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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話
50 恋をしていたんだ
しおりを挟む「あ、そうなの?」
そういう事なら、と、俺は再びクルスの隣に座った。
「で、なんだよ。まだ話してない事って」
「……コノハ」
クルスな表情はいつになく真剣で、緊張しているようにも見える。
「うん」
「僕がエドワードから月桂樹の雫を受け取らなかった理由は……もう一つ、ある」
「もう一つって、何だよ?」
俺がクルスを覗き込んで訊き返すと、クルスは拳をぎゅっと握りしめ、黙りこんでしまった。
「大丈夫か? 言いたくなかったら無理すんな」
クルスは首を大きく横に振ると、覚悟を決めたように、俺に向き直った。
「……今、言う。
コノハ、お前の事が……好きなんだ」
…………ん?
「お、おう。ありがと。
俺もお前の事、好きだぞ。我が親友よ」
「そうじゃなくて‼︎」
クルスの語気が強まった。どうした、マイフレンド?
「このタイミングで好きだって告ってんのに、なんで友達としての好きだと思うんだよ!
このっ……ハゲ‼︎」
クルスは猫のような瞳できっ、と睨むと、俺の前髪をぎゅっと掴んで罵倒した。
クルスの『好き』は、友達としての好き、ではない……?
だとすると……
「えええええええ⁉︎
なんで︎‼︎⁉︎ いつから……」
ようやくクルスの言わんとする事を理解して、顔全体がカアッと熱くなる。
「月桂樹の、冠……」
クルスが俺の希少部位を掴んだまま、ぽつりと声に出した。
「文化祭で使った冠……本番前に隠されたよな。
あるはずの場所にないってわかったら、真っ先にお前が探しに飛び出して……それでも見つからなかった時……両手をボロボロにして、新しいものを作って俺の頭に載せてくれただろ?
……一輪のマーガレットの花と共に」
「あっ…そ、そんな事もあったな!」
ああ、あのコスモスみたいな花、マーガレットかあ。
名前と実物がようやく頭の中で一致した。
クルスが俺の顔を見て、ふっと笑った。
「……知ってるか? 一輪のマーガレットの花言葉。
『あなたが、運命の人』
お前にとってはたまたま見つけた花だったんだろうけど、その瞬間、呪いが解けたかのようにこう思ったんだ。
コノハ……。エドワードではなく、お前が僕の『運命の人』だったんだ、って」
クルスが俺の髪の毛を掴む手を緩め、優しい手つきで俺の頬を撫でた。……とてもこそばゆい。
「そんな、些細なことで……」
「『恋に落ちるきっかけなんて、些細なこと』、そう言ったのはお前だろ」
「……そういえば前に、そんな話をしたような気がするな」
「更に言うと、好きになったのはそれだけが理由じゃない。
僕の闇魔法を否定せず、いつもすごいって褒めてくれて、いざという時にはこっちが心配になるくらいに体を張って……。
いつも一番近くで底抜けに明るく笑って、僕のハッピーエンドを願い続けてくれていた。
お前がこの世界に来てくれたからこそ、本当の恋を識ることができた。
……コノハ。どうか、僕の『ハッピーエンド』の相手になってほしい」
「クルス……」
……やばい。ヘラルドに告白された時とは比べものにならないくらいの緊張と動揺で、顔は熱いし胸がはち切れそうだ。
どう返事をしたらいいのかわからずに下を向いて黙っていると、クルスが再び口を開いた。
「ごめん……実はさっきまで、この気持ちを伝えるつもりはなかったんだ。でも、」
「でも、……何だよ?」
「……お前が……その、『月桂樹の雫』が入った水を全部飲み干した瞬間に、欲が沸いてしまった」
「…………ハァアァアアアアァア⁉︎
げっ、げ、月桂樹の雫って、あれだろ⁉︎ 」
飲んだヤツを……妊娠可能な体にするアイテム……。
「知ってるか?月桂樹の雫には、合意のない性交渉が行われない為の魔法が掛けられている。
それを飲ませた相手に恋愛感情を持っていなかった場合……たとえ一滴でも口にすれば、拒否反応が出て吐き出すように出来ているんだ。だから……」
俺はそれを、全部飲み干した。
……なんなら、おかわりまで要求した。
つまり……
「何も言わずに飲ませるなんて……卑怯だぞ‼︎」
俺は今、なんてクルスに言ったらいいんだ。
俺は今、……どんな顔を、してるんだ。
「確かに卑怯だな……お前がさっき飲んだ水を吐き出していたら、何も伝えず、一番近くにいる友達のままでいようと思っていたんだから」
「ずるいぞ……クルス」
「狡いよな。でも、月桂樹の雫はお前の気持ちを知るための、僕にとって唯一の『攻略ガイド』だったから……使わずにはいられなかった。
……もう判ってしまっているけど……ちゃんと、コノハの口から聞きたいんだ。
そして、お前の『呪い』を解いて、一番に、本当の名を僕に呼ばせてほしい」
そうか……。ずっと、クルスとエドワードが結ばれるように願ってたはずなのに心が痛かったのは、オカンモードになってたからじゃなくて。
「……あほ……」
「ごめん」
雷のあの夜……ストン、って聞こえたのは、鞄が落ちた音なんかじゃなくて。
「違う、こんな方法で心のうちを丸裸にされても……っ、全然嫌いになれないどころか、今だってめちゃくちゃお前の事で頭がいっぱいな俺自身に言ったんだよ‼︎ 」
俺は、クルスに恋をしていたんだ。
「クルス……俺も、お前の事が好きだ。
大好きだよ‼︎ この……っ」
これからぶつけてやろうと思っていた言葉が、クルスの唇によって封じられた。
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