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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話

17 BのL学園の食堂

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  保健室を出ると、外はすでにとっぷりと日が暮れていた。
 
 この後どうしたらいいかさっぱりわからず、俺はとりあえず、金魚のフンの如くクルスにくっついていく事にした。
 クルスによると、もう夕食の時間帯で、この『ベイローレル学園』…もうめんどいからBL学園でいいかな?そんなルビ振ってあったし。は全寮制なので、食事は普段、食堂で摂るらしい。

 全寮制かあ……攻略対象達と缶詰にするのに都合の良い設定だから、薄々そうなんじゃないかとは思っていたが。

 そうこうしているうちに、俺達は食堂に着いた。
 ゲームの世界だからか、食堂は、建物の造りなどは西洋風なのに、メニューはパスタの他に、カレーやラーメンなど、日本でお馴染みのものばかりだ。
 カツ丼もあるみたいだけど……寿司はないのかな?

食堂に来るのは、久しぶりだな」

 クルスがぽつりと呟いた。

「クルスは普段、食堂で食べてないのか?」
「……周りの反応、見てみなよ」

 クルスに言われたように周囲を見渡すと、遠巻きに怯えた視線をこちらに向けるモブをぽつぽつと見掛けた。

「……まじか」

 ふと、トイレでぼっち飯を食べるクルスの姿が脳内に浮かんできた。

「クルス……お前、もしかして普段トイレにこもって一人でご飯食べてたりする?」
「何でトイレ……?」

 俺からの質問に困惑している様子のクルスを見る限り、トイレでぼっち飯をしている訳ではなさそうで少し安堵する。

「や、違うならいいんだ。
 しかし、こんなジロジロ見られながら毎日ご飯食べるの、しんどいよな」
「ここは下級貴族と平民の子息のための食堂だからな。
 上級貴族用の食堂は別にあるし、僕もそうだが、侯爵家以上の出自の者は、昼食以外は自室に食事が運ばれてくるようにしている者が多い」
「そうなのか……それなら、どうしてまた」
 
 ここまで言いかけて、クルスは平民出身(という設定)の主人公に合わせて、こんな居心地の悪い場所まで来てくれたのだと悟った。

「おい、心遣いは有難いが、無理すんな」
「大丈夫だよ。ちょっかいを掛けられることはないから」
「だとしても……」

 ここで俺は、ある事に気付いた。

「普段食事が運ばれてきてるなら、お前、今日の分の食事、どうすんだ?」
「ああ……まあ、別に。家に運ばれたほうは食べなくても」
「こら、世の中には食べたくても食べられない人達がたくさんいるんだぞ」
 
 俺はクルスに「ちょっと待ってて」と言うと、三分ほどで彼の元に戻った。
 
「ごめん、お待たせ。
 ダメ元で部屋で食べたいから持ち帰れるようにしてくれ、って言ったら、使い捨ての容器に入れてもらえた。
 お前の部屋で、一緒に食べようよ。
 ……で、作戦会議をしよう」
「……作戦会議?」
 俺がプラ容器に入ったカレーをクルスに見せると、クルスはカレーと俺の顔を交互に眺め、片眉を釣り上げた。

「うん、『攻略ガイド預言書』もある事だし。エドワードをお前とどうやってくっつけるか、一緒に考えようぜ。
 あとスプーン貰うの忘れたから貸して」

 クルスは少し、思案する様子を見せた。
 さすがに会ったその日にお部屋訪問はまずかったか?と不安になってくると、

「わかった。……しょうがないからスプーン、貸してやるよ。ついて来て」
 
 クルスはやれやれ、と言わんばかりに肩をすくめると、微かに口角を上げて出口の方へと向かっていった。

「さんきゅ」

 本当はカツ丼が食べたかったけど、クルスがなるべく一人でいる時間が短くなるように、一番早く提供してもらえそうなカレーにしたのは、ここだけの話だ。

 俺はカレーを溢さないように、両手でしっかりと容器を持つと、クルスの後についていった。
 


 
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