【本篇完結】日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの

文字の大きさ
35 / 35
日乃本 義に手を出すな 番外篇

番外篇 参 修羅場 伍

しおりを挟む


「ひゃはははは‼︎
 それで、柾彦は鷹輪たかなわ駅と鷹輪ゲイトウェイ駅を間違えてしまって……っ、徒歩、二十分も掛けて階川しながわ迎賓館まで行った訳だね?」
「…………うるさい。大声出すと目立つぞ」

 井伊田橋いいだばし方面に向かうために千代多ちよだ線のホームで電車を待つ間、柾彦は先程、電車と聞いてウッとなった理由について日乃本ひのもと ただしに話した。……その結果がこの有様である。

 どうやら日乃本 義は大笑いすると『ひゃはは』という声をあげるようだ。小馬鹿にされているようで実に気分が悪い。

「似たような名前の駅が多すぎんだよ。かと思えば、同じ場所にあるのに乗り換え先が違う駅名になっている所があったりして……東喬とうきょうには田舎者を目的地に到着させない為の包囲網でも敷かれてんのか?」
「柾彦が電車音痴なだけでしょ」

 電車音痴という言葉に反応して柾彦が日乃本 義を睨むと、「わ、その顔そそるね♡」と言って特殊なレンズで小さくなった目をさらに細め、優越感でひたひたの笑みを向けてきた。
 
「柾彦、そんなに電車が苦手なのに、アプリを使ってないのかい?」
「アプリ?」
 
 柾彦が訊き返すと、日乃本 義が自らのダークレッドカラーのスマートフォンを取り出して『乗換案内』と書かれたアプリを開いた。
 
「これ。例えば上に日比屋ひびや、下に井伊田橋いいだばしと入力すると…」

 日乃本 義が慣れた手つきで操作をしていくと、所要時間順に複数の経路がずらりと表示された。

「ね」
「……こんなん、あるんだな」
「入れてあげるよ、貸して」

 言われるがままにスマートフォンを手渡しそうになったが、柾彦はハッと気が付くとその手を引っ込めた。

「お前、アプリのダウンロードにかこつけてIDとパスワードを聞き出すつもりだろ。そうはいかないぞ」
「そんなつもりはないよ。
 ……だってもう、両方知っているもの」
「ハァ⁉︎」

 大声をあげると、近くで電車を待つ人達の視線が一気に柾彦に注がれた。

「柾彦、

 柾彦がついさっき投げた言葉を爽やかに投げ返してきた日乃本 義が、人差し指を立てた口元の端を微かに上げる。

「ほら、電車来たよ。車内では静かにね」
「…………」

 実に、気分が悪い。


 
 なんで日乃本 義がIDとパスワードを知っているのか甚だ疑問だったが、先程彼から「車内では静かに」とのご指摘を頂戴したので、話しかけられても言われた通りに無視してやった。
 
『次は~井伊田橋いいだばしィ、井伊田橋ィ~』
 
 降車駅の名前を告げるアナウンスが流れた。電車のドアにもたれかかり、窓から流れていく景色をぼんやりと眺めていた柾彦がゆっくりと姿勢を正すと、振動音と共にメッセージアプリに一件の通知が入った。

 差出人:ダーリン♡
     無視しないでよ、ハニー

「は?」
「やっと反応してくれた」

 柾彦は両目を見開いて、スマートフォンを片手に微笑む日乃本 義と『ダーリン♡』からの通知を交互に眺めた。
 ――そうだ、ブロックしよう。
 柾彦が日乃本 義をブロックすべくスマートフォンの画面を開こうとした瞬間、再び振動が手に伝わった。

 差出人:ダーリン♡
     まさかブロックしようなんて、思ってないよね?

「……エスパーかよ」
「君がわかりやす過ぎるんだよ、ハニー」
「誰がハニーだ!」

 日乃本 義は『静かに』のポーズを取ると、「まあ、ブロックできないようにしてあるんだけどね」と言って不敵な笑みを浮かべた。

「……お前、俺が寝てる間にスマホに何か細工したな?」
何もしていないよ。
それに、君のスマートフォンに、婚約者の連絡先が入っていない方がおかしいだろう?」

 全幅の信頼を置いていたスマートフォンが一瞬のうちに日乃本 義の間者にしか見えなくなり、柾彦は眉間に深く皺を寄せた。
 とはいえ、身内や友人達の連絡先が入ったスマートフォンをぶん投げて破壊する訳にもいかず、柾彦は『ダーリン♡』に短く「死ね」と返信した。




 東喬とうきょう大神宮は、柾彦が思っていたよりこぢんまりとしたところだった。境内は若い女性客で大層賑わっていた。
 布留川にも神社はあるが、大晦日や年始以外でこんなに賑わっている事はない。

「年末年始でもないのに、随分と参拝客が多いんだな」
「ここに来ているほとんどが、恋愛成就御守や絵馬、恋みくじがお目当ての人達だよ。
 ほら、あそこの列の先頭、見てごらん」

 行列の先頭に目をやると、巫女達が御守の見本を見せて、どれにするかを訊ねていた。

「僕達も並ぼうか」

 日乃本 義に言われるがまま、行列の最後尾に並ぶと、後方から雅楽の音色が聞こえてきた。

 音がする方に目を向けると、結婚式と思われる集団が神殿に向かっていく様子が目に入った。
 神主、巫女の後ろには綿帽子を被った白無垢姿の女性が二人、朱の大傘の下でゆっくりと歩を進めていた。

「……合同結婚式か?」

 新郎達はどこにいるんだ、と柾彦が呟くと、日乃本 義がゆるやかに首を横に振った。

「柾彦、二人の様子を見てごらん」

 言われた通りに白無垢姿の女性二人を見ていると、それぞれが凛々しい表情で前を向いて歩いていたが、互いの目が合った瞬間に、花が咲きほころぶような笑顔で笑い合っていた。

「そうか……あの二人は」

 白無垢姿の二人組に見惚れる柾彦の手が、不意に日乃本 義によって握られた。
 
「……っておい!何してんだ」
「僕達もいつか、こんなふうに式を挙げられたらいいね」

 微笑みながら二人組に目をやる日乃本 義の横顔は、計算され尽くして造られた骨董品のように美しかった。
 そして、日乃本 義の握力は相変わらず振り解こうにもびくりともしないくらい、アホみたいに強かった。


 
 

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...