騙されて異世界へ

だんご

文字の大きさ
上 下
19 / 52

19 予想を裏切る現実

しおりを挟む
 『キィィイィィィ~………』
 『『『『ピギィ……』』』』

 ……お気付きだろうか。

 『キィィイィィィィ~………』
 『『『『ピギィギィ……』』』』

 今、2杯熱湯を蔦の根元にかけたのだが。
 断末魔が上がるのだ。

 【トレントモドキ・蔦】
 ・トレントに近い蔦形態の魔物。一般の植物に紛れ繁殖する。土から栄養を摂っているが、時折生物からも吸収する。危険。

 ……大いに茂っている。
 多分、全部コイツ等で確定だ。
 ちっちゃい悲鳴は、

 【毒ムカデ・幼生】
 ・顎肢に毒腺があり、飛ばす事も可能。毒は神経毒。顎肢は硬いものでも砕く事ができる。肉食。危険。

 根元、土の下に危険な肉食系がいた。
 日常生活のすぐそばで、危険な生物がすくすくと育ってやがった。
 多分、幼生だから主食は虫とかイエナイ感じだろうけども……

 『※その認識でOKです』

 そのうち人を襲うんだろうな……

 『※その認識でOKです』

 スタンビートとかにも一役買ってるだろうな。

 『※その認識でOKです』

 普通にヤバい依頼だったっ!!

 『※その認識』︵プツンッ︶

 だよなっ?!
 しかも、しかもだぞ?
 幼生がこんなに大量に……いったいどうやってここに来た?
 ここを産卵場所にしてるわけじゃないだろうなっ?!
 ……なら、幼生さんの大移動?

 『※その認識でOKです』

 怖っ!!
 何ソレ怖っ!!
 まさか、自然淘汰される予定なのに安全地帯見つけた系か?

 『※その認識でOKです』

 みんな集まれ~な感じか……?

 『※その認識でOKです』

 呼び込み付きぃぃっっ!
 早目に始末してしまおう。
 念入りに、念入りにだ。
 熱湯攻撃エンドレスでもいいかもしれないな。
 マジでヤベェよ。

 ︵ポトッ︶

 ……なんだ?
 上から何か降って来たぞ?

 【鑑定】
 ・毛虫。野盗蛾の幼虫。野盗のごとく全ての作物を食い尽くす勢いで植物を摂取する。農業害虫。

 いちいち物騒な名前だな。
 俺の住んでた所にも夜盗蛾ヨトウガがいたけども。
 一晩でゴッソリ食い尽くすから名前がついたらしいけども……
 トレントを食うなら、益虫か?
 なら可愛いじゃないか。
 ……普通の毛虫が可愛らしく見えたら、末期だな。
 
 それから店員が昼飯を持って来るまでの間、永遠と熱湯を流し込み続けた。

 「お疲れ様です……えっと……?」

 「あっ……ソブルだ」

 「すみません、自己紹介もせずにいてしまって」

 「いや、こっちも忘れてたからな」

 「私はこの商会を率いています、スミスと言います」

 店員さんかと思ったら、会長さんだった。

 「すまん、商会長さんだったか……」

 「よく言われます。まぁ、小規模な商会ですのでね」

 「そうなのか?随分立派な感じなんだが……」

 倉庫の感じといい、別棟が建ててある敷地といい、小規模とは信じ難いんだが?

