【本篇完結】日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの

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日乃本 義に手を出すな

拾肆

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 会場に戻ると、相変わらず第二皇子の周りには令嬢達がたくさん集まっていた。
 こんなに人数が密集しているテーブルあったか?と柾彦は思ったが、おそらくずっと皇子にくっ付いてまわっている、マナー違反がいるせいだと直ぐに察した。

 ビュッフェのテーブルに向かう途中、何人かの令嬢に冷たい視線を向けられたが、今はヒツジが隣にいる。集団の中で孤立していないという安心感から、息苦しさを感じなくなっていた。
「ヒツジ、ここのビュッフェでおすすめの料理、ある?」
 ヒツジは料理を眺め見ると、少し遠くの方を指し示した。
「あそこにある、うなぎなんてどうかな。
 職人が小骨を一本一本、丁寧に抜いてあるから非常に柔らかくて食べやすいんだ。
 柾彦はお腹を壊していたみたいだし、茶漬けにしてもらうといいよ」
「なんか……めっちゃ詳しくない?」
「食べた事があるからね」
 ヒツジがにっこりと笑った。
 
 彼の勧め通りに鰻を茶漬けにしてもらい、元々居たテーブルに戻ると、まだ皿は片付けられていなかった。
「よかった。まだあったわ、イクラ」
「イクラ?」
 柾彦は小さなカクテルグラスに入ったそれを、ヒツジに見せた。
「これ」
「イクラって……もしかして、キャビアの事かい?」
 ヒツジが震え声でいた。
「キャビアっていうのか、これ、どうやって飲むんだ?グラスに入ってるけど」
「あっはははは‼︎」
 突如、ヒツジが声をあげて笑い出した。

 柾彦はすぐに自分が頓珍漢な事を言ったのだと気付き、赤面した。
「仕方ないだろっ……こんなん、見た事も食べた事もないんだから」
「っは……ごめんね、柾彦。
 これはキャビアといって、チョウザメの卵を塩漬けにしたものだよ。とても塩辛いからそのまま飲んだら駄目だ」
 ヒツジは笑いを噛み殺しながら「ちょっと待ってて」と言うと、薄くスライスされたバゲットと、クラッカーを持ってきた。
「これに適量を付けて食べるんだよ」
 ヒツジは小さめのスプーンでキャビアをバゲットに乗せると、
「はい柾彦、あーん」
 柾彦の口元に近づけた。
「えっ、ちょっ、自分で食べれるって」
「いいから。ほら」
 少し水分の抜けたバゲットが柾彦の唇に当たり、柾彦は仕方なく口を開いた。
「!」
「どう?」

「……しょっぱい。イクラの方が美味い」
「僕はいつもこのくらい乗せて食べるんだけどな」
 ヒツジが楽しそうに笑っている。
「貧乏舌で悪かったな」
 柾彦が毒づくと、ヒツジには「高級なものより、普段食べ慣れているものの方が美味しいと思うのは極めて普通の感覚だよ」と、笑いを堪えた様子で返された。
 イクラだって、滅多に食べないのだが…と柾彦は心の中で、ヒツジに突っ込みを入れた。
 
 ヒツジはまだ笑いが収まらない様子だったので、こうなったら徹底的に笑わせる事にした。
 柾彦はヒツジの肩をちょいちょい、と叩くと、渾身の変顔を披露した。
 ヒツジは「ぶっ」と吹き出すと、
「なにその顔…っ、柾彦、超可愛いんだけど…!」
 顔を真っ赤にして、小刻みに震えながらうずくまった。
 可愛いは心外だぞ、と思っていると、

「皆様、静粛に」

 司会と思しき男声のアナウンスが、会場内に響き渡った。




 
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