騙されて異世界へ

だんご

文字の大きさ
上 下
43 / 52

43 そばの実

しおりを挟む
 朝4時。
 脳内アラームがかかった。
 寝る前に自分の時計設定をイジったら上手くいったんだよ。
 中々便利な機能だよな。

 寝ているキナコはそのままに、そっと着替えて台所へ。
 まずは火を起こす所からだ。
 薪に火を着けるのも、風を送るのも生活魔法でなんとかなるが、火加減に関しては、持ってる魔法じゃ全然ダメ。
 回復魔法(小)をかけても、弱火にも強火にもなりやしない。
 キャンプ飯の感覚で頑張るしかないようだ。
  
 しっかり火が着いたな。
 んじゃ、朝飯の準備を始めるか。
 朝飯は、昨日買ったそばの実で蕎麦粥を作ろうと思う。
 寒い国の郷土料理だ。
 色々なバリエーションがあって面白いのだ。
 甘くもなるし、しょっぱくもなる。
 勿論、辛くも出来るし、おかずにもなる。
 ヘルシーな上に、栄養価も高い。
 おまけに腹持ちもいいという、優秀な食べ物なのだ。
 それをこれから作ろうと思う。

 そばの実に【清浄】をかけ、鍋で乾煎りする。
 少し炒ると、プチプチはじけ始める。
 この時点で香ばしくも芳しい匂いが食欲を刺激してくる。
 朝起きたてだというのに、空腹感を腹が訴えてくるとは……
 結構、恐ろしい料理だ。
 一通り炒ったら、水と塩を加え、蓋をする。 
 水分がなくなって来たら硬さを確認。
 柔らかくなって来てたらミルクを投入。
 焦げつく前に火から下ろし、器に盛る。
 粥と言うには、水分のないそばの実粥の出来上がり。
 これにバターを乗せれば完成だ。
 それは、食べる直前にしよう。

 汁物もいるよな。
 鍋に油を敷き、切ったベーコンを炒める。
 ザクザク切ったほうれん草を投入。
 サッと火が通ったら、水を入れる。
 塩・胡椒で味を整える。
 溶き卵を入れ、スープを混ぜる。
 ほうれん草とベーコンの卵スープが完成だ。

 切ったソーセージを軽く炒めて一品にする。 
 ちゃんと食べてくれるかね? 
 蕎麦粥にして食べる文化はあるのか?

 『※その認識でOKです』

 あっ、それはあるんだ。良かった。
 ここら辺で食べられてるのか?

 『※その認識でOKです』

 なら安心だ。
 日本だとこれが微妙な評判なんだよな。
 そばは、つゆと食べる認識が強すぎて、受け入れられない人間が多いらしい。
 逆にこの郷土料理を食べている側としては、日本のそばが受け入れられないらしい。
 そりゃそうだ。
 バリエーション豊富だったソバ料理がいきなりそば汁オンリーしかないなんて、ガッカリだろう?

 「おはよう、ソブル。いい匂いだな!」

 「ソブル、おはよう!」  

 匂いに釣られて起きてきたか。
 嗅覚凄いな。

 「おう、おはよう。キナコがまだ寝てるから、テーブルでな?」
 
 「そうか……」

 タバサが少し残念そうだが、子猫だから許してやってくれ。

 「んじゃ朝飯な?今日は簡単なヤツにしたんだ。口に合えばいいんだが……」 
 
 「おっ!久々だ!」
 
 「ホントだね!」
 
 「2人の気に入る味だといいがな?バター乗せるぞ?」

 「たっぷり頼む!」

 「あたしも!これ、家によって味が違うから楽しみなんだ!」

 「だな!……旨い!ソブル、もう少しバター!」

 「ホントに!ソブルん所はミルク入れるんだねぇ。あたしもバター追加で!」
 
 バターたっぷりが旨いんだよな。
 なくなるから、バターのおかわりは、ここまでだぞ?

