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番外編

EX3-1 ハッピーサマーウエディング

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 俺がどうにか学園を卒業して、1年と少し経った。
 
 卒業後、俺はクルスと共に奴の実家の敷地内にある小さな邸宅に移り住み、治療院が併設された修道院で働いている。
 俺が居たなんとかベーコン修道院はあんまり良い噂を聞かないらしく、心配したクルスのご両親がとってもホワイトな職場を斡旋してくれた。お陰で、緊急の重病人さえ担ぎ込まれてこなければ毎日定時で帰れる。快適。
 クルスは宮廷魔術士として、エドワードをはじめとする王族の護衛をしたり、護衛の任務がない時は魔力の効率化について研究したりしているらしい。たまにクルスが魔道具の試作品を持って帰ってくるので、面白半分で使わせてもらったりしている。
 まあこんな感じで、俺とクルスは卒業後も、それなりにうまくやっている。

 
 そして6月の某日、俺は某ネズミのテーマパークにあるお城を彷彿とさせる、壮麗な大聖堂に居た。
 大聖堂の中には大理石でできた長いバージンロードがあり、壁面を覆う巨大な複数枚のステンドグラスが、陽に照らされて祭壇と会衆席に色とりどりの光をもたらしている。

 
 今日はここで、結婚式が行われようとしていた。
 
 別室で待機を言い渡された俺は、この世界に来てから初めて制服以外の正装を身に纏い、両手を膝の上に置いて緊張で体を強張らせていた。
 
 外から扉をノックする音が聞こえると、「はい」と答えてドアノブを引いた。

「このハゲ様、ご準備はよろしいでしょうか?」

 ドアの向こうに居たのは、式場のスタッフだった。二十台後半くらいの、メガネを掛けた七三分けの男性である。

「あ、はい。大丈夫です」

 と少し上擦った声で答えると、「ではこちらへ」とスタッフに『新郎新控室』と書かれた部屋の前まで連れてこられた。

 スタッフが再度扉をノックし、「このハゲ様をお連れしました」と言うと、カタリ、という音と共に扉が開いた。

 中には、光沢のあるグレーのタキシード姿のヒロくんが居た。

「ヒロくん。……ご結婚、おめでとう」

 ヒロくんは笑顔で、俺を室内へと招き入れた。
 
「このハゲ先輩……じゃなくて、しげるさん。今日はありがとうございます。リングボーイを引き受けて下さって」
「親戚にちっちゃい子おらんかったの?俺、君達より年上なのにリングボーイだなんて、恥ずかしいよ」
「でも引き受けて下さったんですね」
 
「……ヘラルドには、恩があるからね」

 今日は、ヘラルドとヒロくんの結婚式だ。
 
 今から約一年半前に、ヘラルドから貰った、白いカードブルジャイン家別邸の鍵
 あの鍵がなかったら、今頃俺やクルスはどうなっていたんだろうと考えると、奴には感謝してもしきれない。
 「鍵ありがとうな」と話しかけようか、でもフッた奴に話しかけられたくないよなと思いを巡らせているうちに、奴とはそれっきりになってしまっていた。
 だから、二ヶ月前にヘラルドとヒロくんの連名で結婚式の招待状が届き、ヒロくんが宣言通りにヘラルドを『攻略』した事、……そして俺にリングボーイをやってほしい、という小さなメモが入っていた事には、「ファッ⁈」という変な叫び声を部屋じゅうに響かせ、側に居た使用人をめちゃくちゃ心配させるくらい驚いた。

 おいおいおい、リングボーイって正気かよとメモを片手に色々と勘ぐったが、結局、恩人の頼みとあらば、たとえ笑い者にする為だったとしても引き受けようと心に決めて、ヘラルドとヒロくん宛に返事を書いた。
 ヘラルドの性格を考えたら、俺にこんなのリングボーイを頼まなければならないほど親しいご学友がいない可能性も危惧しての事だった。

「大丈夫ですよ。しげるさん、パッと見中学生くらいに見えますし」
「全然嬉しくないわあ」

 ヒロくんによると、ヘラルドはゲームのシナリオ通り王国の宰相職に就き、ヒロくんは宰相補佐官としてヘラルドを支えているとの事だった。
 ヘラルドが一向に来る気配がないので、緊張で腹でも壊してるのか訊いたら、どうやらヘアメイクに時間がかかっているらしく、俺がヒロくんと話している間に戻ってくることはなかった。
 
 ヒロくんからリングボーイとしての役割を聞いた後、再び指定された別室へ戻ると、用意されていたドリンクを飲んだり、室内に飾られている絵画や骨董品をよくわかりもしないのに「ふーん」と言いながら眺めたりしているうちに、俺の出番がやってきた。

 四隅にタッセルの付いた豪華なリングピローの中心には、片方には透明色、もう片方には紫色の一粒石がはめ込まれたお揃いのデザインの結婚指輪が並んでいる。
 俺はそのをリングピローを両手の上に載せ、転ばないよう、落とさないよう慎重にバージンロードを進んでいった。
 途中で「え……リングボーイ?でかくね」という小さな声が聞こえてきた。声の主よ、俺もそう思う。


 バージンロードを歩き終え、祭壇の前に到着すると、そこにはヒロくんと――純白のタキシードに身を包み、すっかり伸びた白銀色の髪をサイドでカチューシャのように編み込み、後ろでゆったりと束ねたヘアスタイルの、ヘラルドが立っていた。




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