 「そう思って頂けるとは……ちょっと照れますねぇ」 

 照れる要素はどこだろうか……わからない。
 とりあえず、今の作業内容を伝えておく。

 「そんな……トレントモドキに毒ムカデまで……」

 スミスさんが頭を抱えてしまった……
 確かに魔物が住んでたらショックだろうな。

 「せいぜいイエナイがいるだけだと思ってました……」

 イエナイ案件飛び越えたもんな。

 「幸い熱湯で何とかなってるからな。外回りはそれの繰り返しでいいだろうと思うんだが……」

 「確かにトレントや毒ムカデは火魔法に弱い……熱に弱いので、熱湯は素晴らしい案です」

 「ただ、屋内は未確認状態でな……すまん」

 「いえ、段取りは全てお任せします」

 「ちなみになんだが、屋内は臭い虫以外で気を付ける点はあるか?」

 「そうですねぇ……今まで、お願いしていた方々からは、何も聞けていませんね……皆さんそろって口を閉ざされて……」

 「イエナイか?」

 「もしかしたら、イエナイ以上の何かかもしれないのです……」

 怖っ!!
 よっぽど恐ろしい目に会ってるぞ?!ソレ?!
 本当にもう勘弁して貰いたい。
 俺だって逃げ出したい。
 せめて戦えるスキルがあれば良かったのに……
 いや、命のやり取りが無いのは幸いなのか?
 生き延びれるもんな。
 けどな、けどな?
 汚屋敷掃除や魔蟲退治ばっかり確定の生活になりそうで怖いんだよ……
 もう、遅そうだけど。

 『※その認識でOKです』

 …………あぁ。はい。

 昼飯後、従業員さん達が熱湯を担当してくれる事になった。
 お急ぎ案件に昇格したのは間違いない。
 外がこれ程ヤバいので、中もヤバいんじゃないだろうか?と、スミスさんの心の嘆きをキャッチしてしまったので、午後は突入・探索をする事になった。

 一歩足を踏み入れたら、昼食を摂ってしまった後悔の塊が込み上げて来る。
 マジで臭い。
 鼻が腐って落ちる位だ。
 外で熱湯処理が継続され、トレントがザワついている刺激のせいか、臭い虫カメムシも全開の様だ。
 コレ、マジで失神できるレベルだ。
 そう言えば、カメムシは自分の臭いで気絶するんだったな……臭い虫はどうなんだろうな?
 
 【鑑定】を確認しながら進む。
 今、引っかかるのは、臭い虫とカブリ虫。
 多分、イエナイもそのうち引っかかるはずだ。
 あといるのは、

 ・ゲジ。顎に毒あり。人間には無毒。肉食。獲物を追い込み、足で絡め取る様に捕獲する。実は益虫。湿気を好み、床下・落ち葉や石の下等に暮す。

 実は益虫なの?!
 知らんかった。
 足が多い=ムカデの仲間=害虫だと思ってたぞ?
 肉食だから、カブリ虫とかクモとか捕ってるって事か?

 『※その認識でOKです』

 臭い虫も食べるのか?
 ……まさか、臭くて食えないのか?

 『※その認識でOKです』

 もしかして臭い虫は外敵らしい外敵がいないんじゃぁ……

 『※その認識でOKです』
 
 ……強敵じゃねぇか。

 探索の結果、臭い虫、ゲジ、クモ、カブリ虫にイエナイ、他の小さな奴等位がいた。
 ゴミ系が少ないのが救いだが。
 ほぼほぼ駆除業&清掃業と言った所だ。
 あと、生臭さの原因も発見した。
 多分、殺虫霧バ○サンを何回か使用したんだろうな。
 虫の死骸、主に臭い虫の死骸から臭っていた。
 臭い虫は、死んでも臭いらしい。
 しかも他の虫がほとんど死骸で見つからない所を見ると、完全に他の虫から拒否されてる事がわかる。
 かなり悲しい存在だな。

 一回りしてきたが、なんとかなりそうだと安心した。
 蔦の件が片付いてからの方が、掃除しやすいはずだ。
 ちょっと覚悟していたからな。
 他の奴等が口を開かないような恐ろしい物なんか別に無かったこらな。

 最後に浴室のチエックに行き、ドアを開け……ソッと閉めた。

 最後の最後で、見ちゃイケナイ物を見てしまったのだ。
 コレは言えないよな……
 全身に発生した鳥肌が引き攣って痛い。
 そして気持ち悪い。
 もう辞めたい。
 ナメクジには、塩だよな。
 いや、水で復活するんだった。
 詳しくは考えたくもないから、退治の記憶だけ思い出そう……


しおりを挟む

処理中です...