 「その時々だろ?」

 「そうだね!キノコの時期にその辺のキノコが根こそぎなくなって、毒キノコに手を出したって話まであるくらいだからねぇ」

 確か、前の世界でもそんな話きいたぞ?
 お国柄の笑い話的なヤツで。
 どこも一緒だな。

 結果、朝は2人共に2杯ずつで満足だったらしい。
 蕎麦粥2杯、スープ2杯。
 ソーセージはおかわりしなかったな。
 食べ終えると元気に出て行ったので、ここら辺が基本量だな。
 そばの実、なかなかに使えるな。
 腹に溜まるってのが最高だ。
 上級冒険者って言う、胃袋のデカい人種の飯を賄うには、うってつけの食材じゃないか?
 これはリピート決定だ。

 てか、まるで小学生を送り出す感じじゃねぇか?
 大丈夫なのか?
 あの大人2人。
 普通に心配になるレベル過ぎて怖いんだが?

 「にゃにゃん!」

 「おっ?おはよう、キナコ。1人で起きて来れて、偉いぞ?」

 「にゃん!」

 おぉ!朝からキナコのドヤ顔が見れるとは……可愛いぞ!

 リック達が出たので、キナコに同じ物を出す。
 キナコも時たまコレを作ってたのを覚えていたのか、バターの催促をしてきた。
 バター旨いよな?
 でも、かけ過ぎ注意だぞ?

 「はぎはぎはぎはぎ。あぎあぎ」

 うん。
 今日も凶悪な顔で食べてるな。
 肉食動物丸出しなキナコも可愛いなぁ。
 ホッコリな朝飯だ。
 自炊万歳だな。


 さて、飯も食ったし、弁当も持った。
 ギルドに顔出してから薬草採取に出かけるか!
 キナコ用抱っこ紐をスタンバイしてキナコは頭。
 猫被りスタイルで出発だ。

 ギルドに到着すると、前日までは嘘の様に人で溢れてるな。
 賑やかと言うよりも騒々しい。
 いつの間にか抱っこ紐にキナコが移動していた。
 騒々しいからな。
 遠征組がこれだけいたって事なんだろうけど……
 凄いな。
 討伐依頼の受付がてんてこ舞いだぞ?
 ララなんか、もう目を回してるんだが?
 なんか不憫だな。

 「おい!ソブル!こっちだ!」

 早速ビルからの呼び出しだ。
 とりあえず向かうか。

 「おう。ビル。どうした?」

 「ワイルドベアの場所に案内を頼みたいんだ」

 「そうか。誰を案内すればいい?」

 「リックとタバサだ。やりやすいだろ?」

 「ありがたいね」

 うん。ありがたい。
 他の知らない奴らよりも、気心が知れてるからな。
 そこは考慮してくれたんだろうな。
 何気にギルドが優しい。

 「2人共、だいぶ早く出たが、待たせちまったか?」

 「いや、大丈夫だ。他の打ち合わせがあってな?ほれ」

 ビルに促されて見ると、階段から2人が降りてくる所だった。
 タイミングが良かったらしい。
 ビルがリック達に手を上げ、声をかける。
 さっきも思ったが、ビルの声は結構通るんだよな。
 こんだけ騒々しい中で声が通るってのは、凄い事だよ。

 「ソブルも来たか。聞いたか?」

 「ああ。まぁ、発見者だしな」

 「凄いの見つけて来たもんだよ」

 「いやな……こっちも驚いた。おかげでご馳走代になったからな。旨かったろ?」

 「それであのご馳走が出た訳か!」

 今朝と昨夜の飯の余韻を思い出してか、リックもタバサもニヤけた顔になったな……
 まあ良かったと思おう。
 ん?
 ビルの顔が引きつってるな。
 仕事の話だな。
 仕事、大事。
 命に直結だからな。
 真面目に、真面目に。
 リックとタバサを正気に戻す所から始めるさ。
 とりあえずリックを軽くどつく。
 
 「色々聞きたい事もあるが、とりあえず出れるか?」

 「いつでもいいぞ!」

 「リック……ソブルはどうだい?」

 「ああ。大丈夫だ」

 「なら、行くかっ!」

 「「「リック……」」」

 とんだ脳筋野郎じゃねぇか……
 呆れたね。
 俺とビルの目は、タバサへ向いた。
 あれは苦労するぞ……
 あっ……
 タバサが目を逸らした。

 頑張れ、タバサ!
しおりを挟む

処理中です...