16 / 35
日乃本 義に手を出すな
拾肆
しおりを挟む
会場に戻ると、相変わらず第二皇子の周りには令嬢達がたくさん集まっていた。
こんなに人数が密集しているテーブルあったか?と柾彦は思ったが、おそらくずっと皇子にくっ付いてまわっている、マナー違反がいるせいだと直ぐに察した。
ビュッフェのテーブルに向かう途中、何人かの令嬢に冷たい視線を向けられたが、今はヒツジが隣にいる。集団の中で孤立していないという安心感から、息苦しさを感じなくなっていた。
「ヒツジ、ここのビュッフェでおすすめの料理、ある?」
ヒツジは料理を眺め見ると、少し遠くの方を指し示した。
「あそこにある、鰻なんてどうかな。
職人が小骨を一本一本、丁寧に抜いてあるから非常に柔らかくて食べやすいんだ。
柾彦はお腹を壊していたみたいだし、茶漬けにしてもらうといいよ」
「なんか……めっちゃ詳しくない?」
「食べた事があるからね」
ヒツジがにっこりと笑った。
彼の勧め通りに鰻を茶漬けにしてもらい、元々居たテーブルに戻ると、まだ皿は片付けられていなかった。
「よかった。まだあったわ、イクラ」
「イクラ?」
柾彦は小さなカクテルグラスに入ったそれを、ヒツジに見せた。
「これ」
「イクラって……もしかして、キャビアの事かい?」
ヒツジが震え声で訊いた。
「キャビアっていうのか、これ、どうやって飲むんだ?グラスに入ってるけど」
「あっはははは‼︎」
突如、ヒツジが声をあげて笑い出した。
柾彦はすぐに自分が頓珍漢な事を言ったのだと気付き、赤面した。
「仕方ないだろっ……こんなん、見た事も食べた事もないんだから」
「っは……ごめんね、柾彦。
これはキャビアといって、チョウザメの卵を塩漬けにしたものだよ。とても塩辛いからそのまま飲んだら駄目だ」
ヒツジは笑いを噛み殺しながら「ちょっと待ってて」と言うと、薄くスライスされたバゲットと、クラッカーを持ってきた。
「これに適量を付けて食べるんだよ」
ヒツジは小さめのスプーンでキャビアをバゲットに乗せると、
「はい柾彦、あーん」
柾彦の口元に近づけた。
「えっ、ちょっ、自分で食べれるって」
「いいから。ほら」
少し水分の抜けたバゲットが柾彦の唇に当たり、柾彦は仕方なく口を開いた。
「!」
「どう?」
「……しょっぱい。イクラの方が美味い」
「僕はいつもこのくらい乗せて食べるんだけどな」
ヒツジが楽しそうに笑っている。
「貧乏舌で悪かったな」
柾彦が毒づくと、ヒツジには「高級なものより、普段食べ慣れているものの方が美味しいと思うのは極めて普通の感覚だよ」と、笑いを堪えた様子で返された。
イクラだって、滅多に食べないのだが…と柾彦は心の中で、ヒツジに突っ込みを入れた。
ヒツジはまだ笑いが収まらない様子だったので、こうなったら徹底的に笑わせる事にした。
柾彦はヒツジの肩をちょいちょい、と叩くと、渾身の変顔を披露した。
ヒツジは「ぶっ」と吹き出すと、
「なにその顔…っ、柾彦、超可愛いんだけど…!」
顔を真っ赤にして、小刻みに震えながら蹲った。
可愛いは心外だぞ、と思っていると、
「皆様、静粛に」
司会と思しき男声のアナウンスが、会場内に響き渡った。
こんなに人数が密集しているテーブルあったか?と柾彦は思ったが、おそらくずっと皇子にくっ付いてまわっている、マナー違反がいるせいだと直ぐに察した。
ビュッフェのテーブルに向かう途中、何人かの令嬢に冷たい視線を向けられたが、今はヒツジが隣にいる。集団の中で孤立していないという安心感から、息苦しさを感じなくなっていた。
「ヒツジ、ここのビュッフェでおすすめの料理、ある?」
ヒツジは料理を眺め見ると、少し遠くの方を指し示した。
「あそこにある、鰻なんてどうかな。
職人が小骨を一本一本、丁寧に抜いてあるから非常に柔らかくて食べやすいんだ。
柾彦はお腹を壊していたみたいだし、茶漬けにしてもらうといいよ」
「なんか……めっちゃ詳しくない?」
「食べた事があるからね」
ヒツジがにっこりと笑った。
彼の勧め通りに鰻を茶漬けにしてもらい、元々居たテーブルに戻ると、まだ皿は片付けられていなかった。
「よかった。まだあったわ、イクラ」
「イクラ?」
柾彦は小さなカクテルグラスに入ったそれを、ヒツジに見せた。
「これ」
「イクラって……もしかして、キャビアの事かい?」
ヒツジが震え声で訊いた。
「キャビアっていうのか、これ、どうやって飲むんだ?グラスに入ってるけど」
「あっはははは‼︎」
突如、ヒツジが声をあげて笑い出した。
柾彦はすぐに自分が頓珍漢な事を言ったのだと気付き、赤面した。
「仕方ないだろっ……こんなん、見た事も食べた事もないんだから」
「っは……ごめんね、柾彦。
これはキャビアといって、チョウザメの卵を塩漬けにしたものだよ。とても塩辛いからそのまま飲んだら駄目だ」
ヒツジは笑いを噛み殺しながら「ちょっと待ってて」と言うと、薄くスライスされたバゲットと、クラッカーを持ってきた。
「これに適量を付けて食べるんだよ」
ヒツジは小さめのスプーンでキャビアをバゲットに乗せると、
「はい柾彦、あーん」
柾彦の口元に近づけた。
「えっ、ちょっ、自分で食べれるって」
「いいから。ほら」
少し水分の抜けたバゲットが柾彦の唇に当たり、柾彦は仕方なく口を開いた。
「!」
「どう?」
「……しょっぱい。イクラの方が美味い」
「僕はいつもこのくらい乗せて食べるんだけどな」
ヒツジが楽しそうに笑っている。
「貧乏舌で悪かったな」
柾彦が毒づくと、ヒツジには「高級なものより、普段食べ慣れているものの方が美味しいと思うのは極めて普通の感覚だよ」と、笑いを堪えた様子で返された。
イクラだって、滅多に食べないのだが…と柾彦は心の中で、ヒツジに突っ込みを入れた。
ヒツジはまだ笑いが収まらない様子だったので、こうなったら徹底的に笑わせる事にした。
柾彦はヒツジの肩をちょいちょい、と叩くと、渾身の変顔を披露した。
ヒツジは「ぶっ」と吹き出すと、
「なにその顔…っ、柾彦、超可愛いんだけど…!」
顔を真っ赤にして、小刻みに震えながら蹲った。
可愛いは心外だぞ、と思っていると、
「皆様、静粛に」
司会と思しき男声のアナウンスが、会場内に響き渡った。
90
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話
雷尾
BL
タイトルの通りです。
高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。
受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い
攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)






僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる