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日乃本 義に手を出すな 番外篇
番外篇 壱 ソシャゲと例のスイッチ 前
しおりを挟む「おい、日乃本 義!」
日乃本家、もとい皇宮へと向かうリムジン車の中、柾彦は憤りを露わにした。
「どうしたの?柾彦」
日乃本 義に送ったフレンド申請は、当然のように承認はされたのだが……。
「なんなんだよ、このHNは!」
日乃本 義のハンドルネームは、『he' sempai』から『柾彦の旦那♡』に変更されていた。
「この方が、柾彦の目に留まると思って♡」
「思って♡、じゃねえよ、気持ち悪いな。
それに俺はお前の嫁じゃない」
日乃本 義はやれやれ、と言わんばかりに肩をすくめた後、再びスマートフォンを弄ったかと思うと、
「じゃあ、僕がお嫁さんになればいいんだね?」
と言ってにっこりと笑った。
柾彦があらためてスマートフォンの画面を見ると、嫌な予感通り、今度は『柾彦の嫁♡』に変更されていた。くそが。
「HN元に戻さないとフレンド削除するぞ」と脅したところで、渋々日乃本 義は柾彦のなんとかシリーズから離れてくれた。
日乃本 義の所持キャラクターは、金にものを言わせているだけあって中々豪華だった。動画配信している有名なプロゲーマー並か、もしかするとそれ以上かもしれない。
しかし、
「おい、なんでこのタイミングでアフロディーテのスキルが発動しないんだよ! ちゃんとレベルマにしてんのか⁉︎」
「ぴえん」
日乃本 義はガチャでお目当てのキャラクターを当てたらそれで満足するタイプらしく、育成がろくに行われていないキャラクターが保管庫の中にちらほら散見された。勉強しようと思って、参考書だけ買って満足する奴と一緒だ。
あと立ち回りもあまり上手ではなさそうだ。今のところ、日乃本 義の札束ぶん殴りデッキよりも、柾彦の無課金デッキで倒した雑魚の方が多い。
「日乃本 義、これ終わったら一緒に育成クエスト回るぞ」
柾彦がスマートフォンを操作しながら声を掛けると、
「それならレベリングアイテム買っちゃえばいいよ」
と、日乃本 義は宣った。
「馬鹿野郎、アフロディーテは育成クエストでちゃんとレベルマにできる。俺は金で何でも解決しようとする奴は嫌いだ」
柾彦が一瞬スマートフォンから視線を外して日乃本 義を睨むと、
「それって、レベルマになるまで柾彦が一緒に回ってくれるって事だよね?」
日乃本 義は目を輝かせて喜んだ。
「はぁ?俺のほうのレベリングが終わったらお前一人で行けよ」
と慌てて否定するが、
「義様、柾彦様が面倒見の良い御方でよかったですね」
桃山が揶揄うように、横槍を入れてきた。
「うん、それに僕と違って金銭感覚がしっかりしている。素晴らしい婚約者だよ」
褒められているはずなのに全く嬉しくない。そして日乃本 義は自身の金銭感覚がいかれている自覚はあるようだ。
「だから、婚約者じゃない」
「先刻電話上ではあるけど、君の御両親にもご挨拶をしたし、もう支度金も手配する準備をしているんだけどね」
「……金で何でも解決しようとする奴は嫌いだ!」
支度金が支払われたら、おそらく両親は自分達のぶんを僅かに残した上で、残りを兄や妹、そして布留川村の人々に還元するつもりだろう。
壱億という大金が自分に掛けられている事を思うと、柾彦はこれ以上、婚約者ではないと強く言えなかった。
支度金の話に気を取られていたら、ボスに攻撃を仕掛けられて柾彦のデッキはあっけなく全滅した。
「ああっ!お前のせいで死んだ!日乃本 義‼︎」
「僕のせいじゃないでしょ。ここは柾彦が状態異常無効を掛けるべきところだった」
日乃本 義の指摘は実に的確で、柾彦は言葉を詰まらせた。
「まあ俺が死んだから、お前も時間の問題だな。せいぜい頑張れよ」
悔し紛れに柾彦が日乃本 義に憎まれ口を叩くと、日乃本 義は「柾彦が応援してくれたから頑張るね」と言うなり真剣な顔つきになり、先ほどのグダグダなプレイとは打って変わり、本来二人で倒す予定だったボスを、限られたヒットポイントとスキルで器用に倒してみせた。
「……は?なに?お前、ゲームの実力も嘘ついてたわけ?」
柾彦は目元をひくつかせながら、満面の笑みでクリア画面を見せる日乃本 義を睨みつけた。
「やだなあ、僕は君に嘘はつかないって、言ったじゃないか。
ちゃんと育成しきれてないのは柾彦の言う通りだし、道中の敵を殆ど倒さなかったのは、クリア時の加点がなるべく君に付くようにと思っての事だ。
せっかくいい感じだったのに、まさかあのタイミングで死んじゃうとはね」
「……」
柾彦は痛いところを突かれて、苦々しい表情で押し黙った。
嘘はついていない。しかし日乃本 義がこちらに提示する真実のカードは、出す種類や枚数を変える事によって意図的に印象操作が行われているのだ。
柾彦の考えを見透かしたかのように、運転席の栗山が口を開いた。
「義様は確かに、嘘はお吐きになりませんが、その伝え方には関心致しかねますね。
本日の、スイッチの三択問題然り。全て実在するとはいえ」
「ちょっと待って」
青ざめた顔の柾彦が栗山の会話を止めて、恐る恐る日乃本 義のほうを見た。
「えーと、……日乃本 義。
もしかして、お前の言ってたシャンデリアとテーブルのスイッチって、実際に存在してるのか……?」
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