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日乃本 義に手を出すな 番外篇
番外篇 参 修羅場 壱
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※今回の番外編は少し長くなりそうです。更新ペースは遅いですが、日乃本 義と長谷川の邂逅まで書きたいと思います。
時は少し遡り、選定会後の日乃本家・皇宮。
柾彦は日乃本 義の自室に招かれていた。
日乃本 義の部屋は広い和洋室だった。書斎とリビングと、普通の男子高校生の部屋が一つに合わさったような不思議な空間である。
柾彦は、当たり前だが自分の六畳しかない部屋とは随分と違うものだな、と興味津々に部屋の中を見回した。
「柾彦、そこのベッドに腰掛けていいよ」
日乃本 義に二人は寝れそうなサイズのベッドへと促されたが、柾彦は近くにあったソファーに腰掛けた。
「ベッドにって、言ったじゃないか」
「ソファーがあるんだから、こっちでいいだろ」
日乃本 義は少し不服そうな表情で柾彦のすぐ隣に座ると、同じく部屋にいる桃山と栗山に手を払うジェスチャーをしてみせた。
「お前たちはもう帰っていいよ」
「いい訳ないでしょ。義様、俺達が居なくなったら百二十パーセント、柾彦様に変な事するでしょ」
桃山が指摘すると、栗山も首を縦に振った。
「俺も桃山さんと栗山さんに居てほしいです。
こいつは信用できない」
日乃本 義は「ひどい」と言って演技がかった哀しい顔をしたが、柾彦はそれを無視した。
「まあ……僕が成人する今月末までの辛抱か」
日乃本 義は目を瞑ると、大袈裟にため息をついた。
「今月末って……お前、誕生日いつ?」
「十月の三十一日だよ。柾彦、祝ってくれるのかい?」
日乃本 義がぱあっと顔色を明るくする一方で、柾彦は複雑な表情を見せた。
「まじか……誕生日一緒なんだな」
日乃本 義は恍惚とした笑みを浮かべると、興奮気味に語った。
「誕生日まで一緒だったなんて…!やはり、僕達は運命だったんだね」
「いや、同じ誕生日の奴なんて他にもごろごろ居るだろ」
運命とやらを否定するように言うと、日乃本 義が柾彦の両手を取った。
「自分の誕生日がこの日で良かったと、生まれて初めて思ったよ。
柾彦、僕が成人して、君が二十歳の節目を迎えるその日は盛大にお祝いしよう」
「お、おう……」
柾彦が食い気味に提案する日乃本 義に気圧されて答えると、彼は満面の笑みを見せた。
「そして、二人で情熱的な夜を過ごそう」
「帝国シリーズ(※プロ野球の頂上決戦)の観戦にでも連れてってくれんのか?ありがとな」
「貴賓席でよければ押さえてあげる。遠征する事になりそうなら、大事な初夜を過ごすのに相応しいホテルのスイートを予約しておかないといけないね」
はぐらかしたつもりが、すっかり軌道修正されてしまった。
「初夜って、お前……っ、一体何するつもりだよ!」
「柾彦の方が歳上なんだし、わかってるくせに。
……今から予行演習しとくかい?」
ああ言えばこう言う、日乃本 義は実に憎たらしい。
絶対にしない、本番が訪れる日もないと思っとけ。そう言ってやろうと思ったタイミングで、栗山が「柾彦様が困っていらっしゃいますよ」と 、日乃本 義に声を掛けた。その隙に、柾彦は彼に握られていた手を振り解いた。
「日乃本 義、お前が相撲好きなのって本当だったんだな。
いろんなコレクター品があるみたいだけど、お前の言ってた舞の浪の手形入りサイン色紙、どこだよ」
栗山を睨みつける日乃本 義の気を逸らそうと、柾彦はソファーから立ち上がって訊ねた。
日乃本 義は「確かに、君に見せる約束をしていたね」と言ってソファーから立ち上がると、整然と並ぶ同じサイズの額縁の一つを取り外して、柾彦に見せた。
「これだよ」
「おおっ……!」
見覚えのあるサインの横には、力強い朱色の手形がある。
柾彦は額越しに、舞の浪の手形と自身の手を重ねた。小兵とはいえ、やはり自分の手より大きい。
柾彦の胸は、静かな感動に沸き立った。
日乃本 義の部屋には他にもたくさんの力士のサインや手形の色紙が飾られていた。現横綱の凱鵬のものや、おそらく日乃本 義が推していると思われる南富士に至っては、手形とサインの他に、『ヒツジ』の姿でのツーショット写真も飾られていた。
「柾彦、十一月の本場所が始まったら枡席の最前列を取ってあげるから、一緒に観に行こう」
