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日乃本 義に手を出すな
弐拾壱
しおりを挟む柾彦は目を丸くしながら、日乃本 義と第二皇子を交互に眺めた。
髪型や服装こそ違うが、同じ顔、同じ背丈が二つ並んでいる。
「双子……?」
もしかして、日乃本 義は二人いるのか?
「ちゃうちゃう」
第二皇子のほうが手をぱっぱっと振ると、耳下からべりべりと、『顔』を剥がし始めた。
「ひっ」
柾彦が思わず小声で叫ぶと、第二皇子の『顔』の下からは、骨格は似ているがあっさりとした顔つきの男が顕れた。
「婚約者様、ちょっとぶりですね。
俺は、そこのおませな高校生の忠実な僕、桃山です。
何卒、よしなに」
桃山は特殊メイクと思しき『顔』のマスクをゆさゆさと振りながら、柾彦に向かってからりと笑ってみせた。
「あ、どうも……柊柾彦です。
日乃本 義の婚約者になった覚えはありませんが……茨樹にあります柊男爵家の、次男です」
柾彦はぺこりと頭を下げ、
「あの、さっき窓から飛び降りてたと思うんですけれども……お怪我は、ありませんか?
救急車呼んだりとか、その、病院とか…行かなくて大丈夫ですか?」
桃山の全身を一瞥すると、心配そうに訊ねた。
「ああー!あんなん全然、屁でもないですよ。そのまま近くにあった塀にひょい、と飛び移っただけなんで。
柾彦様はお優しいなァ。お気遣い頂きまして有り難う御座います。
しっかし義様、無理矢理接吻なんてしようとするから。すっかり嫌われてしまいましたね!」
たはははは!と豪快に笑いながらマスクを片付ける桃山を、日乃本 義が睨みつけた。
「桃山、図に乗るなよ」
「さぁせんw」
「……なんか、さっき会場に居た時と雰囲気が違いますね」
呆気に取られつつも柾彦が桃山に話しかけると、日乃本 義が口を開いた。
「選定会中は一言も喋るな、と僕が釘を刺しておいたからね。喋るとこうやってぼろが出るから」
「だから喋ってなかったでしょう?女の子達がずっと話し掛けてくれてたから、終始ニコニコしてるだけで何とかなりましたわ。
そうだ。柾彦様、みてみて」
そう言って桃山が革靴を脱ぐと、身長がガクンと低くなった。
「??? えっ?」
「これ、シークレットシューズなんです。
俺の方が義様より七センチ低いから、こうやって同じ背丈にしてるの。
ちなみに座高は一緒なんだけど、これを履いてると膝の位置がちょーっとばかし上になるから、本物と並んだら微妙な違和感に気付けますよ」
桃山は、俺もスタイル悪い方じゃないんですけどね、と笑いながら革靴の内側を見せてくれた。成程、確かに靴の内側が妙な盛りあがり方をしている。
柾彦が感心しながら革靴の中を覗き込んでいると、
「だから今回は栗山にやってもらいたかったんだ」
と言って、日乃本 義が溜息を吐いた。
「栗山は喧しい女が苦手ですからね。まあガキんちょ相手でしたし、今回は俺で十分だったでしょ」
「…栗山さんって、あの、司会やってた人も、お前の影武者…ってやつなのか?」
そういえば先程から、栗山の姿が見えない。
柾彦が日乃本 義に訊ねると、
「それは……、この後僕の家に着いてから、ゆっくり教えてあげる」
彼は口元に人差し指を立てて、不敵な笑みを浮かべた。
――そうだった。俺はこの後、日乃本 義の家に行くと約束してしまっていた。
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