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ふざけたハンドルネームのままBLゲームの世界に転生してしまった話

16 ライバルではなく友達に

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「友達……だって? この僕と、お前が……?」

 ……あちゃー。友達じゃなくて、腰巾着くらいに留めておいたほうがよかったかも。

 恐る恐る顔をあげると、頬を赤らめて、大きな目をいっぱいに見開いたクルスの姿が目に入った。

「友達になりたいだなんて……初めて言われた。
 ずっと、闇魔法この力のせいで、周りからは忌み嫌われ続けてきたから……」
「へ?なんで嫌われてるの?
 俺はお前の魔法に助けてもらったんだし、感謝こそすれ、嫌うなんて事ないぞ」

 俺が思ったままを言うと、クルスが潤んだ目元を細め、かすかに口元を綻ばせた。
 実際には出ていないが、例のキラキラ背景が今にも登場しそうな――そんな笑顔だった。

「……お前は変わった奴だな。
 もうってるとは思うが、僕はクルス――クルス・カイリだ。
 よろしく――ハゲ」
「ああ、よろしく、クルス」

 くそう、こいつに至ってはただの『ハゲ』呼ばわりかよ。
 若干哀しい気持ちになりながらも、俺はクルスに差し出された右手を握った。……瞬間、刺すような痛みがてのひらに走った。

「いたっ」
「どうした?」
「そういえば右手の怪我、ちゃんと治してなかったんだった」
 
 握手を終えて右手を見ると、瘡蓋かさぶたになりかけている切創きりきずが、二つほど残っていた。

「ガラスか何かで切ったきずか……?痛そうだな」
「ぎくぅ」
 
 怪我について詳しく聞かれないかドキドキしたが、これ以上深く突っ込まれることはなかった。
 まあいいや、これもハゲヒーリングで治しちゃおう。
 そう思い、左手で前髪を掻き上げて右手を額にかざすと
 
「こら。額から出力するなって言っただろう」

 クルスに右手首を掴まれた。
 
「や、ちょっとした怪我だからサクッと治しちゃおうと思って。
 さっき別のヤンキーのもっと酷い怪我も治してるから、たぶん大丈夫だよ」

 そう答えたが、クルスは首を横に振ると席を立ち、少しすると消毒液に浸かった綿球が入ったガラス容器とピンセットを持ってきた。

「治癒魔法はほぼ百パーセント、他対象にしか使えない。自分で自分を治すことは不可能だ。
 僕は治癒魔法が使えないから、これで勘弁してくれ」

 クルスはガラス容器から消毒用の綿球を一つ、ピンセットで取り出すと、俺の右手の傷口に当てた。
 
「痛って……」
「我慢しろ」

 綿球から滴るひんやりとしたオキシドールが、塞がり切っていない傷口に沁みる。

「無闇に魔法ちからを使うな。このくらいの怪我なら自然治癒の力に任せた方がいい。
 それに、必要なら……僕でよければ、使い方を教えてやるから」

 クルスの耳が微かに赤くなっている。

「ありがとな。やっぱ、持つべきものは友達だな」
「……っ」

 こんなに優しい奴なのに、なんで誰も友達になろうとしないんだろうな。
 クルスは顔を伏せており、どんな表情かよく見えなかったが、耳が一段と赤くなっているのがわかった。


 
 
「ごめんクルス、諸事情により後ろに隠れさせて下さい」
「なんでよ」
 
 パーテーション代わりのカーテンを開け、さっきの保険医が居るんじゃないかとヒヤヒヤしながらベッドから離れると、保健室には誰も居なかった。

「あれ……ロン毛の保険医、いないな」
「ロン毛の……って、ヘンリー先生の事か?
 何でも、目に異常があったかもしれないって早退したみたいだけど」
「そう……目に異常……ふーん……」

 やばい、ハゲビームのせいか?

「……もしかして、お前の仕業だったりする?」
「仕方ないじゃん!だってあいつに俺のお手手、チューされたから気持ち悪くてつい」
「なんだって⁉︎」
 
 やば……またあらぬ誤解を生むような事を言ってしまった。

「それなら、尚更ちゃんと消毒しないといけないじゃないか!
 そこに座れ、どの辺に口付けられたんだ⁉︎」

 俺は再び、激しく沁みるオキシドールの綿球を右手に押し付けられた。

「ギャァ! 痛い‼︎」

 ……うん、クルスはいい奴だと思うよ……。





※しばらく攻略対象不在になっててごめんなさい!三話くらい先から再び出てくる予定です。

 
 
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