28 / 35
日乃本 義に手を出すな 番外篇
番外篇 壱 ソシャゲと例のスイッチ 前
しおりを挟む「おい、日乃本 義!」
日乃本家、もとい皇宮へと向かうリムジン車の中、柾彦は憤りを露わにした。
「どうしたの?柾彦」
日乃本 義に送ったフレンド申請は、当然のように承認はされたのだが……。
「なんなんだよ、このHNは!」
日乃本 義のハンドルネームは、『he' sempai』から『柾彦の旦那♡』に変更されていた。
「この方が、柾彦の目に留まると思って♡」
「思って♡、じゃねえよ、気持ち悪いな。
それに俺はお前の嫁じゃない」
日乃本 義はやれやれ、と言わんばかりに肩をすくめた後、再びスマートフォンを弄ったかと思うと、
「じゃあ、僕がお嫁さんになればいいんだね?」
と言ってにっこりと笑った。
柾彦があらためてスマートフォンの画面を見ると、嫌な予感通り、今度は『柾彦の嫁♡』に変更されていた。くそが。
「HN元に戻さないとフレンド削除するぞ」と脅したところで、渋々日乃本 義は柾彦のなんとかシリーズから離れてくれた。
日乃本 義の所持キャラクターは、金にものを言わせているだけあって中々豪華だった。動画配信している有名なプロゲーマー並か、もしかするとそれ以上かもしれない。
しかし、
「おい、なんでこのタイミングでアフロディーテのスキルが発動しないんだよ! ちゃんとレベルマにしてんのか⁉︎」
「ぴえん」
日乃本 義はガチャでお目当てのキャラクターを当てたらそれで満足するタイプらしく、育成がろくに行われていないキャラクターが保管庫の中にちらほら散見された。勉強しようと思って、参考書だけ買って満足する奴と一緒だ。
あと立ち回りもあまり上手ではなさそうだ。今のところ、日乃本 義の札束ぶん殴りデッキよりも、柾彦の無課金デッキで倒した雑魚の方が多い。
「日乃本 義、これ終わったら一緒に育成クエスト回るぞ」
柾彦がスマートフォンを操作しながら声を掛けると、
「それならレベリングアイテム買っちゃえばいいよ」
と、日乃本 義は宣った。
「馬鹿野郎、アフロディーテは育成クエストでちゃんとレベルマにできる。俺は金で何でも解決しようとする奴は嫌いだ」
柾彦が一瞬スマートフォンから視線を外して日乃本 義を睨むと、
「それって、レベルマになるまで柾彦が一緒に回ってくれるって事だよね?」
日乃本 義は目を輝かせて喜んだ。
「はぁ?俺のほうのレベリングが終わったらお前一人で行けよ」
と慌てて否定するが、
「義様、柾彦様が面倒見の良い御方でよかったですね」
桃山が揶揄うように、横槍を入れてきた。
「うん、それに僕と違って金銭感覚がしっかりしている。素晴らしい婚約者だよ」
褒められているはずなのに全く嬉しくない。そして日乃本 義は自身の金銭感覚がいかれている自覚はあるようだ。
「だから、婚約者じゃない」
「先刻電話上ではあるけど、君の御両親にもご挨拶をしたし、もう支度金も手配する準備をしているんだけどね」
「……金で何でも解決しようとする奴は嫌いだ!」
支度金が支払われたら、おそらく両親は自分達のぶんを僅かに残した上で、残りを兄や妹、そして布留川村の人々に還元するつもりだろう。
壱億という大金が自分に掛けられている事を思うと、柾彦はこれ以上、婚約者ではないと強く言えなかった。
支度金の話に気を取られていたら、ボスに攻撃を仕掛けられて柾彦のデッキはあっけなく全滅した。
「ああっ!お前のせいで死んだ!日乃本 義‼︎」
「僕のせいじゃないでしょ。ここは柾彦が状態異常無効を掛けるべきところだった」
日乃本 義の指摘は実に的確で、柾彦は言葉を詰まらせた。
「まあ俺が死んだから、お前も時間の問題だな。せいぜい頑張れよ」
悔し紛れに柾彦が日乃本 義に憎まれ口を叩くと、日乃本 義は「柾彦が応援してくれたから頑張るね」と言うなり真剣な顔つきになり、先ほどのグダグダなプレイとは打って変わり、本来二人で倒す予定だったボスを、限られたヒットポイントとスキルで器用に倒してみせた。
「……は?なに?お前、ゲームの実力も嘘ついてたわけ?」
柾彦は目元をひくつかせながら、満面の笑みでクリア画面を見せる日乃本 義を睨みつけた。
「やだなあ、僕は君に嘘はつかないって、言ったじゃないか。
ちゃんと育成しきれてないのは柾彦の言う通りだし、道中の敵を殆ど倒さなかったのは、クリア時の加点がなるべく君に付くようにと思っての事だ。
せっかくいい感じだったのに、まさかあのタイミングで死んじゃうとはね」
「……」
柾彦は痛いところを突かれて、苦々しい表情で押し黙った。
嘘はついていない。しかし日乃本 義がこちらに提示する真実のカードは、出す種類や枚数を変える事によって意図的に印象操作が行われているのだ。
柾彦の考えを見透かしたかのように、運転席の栗山が口を開いた。
「義様は確かに、嘘はお吐きになりませんが、その伝え方には関心致しかねますね。
本日の、スイッチの三択問題然り。全て実在するとはいえ」
「ちょっと待って」
青ざめた顔の柾彦が栗山の会話を止めて、恐る恐る日乃本 義のほうを見た。
「えーと、……日乃本 義。
もしかして、お前の言ってたシャンデリアとテーブルのスイッチって、実際に存在してるのか……?」
75
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形
新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜
若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。
妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。
ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。
しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。
父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。
父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。
ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。
野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて…
そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。
童話の「美女と野獣」パロのBLです

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる