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日乃本 義に手を出すな 番外篇
番外篇 参 修羅場 肆
しおりを挟むヒツジ……ではなく日乃本 義は、例の強度近視用と思われるテンプルの異様に太い眼鏡を掛け、上は白いワイシャツにメリヤス編みの古臭いデザインのセーター、下はかっちりとした黒のセンタープレスパンツに内羽根のストレートチップのローファーという、何ともちぐはぐな格好をしていた。
「うわ、ダサっ。何その格好」
「このくらいダサい方が、第二皇子だって判らないでしょ?」
日乃本 義はにっこり微笑むと、「食べ終わったかい?」と言って柾彦の隣に座った。
「ああ……ご馳走さま。
緊張であんまり味がわからないものもあったけど、美味しかった」
「緊張って、僕と一緒に朝食を摂るのがかい?」
「お前にじゃなくて、今着てる服を汚さないか緊張してたの。特にこのインナーなんて真っ白だし」
柾彦が白のカットソーを軽く引っ張って見せると、日乃本 義は眼鏡越しに随分と小さく見える目を、更に細めた。
「柾彦になら、いっぱい汚してもらって構わないよ。
その服も、僕のことも」
「何言ってるんだ? "ヒツジ"の姿で揶揄われると、余計に腹立つな」
「そうか。この姿の時の僕は、君にとっては"ヒツジ"だったね」
日乃本 義はおもむろにカードサイズの手帳のようなものを取り出すと、柾彦に見せた。
それは、"ヒツジ"の写真が貼られた学生証だった。
写真の横には、 国立駒馬高等学校 三年甲組 弐拾番 乃木 匡という、学校名にクラス、名前と、あとは日乃本 義と同じ生年月日が記されていた。
「乃木 匡……?」
「そ。 普段この姿でいる時の僕は、学校にも協力してもらって『乃木 匡』という名前を使っている」
国立駒馬高等学校の名前は、田舎者の柾彦もよく知っている――日乃本帝国で一、二を争う難易度の、全国区で有名な男子校だ。
中でも甲組というのは、駒馬高等学校でも一番の進学クラスだったはずだ。しかし、
「確か皇族って皆、帝国学院に通う事になってるんじゃなかったか……?」
柾彦は以前に読んだ、皇族がらみの記事を思い出していた。
その記事には日乃本 義も例外なく、皇族御用達の私学である帝国学院に登校する姿がパパラッチされていたように記憶していたが……。
「ああ、表向きにはそうなっているけれど、実際に通っているのはほぼ、僕に扮した栗山だよ」
……影武者って、そんな事までしなきゃならないのか。
「栗山さん……桃山さんもだけど、影武者って大変だな。
あ、もしかしてテストとかも代わりにやってもらってるのか? 狡いな」
「さすがに学力考査の時はそういったずるはしていないよ。
それに柾彦、僕が何故駒馬に通っていると思う?
帝国学院の授業が簡単過ぎて退屈だからだ」
そういえば……第二皇子は外見も頭脳も兄弟の中で一番だと耳にしていた事を、柾彦は思い出した。
隣にいる芋っぽい風貌に擬態した男は、本来なら自分などと接点を持ちうる事などない、天上人のような存在なのに。
「お前……凄い奴だったんだな」
「惚れ直した?」
「尊敬はするが、惚れはしない」
どういうわけか、その天上人は今、ねっとりとした不純な視線をこちらに向けて、長い指を自分の指に絡ませようとしている。
それもこれも、人生最大の奇縁が、まさに昨日繋がってしまったせいだ。
「さ、早く柾彦も用意して。『デート』に行こう」
「木綿子の御守を一緒に買いに行くのが、なんでデートになるんだ!
あとこの食べ終わった食器、どこに片付けたらいい?」
「はは。柾彦は律儀だな。もう少ししたら爺やが下げてくれるよ。
そうだ、今日は"お忍び"だから、日比家駅からは電車で行くからね」
――電車。
ぐちゃぐちゃになった蜘蛛の巣のような、東喬駅周辺の難解な路線図のイメージが柾彦の頭の中に浮かぶ。
「……え、車で行かないの?」
「お忍びだって言ったじゃないか。
僕も普段、学校の登下校は電車だけど……あれ?」
日乃本 義が柾彦の顔を覗き込んだ。
「柾彦。もしかして、電車が……怖いのかい?」
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