさ…)
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