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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話
42 最後の告白
しおりを挟む普段なら俺が話しかける前に、しょうもない話題を振ったり抱きついてきたりするのに、今日は無言で教室のドアの前に立ち、金色の瞳をこちらに向けている。
いつもと違うヘラルドの様子に違和感を覚え、俺は席を立つと、奴の元へ向かった。
「ヘラルド……どうした?」
「……ヒロに、」
ヘラルドが口を開いた。あれ、用があるのは俺じゃなくてヒロくん? ならなんでここに来たんだ。
「ヒロくんに?」
「あいつに、おまえのところに行ってこいって言われた。
よく解らないが……凄い剣幕で、今日がボクの、おまえにちゃんと気持ちを伝えられる『最後の日』だからって……」
「? なんで最後……」
そう言いかけて、俺はハッとした。
「このハゲ、その顔……。
ヒロが言っていた事は、本当だったんだな」
攻略対象が一人に絞られるのは聖夜祭が終わった年明け後だが、今日が年明け前の最終登校日で、ヘラルドとエドワードは新学期が始まるまで自宅の王宮に戻る事になっていた。
つまり、ヘラルドが『攻略対象』なのは、実質今日が最後なのだ。
でも、ヘラルドが放課後俺の元にやってくるなんて攻略ガイドには書いていなかった。そもそも俺が反省文を書いている事自体が、既にシナリオを逸脱している。
ヒロくんのお膳立てがあったとしても、予想もしなかったヘラルドの行動に動揺が隠せない。これから奴は、俺に何を言うつもりなのだろうか。
「……ヘラルド、お前家に帰る準備しなくていいのか?」
「今はそんな事、どうでもいい」
ヘラルドがまっすぐ俺を見つめると、いつもと違った余裕のない表情で、口を開いた。
「このハゲ。お前が好きだ。
どうか、兄さんでも、他の誰でもなく……ボクを選んでほしい」
いつもの字幕も選択肢も出ない、ヘラルド自身の言葉での告白だった。
そして、ヘラルドに右手を差し出された。俺は……。
「……ヘラルド、ごめん。
俺とお前の『好き』は一緒じゃないから、お前の気持ちには応えられない」
真剣に向き合ってくれたヘラルドに、俺は深く、頭を下げた。
すん、という音が聞こえて顔を上げると、ヘラルドの両目に、じんわりと涙が浮かんでいた。
「嫌だ」
ヘラルドらしい幼稚な拒絶の言葉に、胸が苦しくなる。
俺はヘラルドの涙をハンカチ……は今日も持ってなかったから制服の裾で拭い、言葉を続けた。
「ごめんな。
でも、好きになってくれて、……それを伝えに来てくれて、ありがとう。ヘラルド」
俺がヘラルドの頭をよしよし、と撫でると、
「……までだ」
何かをヘラルドが呟いた。
「ん?ヘラルド、なんて言った?
もう一回言ってもらっていい?」
俺がヘラルドの頭から手を離して問いかけた瞬間、強い力で押し倒された。
「……おまえの心が手に入らないなら、力ずくで手に入れるまでだ! このハゲ‼︎」
その衝撃で、床に頭を強く打った。
「痛っ……!」
ヘラルドは乱暴な手つきで俺のネクタイを解くと、両手を縛り上げた。奴の馬鹿力で縛り上げられた手首に、激しい痛みが走る。
「ヘラルド、やめろ」
「やめない」
あまりやりたくないけど、奴の目を眩ますしかないのか。
「ハゲビ……っ」
言いかけたところで、ヘラルドに顎を掴まれる。
「言わせないから」
ヘラルドを睨むと、奴は歪んだ笑みを浮かべて、俺のワイシャツを勢いよく引っ張った。
ボタンが弾け飛んで上半身が露わになり、ひんやりとした冷気にぞくりとすると、今度はベルトに手を掛けられた。
――――、助けてくれ……‼︎
心の中で叫んだ瞬間、「かはっ」という声とともに、ヘラルドが俺の体から離れて苦しみだした。
……一体何が起こったんだ?
「……コノハ、大丈夫か」
教室のドアの向こうからは、聞き慣れた声が。
そこには、息を切らしながらヘラルドに向けて手をかざす、クルスの姿があった。
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