騙されて異世界へ

だんご

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13 リックの思い

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 ︵リック視点︶

 ……俺は、今、何を見ているのだろうか。


 最近、町の周辺でゴブリンの発見報告が頻発しているから、と。
 調査依頼が出された。
 身軽でいて、それなりに引き際が判断出来る奴らが、俺達を含めて数組受けている。
 一応、異世界人が出現次第確保も継続依頼らしいが、もうすでに3人来てる。
 王都に3人いる時点で、もういいだろ?
 ハッキリ言って、アレは奴隷と言っても言い過ぎにはならない対応だ。 
 今思い出しても吐き気が込み上げる。

 『家に……帰して……』

 黒い瞳が闇に染まっていたな。
 世話係も交代制だったが……俺もタバサも耐えきれなくなって、辞職したのだ。
 他にもボロボロ辞職者が出てるが、国の対応は変わらなかった。
 貴族の中でも、対応について王に申し立てた者達もいたが……辺境に送られ、他の者達も口を閉じたな。

 心ある者は中央を離れ、欲に塗れた者が城に入り込む…… 
 悪循環だ。 
 腐りきった国は、いったいどうなるのか……
 
 どうにもならないが、こちらも生活がある。
 自分が生きる事に精一杯なのだ。
 手を差し伸べる事の出来ない俺も、奴らと同じなのだ。
 だが、仕方がない。
 誰しも自分が1番だろ?
 仕方がないんだ。
 俺は辺境で生きて行くんだから……

 「リック。ゴブリンパーティーだ」 

 「あぁ」

 今は、目の前の依頼だけを考えよう。
 ゴブリンのパーティーだ。
 獲物を持ち帰るとなると、デカい拠点があるって事だな。 

 『ゲギャ!ゲギャゲギャ』
 『ゲゲゲギャ』 
 『『『『ゲギャギャギャギャギャ!!』』』』

 ……随分と御機嫌な獲物なのか。
 大爆笑じゃないか。

 「リックっ!アレ、人間だっ」

 「なにっ?!まさか、異世界人かっ?!」

 「……いや、変な形の名前じゃ無いから、大丈夫だ」

 「どちらにしろ、見捨てるのは目覚めが悪いな」

 「だな。人助けができるとは……罪悪感が多少薄まるよ……」

 「……だな」

 ゴブリンをそのまま見逃せば拠点まで判明するだろうが。
 その為に犠牲があっていいものでもない。
 それに、他の奴らが見つけている可能性の方が高いからな。

 「ホブゴブリンは俺が止めるから、トドメを頼む」

 「了解」

 ホブゴブリンをタバサが仕留め、捕まっていた奴を解放する。

 「おい、大丈夫か?」

 ……俺は、今、何を見ているのだろうか。

 助けた奴は、全裸だった。
 どこでどうすれば森の中で、全裸の獲物になるんだ?
 背はそこそこ、随分と緊張感の無い顔をしている。
 まさか、緊張感が無さ過ぎて、全裸で水浴びでもしてたのか?
 まさか……まさかだろ?

 「……すまん。助かった」

 短髪の黒髪・黒目が異世界人を連想させるが。
 コイツは違うのか?
 異世界人では無さそうだな。
 彼の地から来た者達は皆、混乱しているか、異常に興奮しているか……そして、異常なまでに丁寧な言葉を使ってくるからな……

 「しかし……何が起きて事になってたんだ?」

 一応確認しておいた方がいいだろう。
 いざとなれば、隠してやらないとならんからな……
 これ以上国の犠牲を増やす訳にはいかんからな。

 「俺にも何が何だか……森で迷ったんだが、気付いたらこうなってたんだ……」

 「こうなる前は、どこから来た?」

 怪しいな。
 半分、当たりかもしれないが。

 「それが……ちょっと怪しいんだよ。同行者達とはぐれた事や、巨大な魔物同士が戦って必死に逃げてた事……スライムに襲われた事は思い出してるんだが、気付いたらコレだ……」

 「……同行者とは?親しかったのか?」

 「いや……初めて会ったはずだ……あぁ、呼び込みで集められた……のか?妙に俺だけ浮いてたな……嫌な感じだった……」

 「ソイツらの顔、覚えてるか?男か?」

 「いや、顔は思い出せないな……男もいたが……女が多かったな……」

 記憶が混濁しているのだろうか?
 いや、彼なりの危機管理かもしれないな。
 ふむ。
 いや、ない事もないか。
 他国から正規の手順で狩りをしない輩がいると聞いてたな。
 その運び手として騙された可能性もあるな。

 「そいつが言った事はじゃないな」

 「そうか……」

 ……やっぱり騙された方か。
 ご丁寧に服まで剥ぎ取って。
 タバサの【真偽の目】は、騙せないからな。
 魔法に馴染みのない異世界人なら、間違いなく引っかかるからな。
 
 「お前の名前は?」

 「多分……ソブル……だ」

 「そうだ。合っている……って、全裸か?!」 

 タバサはキツい顔立ちだが、優しさに溢れ、若干乙女チックな所がある可愛らしい女性だ。
 若干顔を赤らめる所に好感が持てる……って、俺は変態じゃないぞ?
 恥じらう女性を見て喜ぶ趣味は、断じて持ち合わせていないからなっ?!
 ……誰に言い訳しているんだか……

 「多分、スライムっぽい……」

 「あぁ……だろうな……」

 「【アイテムボックス】のはどうだ?」

 「全部使……」

 「不運なヤツだな、お前……」

 「俺もそう思うよ……」

 仕方がない。
 俺のマントを貸してやるか。
 タバサには、あまり見せたくないからな。
 ありがたく羽織っておけよ?
 タバサは平気だと言っているが、女性。
 微妙に目をそらしているので、恋愛的な何かに発展でもされたら困る。
 俺が困る。
 男の裸なんて見た事ないだろうからな……ショックから恋へ……なんて、困る。
 ……あぁ、不安だ。

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