目を輝かせながら色紙を眺める柾彦に、日乃本 義が声を掛けた。
「まじで!枡席って結構高い席だろ。ああ、でもどうせなら……」
「どうせなら?」
柾彦は少し躊躇いながら、日乃本 義を見た。
「溜席で、観てみたい……。
自分のぶんは、ちゃんとバイトとかして出すからさ」
日乃本 義は困ったように笑うと、柾彦の頭を撫でた。
「柾彦のお願いは何でも聞いてあげたいけど、これは難しいかな。
溜席は力士が投げ飛ばされてくる可能性があるし、それで怪我をした時の保障もない。
僕の大事な婚約者に怪我のリスクを負わせる訳にはいかないからね。
かわりに僕の廻し姿なら、かぶりつきで見せてあげられるけど」
「なんだよ。お前も、自前の廻し持ってるのか?」
最後の一言が正気の沙汰ではないのを理解しつつ、気になったので訊いてみると、
「持ってるよ。見るかい? 柾彦になら不浄負けしても構わないよ」
日乃本 義はそれこそ不浄な笑みを、柾彦に向けた。
「……いらない。俺の不戦敗でいいから絶対見せんな。って、服!ここで脱ぐな‼︎」
日乃本 義は不要だと言ったのに廻し姿になるつもりなのか。徐にスーツを脱ぎ始めた。
「なんでよ、ここ僕の部屋だし。私服に着替えるんだよ」
日乃本 義はキョトンとしながらスーツを順番に脱いでいくと、乱暴にソファーのほうに放っていった。
「シワがつくだろ、ハンガーどこだ!」
柾彦は近くに適当なハンガーを見つけると、苛々しながら慣れた手つきでスーツの形を整え、ハンガーに掛けた。
「柾彦様はしっかりしていらっしゃいますね。
義様、本当にいいお相手を見つけられましたな」
桃山が目を細めながら言うと、
「人を見る目に関しては、自信があるからね。
早く成人して、柾彦にいろいろとお世話してもらう日が待ち遠しいよ」
日乃本 義は柾彦を見て、満足げに微笑んだ。
柾彦はスーツを掛けたハンガーを片手に怒鳴った。
「自分の身の周りの事くらい、自分でしろ‼︎」
※お知らせ
いつもハートやしおり、お気に入り登録などありがとうございます。
新しい作品をアップしており、只今そちらの更新が優先となっております。
シリアスの欠片もないふざけた作品ですが(こっちもそうか)、作者のページから飛べますので、宜しければ是非暇つぶしに読んでいただけると嬉しいです!
ちなみに不浄負けとは、マワシが解けてアレが見えてしまう反則負けの事です。
時は少し遡り、選定会後の日乃本家・皇宮。
柾彦は日乃本 義の自室に招かれていた。
日乃本 義の部屋は広い和洋室だった。書斎とリビングと、普通の男子高校生の部屋が一つに合わさったような不思議な空間である。
柾彦は、当たり前だが自分の六畳しかない部屋とは随分と違うものだな、と興味津々に部屋の中を見回した。
「柾彦、そこのベッドに腰掛けていいよ」
日乃本 義に二人は寝れそうなサイズのベッドへと促されたが、柾彦は近くにあったソファーに腰掛けた。
「ベッドにって、言ったじゃないか」
「ソファーがあるんだから、こっちでいいだろ」
日乃本 義は少し不服そうな表情で柾彦のすぐ隣に座ると、同じく部屋にいる桃山と栗山に手を払うジェスチャーをしてみせた。
「お前たちはもう帰っていいよ」
「いい訳ないでしょ。義様、俺達が居なくなったら百二十パーセント、柾彦様に変な事するでしょ」
桃山が指摘すると、栗山も首を縦に振った。
「俺も桃山さんと栗山さんに居てほしいです。
こいつは信用できない」
日乃本 義は「ひどい」と言って演技がかった哀しい顔をしたが、柾彦はそれを無視した。
「まあ……僕が成人する今月末までの辛抱か」
日乃本 義は目を瞑ると、大袈裟にため息をついた。
「今月末って……お前、誕生日いつ?」
「十月の三十一日だよ。柾彦、祝ってくれるのかい?」
日乃本 義がぱあっと顔色を明るくする一方で、柾彦は複雑な表情を見せた。
「まじか……誕生日一緒なんだな」
日乃本 義は恍惚とした笑みを浮かべると、興奮気味に語った。
「誕生日まで一緒だったなんて…!やはり、僕達は運命だったんだね」
「いや、同じ誕生日の奴なんて他にもごろごろ居るだろ」
運命とやらを否定するように言うと、日乃本 義が柾彦の両手を取った。
「自分の誕生日がこの日で良かったと、生まれて初めて思ったよ。
柾彦、僕が成人して、君が二十歳の節目を迎えるその日は盛大にお祝いしよう」
「お、おう……」
柾彦が食い気味に提案する日乃本 義に気圧されて答えると、彼は満面の笑みを見せた。
