【本篇完結】日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの

文字の大きさ
上 下
15 / 35
日乃本 義に手を出すな

拾参

しおりを挟む
 ヒツジからの突然の申し出に、柾彦は少し困惑した。

「いや…特に予定はないけど、見ず知らずの奴が突然アポ無しで来たら、親御さんがびっくりするだろ」
「僕の家では、突然の来客は珍しい事ではないから、柾彦は気にしなくて良いよ」

 そうは言っても、今日知り合ったばかりの田舎者の、しかも男爵の息子風情ふぜいが手土産もなしに訪ねて大丈夫なものなのだろうか。
 柾彦が逡巡しゅんじゅんしていると、
「ちなみ僕の部屋に、まいなみ関の直筆サインと手形入りの色紙があるけど、良かったら見」
「行きます」
 推しのサイン&手形入り色紙の誘惑に即負けした。
 柾彦が食い気味に答えると、ヒツジは「じゃあ決まりね」と嬉しそうに笑った。
 
「柾彦、選定会が終わったら、車の中で一緒にドラエレやろうよ。協力プレイなら消費する体力も半分だから」
「おっ、それいいな。ちなみにリーダー何にしてんの?」
「今はランスロットにしているよ。その所為せいか、フレンド申請が結構来るんだ。柾彦は?」
「俺は…ヨシツネだったかな。
 てか、おまっ…、ランスロットって、全然出ないって噂の最新ガチャのぶっ壊れリーダーじゃん‼︎うわー、よく入手できたな」
「彼を入手するために、十五萬じゅうごまんくらい突っ込んだからね」
「じゅうご、…エグっ。金持ちのやる事は違うな…」
 
 しばらくの間、二人で選定会後の予定を話り合っていたが、
「ヒツジ、そろそろ会場に戻らないか?
 俺、まだビュッフェの料理食べたいし」
 腹の具合がすっかり良くなった柾彦は、ソファーから立ち上がると、再びビュッフェに参戦する意思を示した。
「君、さっき結構長いことこもっていなかったかい?
 でも…そうだね、戻ろう。……あ、」
 ヒツジもゆっくりとソファーから離れようとしたが、何かを思い出したように、動きを止めた。
「どうした?」
「ウォータークローゼットに忘れ物をしてしまったみたいだ。
 柾彦、先に戻ってて」
 柾彦は一瞬考えたが、
「いや、待ってるよ。俺、あそこに一人で戻るの怖いし」
 ヒツジを待つことにした。
「そうか、ごめんね。すぐ戻るから」
 そう言い残して、ヒツジはトイレへと向かっていった。

「お待たせ、柾彦」
 一分程度で、ヒツジは戻ってきた。
「全然待たされてないから、気にすんなって。
 探し物は見つかったか?」

「………うん、お陰様でね」
 ヒツジはそう答えると、微かに口角を上げた。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話

雷尾
BL
タイトルの通りです。 高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。 受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い 攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

幼なじみ祭

葉津緒
BL
親衛隊による制裁の現場で、意外な出来事が。 王道・脇役・平凡・嫌われ→?

処理中です...