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日乃本 義に手を出すな
弐拾弐
しおりを挟む「義様、大変お待たせ致しました。
柾彦様のお荷物を持って参りました」
噂をすれば、栗山が柾彦の鞄を持って会場内に戻ってきた。
「ありがとうございます」
柾彦が礼を言い、栗山から鞄を受け取ろうとすると、何故かそれは日乃本 義へと渡された。
「栗山、ご苦労」
「え、なんで?」
「これから僕の家に行くんだから、荷物は僕が持ってあげる」
日乃本 義が嬉々とした表情で、柾彦の鞄を持った。そして、
「ああ、これは返してあげるよ。麻酔銃」
と言って、デジタル腕時計をぽい、と柾彦に寄越した。
……本当に麻酔銃が付いていたら、今すぐにでもその頸に打ち込んでやりたいところだ。
苦々しい表情でそれを受け取った柾彦は、何とかして自宅に帰る方法を考えた。
『帰りもあまり遅くならないようにするのよ?新幹線使わないといけなくなるから』
出掛ける前に絹枝に言われた事をふと思い出し、腕時計を着けながら、日乃本 義に声を掛けた。
「そういや俺、家族から今日はあまり遅くならないようにって言われてたから、やっぱ帰るわ」
駄目元だったが、
「そうだったの?」
と、意外にも日乃本 義からは説得の余地がありそうな反応が返ってきた。
「ああ、えっと、その……家庭の事情で」
新幹線代をケチるため、とは恥ずかしくて言えないので適当に濁す。
「御家庭の事情なら仕方ないね」
諦めてくれたようで柾彦がほっと息をついたのも束の間、
「ではこれから、君の御両親に電話で確認を取ろう!」
日乃本 義は柾彦の鞄から、スマートフォンを取り出した。
「‼︎ 俺のスマホ」
栗山から何やら耳打ちをされた日乃本 義が柾彦のスマートフォンをトトトト、と指で叩くと、待受画面がメインメニューへと切り替わった。
「ちょっと、勝手にアンロックするなよ! 返せ‼︎」
柾彦がスマートフォンに手を伸ばすと、日乃本 義はひょいとスマートフォンを柾彦の手が届かない高さに掲げて、柾彦を見下ろした。
「それなら、パスコードを零四つになどしておくべきではなかったね」
日乃本 義は柾彦の電話帳の『親父』と書かれたアイコンをタップすると、テレビ電話の画面を起動して、発信ボタンを押した。
「おい、勝手に電話するな!」
柾彦が日乃本 義に飛び掛かろうとしたが、桃山に「どうどう」と両手を押さえつけられ、身動きの取れない状態にされてしまった。
六、七コール目くらいで、
『もしもし?柾彦?? これテレビ電話になってるよ』
のんびりとした竹彦の声が聞こえてきた。
「テレビ電話で、合ってますよ」
日乃本 義がスマートフォン越しの竹彦に答えた。
『えっ どちら様⁉︎
柾彦、無事なの? ぴよこりん饅頭は⁉︎』
竹彦は一体、自分とぴよこりん饅頭、どちらの心配をしているのか。柾彦は少しムッとした。
「ぴよこりん饅頭…とは、東喬銘菓のぴよこ饅頭のことで合っておりますでしょうか?
何やら中部圏の大変デリケートな洋菓子と名前が混ざっているようなのですが、ご希望でしたら明日までに両方手配致しますね、お義父様」
「なにが『お義父様』だ、日乃本 義‼︎」
柾彦が思わず反応すると、
『あれ、柾彦⁉︎ ちょっと待って、えっ、この人……というか、こちらの御方は……?』
「はじめまして、お義父様。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。
この度正式に柾彦様との婚約が決まりました、日乃本帝国第二皇子の、日乃本 義と申します。
本日は取り急ぎ、お電話でのご挨拶となります事、お赦し下さい」
日乃本 義はまさに皇子様の微笑みを湛えながら、竹彦に自己紹介をした。
『え…婚約? 柾彦が……? ひ、日乃本…義、様と……?』
電話越しにあからさまに動揺した竹彦の声が聞こえてきたかと思うと、ビタン、という衝撃音のあとに、『あなた、どうしたの?』やら『キャーッ、お父さまッ』という声が微かに入り込んできた。
竹彦はどうやら、あまりの衝撃的な出来事に気を失って倒れてしまったようだった。
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