「そして、二人で情熱的な夜を過ごそう」
「帝国シリーズ(※プロ野球の頂上決戦)の観戦にでも連れてってくれんのか?ありがとな」
「貴賓席でよければ押さえてあげる。遠征する事になりそうなら、大事な初夜を過ごすのに相応しいホテルのスイートを予約しておかないといけないね」
はぐらかしたつもりが、すっかり軌道修正されてしまった。
「初夜って、お前……っ、一体何するつもりだよ!」
「柾彦の方が歳上なんだし、わかってるくせに。
……今から予行演習しとくかい?」
ああ言えばこう言う、日乃本 義は実に憎たらしい。
絶対にしない、本番が訪れる日もないと思っとけ。そう言ってやろうと思ったタイミングで、栗山が「柾彦様が困っていらっしゃいますよ」と 、日乃本 義に声を掛けた。その隙に、柾彦は彼に握られていた手を振り解いた。
「日乃本 義、お前が相撲好きなのって本当だったんだな。
いろんなコレクター品があるみたいだけど、お前の言ってた舞の浪の手形入りサイン色紙、どこだよ」
栗山を睨みつける日乃本 義の気を逸らそうと、柾彦はソファーから立ち上がって訊ねた。
日乃本 義は「確かに、君に見せる約束をしていたね」と言ってソファーから立ち上がると、整然と並ぶ同じサイズの額縁の一つを取り外して、柾彦に見せた。
「これだよ」
「おおっ……!」
見覚えのあるサインの横には、力強い朱色の手形がある。
柾彦は額越しに、舞の浪の手形と自身の手を重ねた。小兵とはいえ、やはり自分の手より大きい。
柾彦の胸は、静かな感動に沸き立った。
日乃本 義の部屋には他にもたくさんの力士のサインや手形の色紙が飾られていた。現横綱の凱鵬のものや、おそらく日乃本 義が推していると思われる南富士に至っては、手形とサインの他に、『ヒツジ』の姿でのツーショット写真も飾られていた。
「柾彦、十一月の本場所が始まったら枡席の最前列を取ってあげるから、一緒に観に行こう」
目を輝かせながら色紙を眺める柾彦に、日乃本 義が声を掛けた。
「まじで!枡席って結構高い席だろ。ああ、でもどうせなら……」
「どうせなら?」
柾彦は少し躊躇いながら、日乃本 義を見た。
「溜席で、観てみたい……。
自分のぶんは、ちゃんとバイトとかして出すからさ」
日乃本 義は困ったように笑うと、柾彦の頭を撫でた。
「柾彦のお願いは何でも聞いてあげたいけど、これは難しいかな。
溜席は力士が投げ飛ばされてくる可能性があるし、それで怪我をした時の保障もない。
僕の大事な婚約者に怪我のリスクを負わせる訳にはいかないからね。
かわりに僕の廻し姿なら、かぶりつきで見せてあげられるけど」
「なんだよ。お前も、自前の廻し持ってるのか?」
最後の一言が正気の沙汰ではないのを理解しつつ、気になったので訊いてみると、
「持ってるよ。見るかい? 柾彦になら不浄負けしても構わないよ」
日乃本 義はそれこそ不浄な笑みを、柾彦に向けた。
「……いらない。俺の不戦敗でいいから絶対見せんな。って、服!ここで脱ぐな‼︎」
日乃本 義は不要だと言ったのに廻し姿になるつもりなのか。徐にスーツを脱ぎ始めた。
「なんでよ、ここ僕の部屋だし。私服に着替えるんだよ」
日乃本 義はキョトンとしながらスーツを順番に脱いでいくと、乱暴にソファーのほうに放っていった。
「シワがつくだろ、ハンガーどこだ!」
柾彦は近くに適当なハンガーを見つけると、苛々しながら慣れた手つきでスーツの形を整え、ハンガーに掛けた。
「柾彦様はしっかりしていらっしゃいますね。
義様、本当にいいお相手を見つけられましたな」
桃山が目を細めながら言うと、
「人を見る目に関しては、自信があるからね。
早く成人して、柾彦にいろいろとお世話してもらう日が待ち遠しいよ」
日乃本 義は柾彦を見て、満足げに微笑んだ。
柾彦はスーツを掛けたハンガーを片手に怒鳴った。
「自分の身の周りの事くらい、自分でしろ‼︎」
※お知らせ
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新しい作品をアップしており、只今そちらの更新が優先となっております。
シリアスの欠片もないふざけた作品ですが(こっちもそうか)、作者のページから飛べますので、宜しければ是非暇つぶしに読んでいただけると嬉しいです!
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