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日乃本 義に手を出すな
弐拾肆
しおりを挟む会話の内容を聞いていた桃山と栗山が、「お車の準備をして参ります」と言って会場を出て行った。
外堀を完全に埋められ、逃げ道を完全に塞がれた。
柾彦が途方に暮れていると、
「ねえ、柾彦……この男、誰?」
日乃本義が険しい顔つきで、スマートフォンの待受画面に映る、柾彦の隣で笑う男を指差した。
「ああ、長谷川の事?こいつ、俺の幼馴染。……でもって、ある意味俺がここに来るに至った元凶」
柾彦はスマートフォンを一瞥すると、ぶっきらぼうに答えた。
「木綿子さんの、好きな人か」
「そういうこと。木綿子が俺のスマホ見るたびに挙動不審になるのが面白くてこれにしてたけど、そろそろ変えるかな。
っていうかいい加減、返せよ」
柾彦は手を差し出して、スマートフォンの返却を催促した。
「……面白くないね。この男の、君を見る目」
日乃本 義は何やら小声で呟くと、スマートフォンに向かって決め顔を作り、慣れた手つきで操作した後、柾彦にそれを手渡した。
柾彦は戻ってきたスマートフォンを見るなり、げんなりとした声を挙げた。
「うわ……」
嫌な予感通り、待受画面は日乃本 義の自撮り画像に挿げ替わっていた。
「なんだよ、これ」
「僕だよ♡」
「そんなの、見りゃわかる。なんで変えんだよ」
「柾彦が言ってたじゃないか。待受、そろそろ変えようかなって。だから変えといてあげたよ」
「………」
柾彦は問答無用で日乃本 義の画像を削除すると、
「酷いじゃないか」
「非道いのはどっちだよ、人のスマホ勝手に弄りやがって。
待受、これでいいだろ」
待受画面をプリセットの無地のものに変えた。
日乃本 義は、不服そうな表情を見せたが、「まあ、いいか」と口を尖らせながら零した。
「……なに、お前。長谷川に嫉妬したの?」
柾彦が訊ねると、日乃本 義が頷いた。
「自分の婚約者が、他の奴と楽しそうに笑っているのを、何とも思わないとでも?」
「何言ってんだ?長谷川は男だぞ」
「僕だって、男だ」
日乃本義は髪をくしゃりとすると、眉間に皺を寄せながら、柾彦をじっと見つめた。
「君の事になると、こんなに余裕がなくなるんだな。
……どうしたら、君は僕の方を向いてくれる?
僕を、翻弄しないでくれ」
柾彦は、日乃本 義の言葉に怒りを露わにした。
「翻弄ってなんだよ……。
そんな事言ったら、先に俺の事、翻弄したのはお前だろ⁉︎
俺なんかとは縁遠い東喬でも、心を許せる友人が出来たと思って、嬉しかったのに!
この……『ヒツジ』の皮を被ってた、嘘つきオオカミめ……‼︎」
「嘘じゃない!」
切羽詰まった声で、日乃本 義が叫んだ。
「僕は、嘘つきの狼じゃない……。
世間ではさも煌びやかに取り沙汰されているけれど、本当は、君と話していた時のような、在り来たりな、少しマイナーなゲーム好きの、好角家なんだ。
視力が悪いのも本当だ。あそこまで度の強いものではないけれど、家では眼鏡を掛けている。
君に『ヒツジ』という名を付けて貰った事に悪い気がしなくて……正体を明かすまで否定しなかったのは、悪かった。
けれど、『ヒツジ』…いや、『日乃本 義』は、全てを見せていなかっただけで、君に嘘を吐いた事は、一度もないよ」
柾彦は、『ヒツジ』の言動を思い返した。
『お見事。……アイム・ア・シープ』
あれは偽りの自己紹介ではなく、アナグラムの正答を述べただけだったのだと、今になって気が付いた。
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